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MIDNIGHT ――闇黒にもがく4

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「ダ・ヴィンチちゃんに訊いてみようか?」
「そう……だな……」
「エミヤ?」
(なぜだ……。胸騒ぎがする……)
 頷いたものの、上の空で答えたのがわかったのか、マスターに肩を叩かれる。
「……女史の工房へ行く前に、ドクターのところへ行こう」
「え? あ、うん」
 食事をのせたトレイを持ったまま病室を出る。
「エミヤ?」
 私がやけに足早になるため、マスターは首を傾げている。
「ああ、すまない、マスターはマイルームに――」
「いや、付き合うよ。せっかくだから士郎さんと一緒に食べたいしさ」
「……なぜ、一緒に?」
「だって、一人で食べるのって、なんか寂しいじゃんか」
「あ、ああ、そうか、それなら……」
 マスターには悪いが、適当に相槌を打つ。
 なぜだか気が逸る。胸騒ぎがどんどん激しくなり、吐き気すら覚えた。
 医務室へ半ば駆け込めば、ドクターが飛び上がって驚く。持っていたコーヒーをドクターが落っことしそうになるから、咄嗟にカップを受け止めた。
「あ、エ、エミヤ、ありがとう。レイシフト、お疲れさま。えと、」
「衛宮士郎はどこだ」
 間髪入れずに訊けば、
「……。うん、こっちだよ」
 少し迷うように視線をさ迷わせたドクターは、すぐに案内してくれた。
「今、ちょっと状態が悪くてね」
 医務室から隣の部屋へと続くドアを開けるドクターに説明される。
「こっちの処置室にいてもらってるんだ」
 そこに広がる光景に、頭がついていかない。
 人工呼吸器をつけられ、計器から伸びた配線や管を身体に取り付けられ、常時バイタルサインをチェックされている状態の衛宮士郎がベッドに眠っている。これではまるで重症患者だ。
「なに、が……」
「発見した時には呼吸も鼓動も微弱でね。今はこうして、」
 ポーン、ポーン、と計器が音を鳴らしはじめた。
「おっと、まただ」
 すぐさまドクターは布団を剥ぎ、心臓マッサージをはじめる。
 その手慣れた行動が信じられない。ドクターは医者だ。心臓マッサージなど慣れていて当然だ。だが、何か……、まるで、頻繁に起きる現象に手を打っている、という慣れのようなものを感じる。
 慣れるほどこの行為を?
 心臓マッサージなどという、こんな行為を繰り返していた?
「なん……、ど、どういう、ことだ……」
「見ての、通り、だよ。彼は、生死を、彷徨ってる」
 心臓マッサージをしながら、切れ切れにドクターは答えた。
「な……」
 意味がわからない。
 生死を彷徨っている、だと?
 我々がレイシフトに向かう前は、自力で食事もできてベッドに起き上がり、話すこともできていた。
 それが、なぜ、今、生死を彷徨うことになるのだ!
 ゾッとするよりも何よりも、腹が立った。
 なぜこんなにも腹立たしいのか、理由など定かではない。
「え……、衛宮士郎! おい! 目を開けろ!」
 側にあった棚に食事ののったトレイを投げ捨てた。
「あわわ、エ、エミヤ」
 マスターが落ちそうなトレイを支えてくれたようだが、礼を言う余裕もない。さいわい、ひっくり返ることもなく、けっこうな音を立てたが、無事に食事は棚に鎮座している。
「エミヤ、何してるんだよ!」
 衛宮士郎の枕元に齧りついて頬を叩く。マスターに咎められようと勝手に動いてしまうものは仕方がない。
 何度その名を呼んで揺すっても瞼はピクリとも動かない。医療スタッフが数人入ってきて処置をはじめたが、構わず衛宮士郎を呼び続けた。
「エミヤ、大丈夫だよ、ロマンたちに任せて、隣で待とう」
 見かねたマスターに促されるまま処置室を出たが、私の動揺は収まる気配もなかった。


「なぜだ……っ」
 壁に拳をぶつけても、何も解決しないことくらいわかっている。それでも、どうにもならない苛立ちをどこかに吐き出さなければやりきれない。
 処置室からマスターとともに医務室に戻って、待つだけの時間の長さといったら計り知れない。
「言っただろう、エミヤ」
 静かな声に振り返る。
「ダ・ヴィンチ女史……」
 何がだ、とも問えずにいれば、
「ダ・ヴィンチちゃん、何を言ったの?」
 私の代わりにマスターが口を開いた。
「彼は、メンタルが弱っているよって」
「……だが、」
「身に覚えはないかい? まあ、君の留守中を任されていたこちらにも落ち度がないわけじゃない。先に謝るよ、医療スタッフの一人が口を滑らせたらしい。そのスタッフを……、君は責めるかい?」
「…………」
 確かに伏せておいてくれと、頼んだ案件だ。それをうっかりだとしても反古にされては、責めることもできる。
 だが、そのスタッフを責める資格があるのか、私に?
「…………」
 あるはずがない……。
 私は、この件に関して、誰かを責める資格など、持ってはいない。
 ダ・ヴィンチ女史の視線から逃れるように項垂れる。
(なぜ私は、棚上げになどしたのだ……)
 今さら悔やんでも仕方がないというのに、後悔がわだかまる。
(衛宮士郎は知ってしまったのだな……)
 世界が消却されていることを。
 自ら変えた未来が、己のすべてを失ってでも、と、望んだ平穏な未来が消えてしまったことを……。
「……いや、私が、もう少し、踏み出していればよかった話だ」
「そう思うのかい?」
「ああ」
「……なら、この先も君に任せた方がいいのかもしれないね」
「ダ・ヴィンチちゃん? おれもマシュも、何かできれば、」
「立香くん、彼らには深い事情があるようだから……ね?」
「深い……事情……?」
 顔を上げれば、繰り返すマスターを宥めながら、ダ・ヴィンチ女史は小さな笑みを見せている。
「我々に、君たちの事情はわからない。だから、じっくりと話し合ってほしい」
 こちらへと目を向けたダ・ヴィンチ女史はすっと目を細めた。
「彼を救えるのは、君だけだよ、エミヤ」
「救……う?」
「そうとも。君は、彼を救うんだ」
 衛宮士郎が私を救ったように、今度は私が?
「思いもしなかったって顔だね? 君に救えないものはない。なんたって、英霊(ヒーロー)じゃないか、我々は!」
 天才とも思えない陳腐なセリフだが、なぜだろう、その言葉が、すとん、と心に落ち着いた。



□■□Interlude 邯鄲□■□

「マスター、指示を!」
 セイバーの凛とした声が俺を呼ぶ。
「ちょっと衛宮くん、なぁにぼんやりしてるのよ!」
 遠坂が少し怒っているけれど、その顔には頼もしい笑みが浮かんでいる。
「あれ、完っ璧に壊すんだろ?」
「ランサー」
 赤い槍を肩に担いで、不遜に笑うランサーが示すのは、災厄のもとになった聖杯。
「あなたが言い出したのではなくて? 聖杯を壊して未来を変えるのだと」
 フードの下に見える口許を緩めたキャスターに頷く。
「いつまで呆けているつもりだ。役に立たなければ今すぐ引導を渡すぞ、たわけ」
「アーチャー……」
 俺を見る鈍色の瞳は険を帯びていても、その表情には翳りも迷いもない。
 ああ、俺は……、俺たちは、こうやって、あの聖杯を壊した……。
 反則技みたいにでたらめな宝具を持つギルガメッシュを、アーチャーとキャスターとともにしのいだ。あのとっておきの宝具はどうにか撃たせずに済んで……。
 …………楽しかった。