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逆行物語 真六部~幸福な人生~

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ローゼマイン~最期の逆さ紡ぎ・フィリーネ~


 ヨナサーラの赤ちゃんはどうなったの…? 

 魔術具を買い取った金額は果たして妥当な値段だったのか。そうとしても、中古品しか買えない値段で果たして都合良く見付けられたのか。
 連座で処刑される筈だったヴェローニカ派の子供達の為に、魔術具を得た私をどう思っていたのか。
 
 …私、フィリーネの事しか考えていなかった…。

 私はぎゅっと拳を握り締めた。
「やはり“介入=罰する”と考えておられましたか…。」
 不意に兄様の声がした。兄様はフェルディナンドに言ったみたいだった。でも同時に私にも教えてくれていた。

 私はカッシークとヨナサーラを罰し、2人の子を連座に処したのだと。

 私は唇を噛み締めて、それから聞いた。
「兄様、もっと教えて下さい。フィリーネはどう言う立場だったのですか? 私は、介入時点から1年以上経ってからフィリーネが正式な跡取りと聞きました。介入時点では違ったのでしょうか?」
 兄様はフェルディナンドと私の両方を見比べて、そして言った。
「フィリーネが正式な跡取りとなったのは、其方が後ろ楯に付いたと見なされたからだ。」
「…つまり私がフィリーネを当主にしろと命じたも同然だったのですね…。」
 上位者の横暴だ。味方について貰えれば、心強かったかも知れないが、敵対してしまった者は破滅まっしぐら、権力でのごり押し以外何者でも無い。
「そもそも既にあの家はカッシークの物だ。テレージアの血筋に拘って考えるなら、既に潰れている。」
「え、」
「テレージアが亡くなった時、フィリーネでさえ洗礼式前だ。公式では存在しないフィリーネやコンラートを後継ぎと認定するのは不可能だ。正式な後継ぎが居ないのに、一体どうして中継ぎを認定出来る?」
 私は何も言えず、兄様を凝視した。
「カッシークはあの家の正式な当主だ。フィリーネが後継ぎ候補になれるのはカッシークの娘だからだ。そしてカッシークに第一夫人は居ない。ならば第二夫人であるヨナサーラとの間に出来た子こそ、洗礼式を迎えれば、正式な後継ぎ候補となる。」
 私の脳裏にフィリーネの声が甦る。
「でも…、ヨナサーラに子が出来なければ、やっぱりフィリーネかコンラートが、」
「それはそうだが…、そもそもヨナサーラの立場の不安定さを考えれば、フィリーネの愚かさに限界を感じるだろうし…、恐らくフィリーネを後継ぎにしたい等、テレージアは願っていない。出来れば誰かの妾に、くらいにしか思っていなかったんじゃないか?」
 私は目を丸くした。
「あの魔術具の魔石はテレージアの物で、魔術具を修理したのは彼女が亡くなった後だ。彼女が生きていれば、コンラート用の魔石も魔術具も無かったのだ。もしフィリーネを後継ぎと考えていたなら、コンラートこそ、そもそも予定外の子だ。
 そう考えるなら、ヨナサーラが子を生んだ事が問題としても、コンラートから魔力の多いヨナサーラの子に魔術具を譲った処で別に不思議ではない。どちらも問題がある同士、どちらも洗礼式前で存在しない同士、魔力差、後ろ楯の差を思えば、ヨナサーラの子が優遇されるのも当然だ。」
 フィリーネが次期当主としても、現当主であるカッシークより権限が強い訳がない。兄様は道理を説いて聞かせてくれた。
「そしてその場合、そもそも初めからコンラートを跡継ぎに考える訳が無い。フィリーネが居るのだ。財産を大半使ってまで、跡継ぎに据えるメリットがない。」
 心臓が大きく音を立てる。