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MIDNIGHT ――闇黒にもがく3

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「……返事くらいしろ」
 ぼそり、と愚痴られる。
「わ、悪い」
 思わず謝ってしまい、士郎はなぜ自分が謝らなければならないのか、と首を捻る。
「それは?」
「え? ああ、手紙。友人……だった、奴からの」
 士郎は丁寧に手紙を折って封筒に入れながら答えた。
「…………そうか」
 ベッド用のテーブルを引き寄せたエミヤは士郎の食事を置いて、お茶を注ぐ。
 話すことができるようになったものの、エミヤと会話をするのはこれが初めてだ。
 少しぼんやりしていたからか、ワグナーの手紙で気持ちが和らいだからかはわからないが、士郎は思い切って口を開いてみた。
「アーチャー」
「……………………なんだ」
 しばしの沈黙のあと、不機嫌な声が反応した。
「よかったよ、憑き物が落ちたみたいで」
「…………」
 士郎はアーチャーを見上げる。
「アーチャー?」
「……どういう、意味だ」
 憮然と吐かれた言葉に、士郎は目を瞠っていたものの、やがて、視線を落とした。
「そっか……、記憶は……ないのか……」
 エミヤが英霊で、士郎の未来の可能性であることは変わらないが、士郎と戦ったアーチャーであるとは限らない。
 もしかすると、別の次元でも英霊エミヤというものがいて、それが彼だとすると、士郎のことは、ただの己の元であり、やはり、抹殺したいという衝動に駆られる対象だ。
 そっちの方だったのか、と士郎は思わず肩を落としてしまう。
「そ――」
「い、いや、なんでもない、こっちのことだ。あ、あの、あ、ありがとな、いつも、ご飯、用意してくれて! う、動けるようになったらさ、俺、自分でできるから、その……、えっと、だな……」
 エミヤが何かを言う前に、士郎は慌てて前の言葉を取り消した。知らない、と、そんな記録はない、と、その口で言われることが、どうしてか、こわかった。
「他の者の分も作るついでだ。私が厨房を任されている以上、手間でもなんでもない」
 士郎の言葉を気にするふうもなく答えたエミヤにほっとする反面、じくじくと胸が疼く。
「あ、ああ……、そう……だな……」
「食器は後で取りに来る。きちんと食べておけ」
 エミヤは言い置いて去っていった。
「そ……か…………」
 部屋を出ていった背をちらりとだけ見送る。
 エミヤは英霊であることに迷いや懊悩を感じているようではない。聖杯戦争の時のような、何もかもに磨り切れた感じはしないし、立香に信用され、マシュが“先輩”と呼んで懐いていることから、人当たりはいいようだ。
「それでも、衛宮士郎には、並々ならない恨みっていうか、嫌悪感みたいなのがあるんだろうな……」
 士郎と戦ったことを覚えているにしてもいないにしても、自身に対する態度が義務的で、嫌々なように見えるのは当たり前だ。
 聖杯戦争の時に出会ったアーチャーは、衛宮士郎を抹消したくて仕方がない、顔を見れば、姿を認めれば、即、斬りかかってきても不思議ではない存在だった。
 今もやはりそうなのだろうと思う。だというのに、食事の世話をさせられてしまうとは、エミヤというものは、なんと不運な英霊なのかと同情してしまう。
 テーブルにのったトレイから箸を取り、手を合わせる。
「いただきます……」
 地下牢で食べた食事とあまり変わらない。独りで取る食事は、どんなに美味しいものであっても、いつも味気ないものだった。
「記憶として、残ってない……」
 ぽつり、とこぼす。
 何を残念に思っているのか。
 もしかして、昔話に花を咲かせたいなどと考えていたのだろうか、と士郎は苦笑する。
「そんなの、できるわけがないって……」
 可笑しくて笑えてくるのに、ため息が出た。



□■□Interlude TEATIME□■□

「ふう……」
「ダ・ヴィンチちゃん、どうかした?」
 ロマニ・アーキマンが温かい紅茶をダ・ヴィンチに手渡す。
「どうしたもこうしたも……、ねぇ……」
 ダ・ヴィンチは紅茶を受け取りながら、またため息をつく。
「彼のこと?」
 こく、と紅茶を飲み下し、
「彼は、いったいどこから来たんだろうねぇ」
 ダ・ヴィンチは宙を見つめて呟く。
「エミヤに訊けばいいじゃないか?」
「言いたくないんだとさ」
「そっかー」
 ロマニ・アーキマンがダ・ヴィンチと同じようなため息をこぼしたとき、
「定期検診終わったよー」
 立香が医務室に入ってくる。
「あれ? ダ・ヴィンチちゃん、こんなところにいるの、珍しいね? なになに? どうしたの?」
 壁際に置かれた椅子を引いてきて、二人の近くに寄りながら立香は首を傾げている。
「うん、彼について、ダ・ヴィンチちゃんと意見交換中」
「彼って、士郎さん?」
「立香くんは、彼と何か話した?」
「自己紹介だけだよ。あとは、マスターなんだってことを言って……。でも、エミヤが嫌みたいだから、あんまりしゃべらないようにしてるんだ。余計なことを言わないでくれって頼まれたし、約束は固く守ってる。マシュと決めたんだ。エミヤがいいよって言うまで待とうって。だから、いつも挨拶だけ」
「エミヤが嫌がる?」
「うん。嫌だとか、会わないでくれとか、はっきり言われたんじゃないけど、なんとなくそんな感じなんだ。おれも魔術のこととか聞いてみたいし、よければエミヤと何があったのかとかも知りたいんだけど、やっぱ、プライベートなことってあるからさ……。でも、士郎さんは、スタッフのみんなとも、サーヴァントとも違うでしょ? だから、なんか、いろいろ話してみたいなぁって思うんだけど、今は我慢した方がいいかなぁって」
 立香は少し残念そうに話す。
「そっか、彼は日本人だしね、話したくなるのも無理はないかもね」
「うん!」
 明るく、屈託なく答えた立香に、ダ・ヴィンチとロマニ・アーキマンはつられて笑みを浮かべた。
「あのー……、ずっと思ってたんだけど、エミヤは彼を自分の元だって言ったんだよね? どうしてわかったんだろう?」
 ロマニ・アーキマンが立香の紅茶をカップに注ぎながら首を捻る。
「そりゃ、わかるさ。自分なんだから」
 ダ・ヴィンチはカラカラと笑ったが、ロマニ・アーキマンは、うーん、と唸り、
「でもさぁ、一目見て、彼は衛宮士郎だって気づいたんだよ? そんなにすぐにわかるものかな? 過去の自分って言ったって、あんな、ありえない光景で現れたのが己の過去だなんて、普通ならすぐにわからないんじゃないかな?」
 まくしたてるように疑問をぶつける。
「でも、似てるから、わかるんじゃない?」
 立香がロマニ・アーキマンから紅茶を受け取りながら訊くが、
「だけどもさあ……」
 彼はまだ納得がいかない、と言いたいようだ。
「“元になった人間”ってだけのことじゃあないのかもしれないね。因縁があるって、言っていたんだよ、エミヤは」
 ダ・ヴィンチはエミヤとの会話を思い出しながら、静かに呟く。
「因縁?」
「自分の元ってことはもちろん、あの姿の士郎くんにエミヤは会ったことがあるんだろうね。だから、すぐにわかった、ということじゃないかな?」
「じゃあ、運命の再会ってやつ?」
 立香がワクワクしながら訊く。
「いや、因縁の再会かもしれないよ?」
 ロマニ・アーキマンが苦笑交じりに言った。