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逆行物語 真六部~幸福な人生~

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フェルディナンド~最期の逆さ紡ぎ~



 巻き戻った時間。私はヴェローニカ様との和解を目指した。既にジルヴェスターへ向ける情が、私の中で変化している事を感じ取ったヴェローニカ様は、あっさりと身を引き、引退を宣言された。
 その後、返されたマントと髪留めは綺麗に保管され続けていた事を教えた。常に手入れされていたと分かる髪留め、数ヵ月は掛けていただろう、精緻な刺繍入りのマント。私の想いさえ変われば、ヴェローニカ様には私を家族と認める気概があったのだと知らされる。
 私がマントを握り、その事実を噛みしめていると、ローゼマインはその刺繍をそっと撫でる。慈しむ様に。
「私…、刺繍を頑張りますね。」
 家族による刺繍から、婚約者の刺繍に変わる。私はヴェローニカ様が縫われた刺繍をそのまま引き継ぎながらも、自身が刺繍した青いマントのものとを組み合わせたデザインを頼むと、ローゼマインは握り拳で頑張ると宣言した。…優雅でないと頬をつねるのを忘れさせられた。

 予測される様々な問題に手を打つ。中には余りローゼマインには知らせない事もあるが、汚いやり方はヴィルフリートが引き受けた。
 …ヴィルフリートは一人だ。今回、ヴィルフリートは余り側近と打ち解けていない。明らかに変わりすぎたヴィルフリートに距離を取っている。ヴィルフリートに取っても、ある程度、過去を刺激するものがあるのだろう。頼ろうとせず、適当にあしらっている様だ。

 …あの様に1人にしたのは、私の責任だ。

 私は意を決し、ユストクスをヴィルフリートに着ける事にした。秘密を持ちながらでも、1人にならぬ様に。
 ユストクスは当初は驚いていた様だが、只ならぬ何かがあると分かってくれた。そうして仕えて見れば、ヴィルフリートの様々な面に気付いていったのだろう、ユストクスは楽しそうにしていた。
 そして一方…、ヴィルフリートへの罪悪感もあるが、それ以上にジルヴェスターに尽くせる事が嬉しかったのも事実だった。
「ジルヴェスター…。」
 ふとした瞬間にそれが押さえられず、ぎゅうぎゅうと抱き締めてしまう事もしばしば。私でさえこうなのだ、ローゼマインが我慢出来る訳もなく。
「お父様~♪」
 私より初期からずっとベタベタとしていた。ジルヴェスターは平民の心易さだと思い、そしてそれを喜んでいた。私が抱き付いても受け入れてくれるのはそう言う気質も関連しているのだろう。
 端から見れば、随分可笑しい事は分かっていたが、止める気は毛頭無かった。
 ヴィルフリートがその間にジルヴェスターの悪評防止として、私がジルヴェスターに懸想していた物語をしっかりと作られた。
 前回の事もある為、ヴィルフリートのその行動は読めていた。ジルヴェスターは嘆いていたが、ヴェローニカ様は寧ろ、より安心した様だし、私としては一向に構わなかった。
 それから前回…、と言うより、ローゼマインが居ない逆行回以外は全て同じ行動を取っていたが、今回は全く違う行動を取った人物がいる。

 ハルトムートだ。

 ローゼマインの側近の中で最も狂信的に支えた。便利であった反面、領地の為を考えない故、扱いがかなり難しい。今回、ハルトムートが味方にならない理由はローゼマインがヴェローニカ派閥だからだろう。
 ハルトムートは魔力に対する強い感受性と貴族として自派閥に対する強い拘りがあった。味方の派閥に属する時は使える男だったが、敵対派閥に属するなら警戒に値するだろう。
 幸い、ローゼマイン曰く反抗期らしく、大人の派閥意識を馬鹿にしている様だったので、ヴィルフリートと話し合った結果、その反抗期を続かせ、他領に行きたがる様に仕向けた。
 それを可能にした暗示はその他文官達を鍛えるのにも、大いに役立った。何せこれからエーレンフェストは飛躍するのだから、ついてこれない者に構ってられない。
 急激すぎる変化についてこれない者の方が多く、社会情勢を大きく乱す、間違った飛躍だと分かっていて、敢えて行うのだ、ついてこれない者を作らない事が寛容だ。
 ジルヴェスターは何をするのか、と言う気持ちでいた様だが、下手に能力を向上させると、考え方に変化が出るかも知れない。私はそれを恐れていた…。
 変化等、必要無い。そのままのジルヴェスターこそ、私の礎。全ての女神たるローゼマインと揃って、私の守るエーレンフェストだ。

 ヴィルフリートが成人し、ジルヴェスターからアウブを引き継いだのを期に、私の人として生をジルヴェスターに捧げた。ローゼマインと共に。

 それはとても大きな幸福だった。