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ディアブロスプリキュア!

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私立シュヴァルツ学園 二年C組

「リリスちゃ――ん!!」
 翌日登校すれば、始業式と変わらぬはるかの甲高い声が真っ先に聞こえてきた。
 しかも彼女は異様なまでのハイテンションで、教室に入った瞬間リリスに抱き着こうとしてきたから、リリスはすんでのところではるかの顔を抑えつけた。
「朝からテンション上げ過ぎ。何よ、女の子が大声なんか出したりして」
と、慣れた態度でリリスが尋ねたところ、はるかは目を輝かせ、力強い語気で言ってきた。
「聞いてくださいよ!! 昨日、出たんですよ!!」
「出たって……何が? ひょっとしてストーカーでも出たの?」
「ストーカーが出たならこんな興奮しません! 悲鳴を上げるはずですから! 違いますよ、私が言いたいのはそうじゃなくて……プリキュアが出たんですよ、この黒薔薇町に!!」
「……え?」
 一瞬頭の中が真っ白になった。なぜ、はるかの口からプリキュアという単語が飛び出したのか――そんな不可解な謎を抱いていると、はるかが鞄から何かを取り出した。
「これ今日の新聞なんですけどね……ほら見てください、ここにバッチリ写ってるじゃないですか!!」
 リリスは目を凝らして新聞の中身を確かめた。新聞の地方欄の一面を飾るのは、プリキュアに変身したときの悪原リリスその人だった。運が悪いことに、はるかが持ってきた新聞はリリスが契約している新聞とは全く系統が異なるものであり、事前にこのことを知ることができなかった。
「あ……」
 リリスは目を見開いたまま長い時間言葉を失った。彼女の中で恐れていた事態が現実となったのだ。合理的精神と秘匿主義をモットーとして人間社会で生活している悪原リリスは、自らの正体を公然に晒すかもしれない墓穴を、まさか自らの手で掘ってしまった。しかも最悪なのは、悪魔であることを知っている数少ない人間であるはるかからこの事実を知らされたということ。
「いいですよねー、かっこいいですよね。プリキュアと言えば、女の子なら誰もが憧れる伝説のスーパーヒーローですからね!! リリスちゃんはプリキュアって知って……リリスちゃん? 聞いてますか人の話? おーい」
プリキュアに羨望を抱くはるかの言葉などリリスには届かない。彼女の思考は完全に停止状態にあったのだから。
 いくら呼びかけてもリリスはだんまりとして、口を開かない。はるかが不審に思ってもう一度声をかけようとした次の瞬間、リリスは何も言わずに立ち上がった。
「リリス……ちゃん?」
 はるかは異様な雰囲気をリリスから感じ取った。そして、リリスはというと、何を思ってか立ち上がるなり壁の方へと頭を向け――
 ――ガコンッ
「あ――! 私のバカバカバカ!!」
 発狂し、自分の頭を壁に叩きつけ始めた。
「きゃあああ!! 悪原さん、どうしたの!?」
「リリスちゃん、やめてください!! そんなことしたら頭が悪くなってしまいますよ!!」
 クールで棘のある言葉を言うキャラとして皆に知られ、それでいて容姿端麗で文武両道にたけた美少女として学校中から一目置かれていた彼女の取る行動としては、誰が見ても常軌を逸していた。悲鳴を上げ動揺するクラスメイトと、リリスを止めようとするはるかの甲高い声が教室中に木霊する。
「何であんな軽率なことしたのかしら!! ああもう、自分がすっごく情けな~~~い!!」
「リリスちゃん、やめてくださいってば!! というか、何の話をしてるんですか!?」
「止めないでよ!! 私は自分で自分に罰を与えてないと気が済まないんだから!!」
「いつもの冷静で淡白なリアクションはどうしたんですか!? はるかはそんな自暴自棄なリリスちゃんを見ているのは辛いです!!」
 はるかの制止も完全に無視。リリスの狂気じみた自虐は留まることを知らない。
 ガラガラ……
「おはようございます……って! 何をしているんですか、悪原さん!?」
 ショートホームルームの時間になったので、クラス担任の三枝が入室してきた。が、朝っぱらからのバイオレンスな光景を目撃するなり、彼の眼鏡にひびが入った。
「先生、悪原さんを止めてください!」
「このままじゃ本当に取り返しのつかないことになっちまうよ!!」
 生徒たちも自分たちではどうにもならず、担任である三枝に助けを求める。生徒たちに頼られた新米教師の三枝は胸に熱い思いを抱き、「わかった何とかします!!」と力強くうなずき、狂気に支配されたリリスを止めようとする。
「悪原さん、止めるんだ! 何を思って壁に頭を叩きつけているのか知らないが、とにかく落ち着いて!!」
「うるさ――い!!」
「いたああああい!!」
 ひと思いにリリスを止めたかった。だがその親切心が却って裏目に出てしまった。三枝はリリスを抑えつけようとした際、抵抗する彼女の蹴りを受けて教室の扉に激突して、そのまま目を回して倒れた。
「私のバカっ――!!」
 リリスは教室を飛び出し脱兎の如く逃げ出した。
「あっ。リリスちゃん!! 待ってください!!」
 逃亡するリリスをはるかは全速力で追いかける。周りの生徒が茫然自失と化す中、やぶ蛇を食らう結果に終わった三枝は目を回しながらつぶやいた。
「なぜ……こうなる……の……」
 そして、生徒たちが自分の名前を呼ぶ声をかすかに聞きながら、まどろみへと落ちていった。

           *