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ディアブロスプリキュア!

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黒薔薇町 くろばら商店街

 リリスの逆鱗に触れたレイは、しぶしぶ市街地へと向かった。
 人間態で街を歩き回るが、既に買い物を終えた家族層がほとんどであり、寄り道もせず真っ直ぐ帰路に就く者ばかり。契約のためのチラシを配るが、誰も見向きもしようとしないという厳しい現実があった。
「はぁ……リリス様も理不尽なことを仰る。しかしよくよく考えれば、私が家事をしっかり手伝っていればこんなことにはならなかったのだろう」
 主の怖さを身に染みて知っているレイは、素直に自分の非を認めると―――かつて自分の命を救ってくれた彼女に報いるために身を粉にする決意を固めた。
「よしっ!! ここはリリス様のため、悪魔の明るい未来のためにも一肌脱ごう!!」

「悪魔の明るい未来だって?」
 レイの言葉に疑問を投げかける声。レイの体に悪寒が走り、頭上を見上げる。
 商店街で買い物をしていた人間もレイと同じように目線を上に上げている。空中には《くるまピースフル》を引き連れた洗礼教会の使者・エレミアが宙に浮かんでいた。
「私も老いたかな、幻聴が聞こえたぞ。この世で最もあってはならぬ発言が耳に飛び込んできたのだから」
「お前は……洗礼教会の!?」
 驚愕の表情を浮かべるレイ。エレミアはくるまピースフルとともに地上へ降り、右手を前に差し出してから胸元に持っていく。
「先日は世話になった。貴様には名乗っていなかったな、私は洗礼教会の三大幹部が一人、エレミアと申す。貴様は我々がかつて粛清した悪魔界の名門、ベリアル家の御令嬢の使い魔だろう。その鼻につくような臭いが何とも堪らん」
 突如現れた洗礼協会の手先・エレミアの言葉に、レイは啖呵(たんか)を切って返した。
「何だと! 私のことを臭いと言ったか! ふざけるな、毎日ちゃんと風呂に入ってるんだぞ!! 貴様の様な加齢臭と抹香の臭いを漂わせる古臭い神父とは違うのだ!」
「な……貴様! 私を侮辱することは我らが聖なる神を冒涜すると同じこと! なんと愚かで罰当たりな……これ以上人の世に災いをもたらす前に、根絶やしにせねばならん。ゆけ、ピースフル!!」
『ピースフル!!』
 エレミアの命に従い、くるまピースフルはレイ目掛けて襲い掛かった。
 ――ドカン!!
「「きゃああああああ!!」」
「怪物が出たぞっ!!」
 ピースフルの襲撃に驚いた人々は悲鳴を上げながら逃走する。だが、人目もはばからず、いきなり襲い掛かってきたエレミアのやり方にレイは疑心する。
「ここは商店街のど真ん中だぞ! 罪のない民間人を巻き込むのがお前たちのやり方か!?」
 レイが強い語気で訴えかけるも、エレミアは攻撃の手を休めない。くるまピースフルの容赦ない攻撃を何とか躱し、レイは高所へと移動して、エレミアに呼びかけた。
「貴様ら洗礼教会は言ったな、人の世の繁栄と平和が目的だと! そのために悪魔を憎む気持ちはあっても、人間に害悪をもたらすなど本末転倒のはず!! ならば、こんなやり方は間違ってるだろ!!」
「悪魔如きが我々に口答えをするな!」
 くるまピースフルの目から飛び出す光線がレイを直撃した。
「ぐおおおおおお」
 高所から落下したレイはアスファルトの上に叩きつけられた。エレミアはピースフルの傍らで立ち尽くし、悪意ある笑みを浮かべる。
「ふふ。人の世の繁栄と恒久の平和……どちらも一筋縄ではゆかぬよ。悪魔は人の繁栄を妨げる最上級害悪のひとつではあるが、既に悪魔に魂を売られ堕落した者たちが果たして我らの救済すべき対象であると思うか?」
「なん……だと……?」
「この際だ、はっきりさせてやろう。我々は偽善者ではない。真に救済すべき人間には温かい手を差し伸べよう。だが、悪魔に魂を売られ堕落し犯罪に手を染める輩に手を差し伸べることを主は望んでいない! 我々は忠実に主の望みを叶えるまで」
 これを聞き、レイは満身創痍の体でゆっくりと立ち上がる。
「この商店街にいる人間は、犯罪者なんかじゃない……善良な市民だろうが!」
「悪魔を排除するには犠牲も必要だ。安心しろ……貴様の言う通り善良な市民には手を出さぬ。我らが主の望みが叶うのであれば、多少街の景観が壊れるくらい安いものだ」
 聞けば聞く程にレイの心は乱れ、怒りに支配される。思わず拳を強く握りしめた彼は歯を食いしばり、唇から血が流れた。
「選民主義……独善的な言動……そして、都合のいい自己解釈で救済の意味を履き違える……貴様らの方がよっぽど悪魔じゃないか!!」
 瞬間、カッと目を見開いてレイは思いの丈をぶつけた。
「ふざけるな!! 貴様らの独りよがりな考えが、リリス様を悲しみの淵に叩き落としたんだ!! 悪魔というだけで我々を虫けら同然に見下し、我々から生きる権利、尊厳、あらゆるものを根こそぎ奪っていった。そして、それは今も……断じて許されることではない!」
「ふん。貴様ら悪魔に生きる権利など無い。生かすべき存在は我々人間なのだ」
 聞く耳を持たないエレミアにレイは力の限り吼(ほ)えた。
「お前たちは人間じゃない! 心を失くした人間が人間を語る資格などない!!」
「ほざきおって……ピースフル、とどめを刺せ!」
『ピースフル!!』
 使い魔であり悪魔に仕える側のレイの言葉の方が、よほど人間染みていた。だがエレミアがそんな言葉に耳を貸すはずもなく、とどめの攻撃を促した。
 全速力で突進してくるくるまピースフルの攻撃を避けるだけの力は、今のレイには残っていない。まさに、引くに引けない絶体絶命のピンチ――
「くっ」
 死を覚悟し、目を瞑った次の瞬間。

「はああああああ」
 ボコッ――
『ピースフル!!』
 突然ピースフルの腹部に強烈な蹴撃が襲った。そのままエレミアを横切り、ピースフルは近くの電柱に激突した。
「なんだと!?」
 レイとエレミアが目を疑う中、ピースフルに強烈な一撃を与えた少女――悪原リリスは唖然とする使い魔を一瞥し、
「あんた、使い魔のくせにカッコつけ過ぎよ――――。こいつらを倒すのは私、勝手なことしないで」
「リリス様!!」
「来たか、魔王の娘よ。昨日は思わぬサプライズを見せてくれてありがとう。だがいつまでも思い上がるな! 今日はその傲りを完膚なきまでにひねりつぶす!! 悪魔が聖なる存在、プリキュアの力を使いこなせるなどあってはならぬ事実だ!!」
「悪魔だろうが人間だろうが関係ないわ」
 そう言うと、リリスは凛とした瞳をエレミアへと向け、力強く主張する。
「知らないなら教えてあげるわ。女の子は、誰だってプリキュアになれるのよ!」
 刹那、全身の魔力を変身アイテム―――ベリアルリングへと注入し、声高らかに宣言。
「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」
 紅色のオーラに包まれた彼女は、数十秒の衣装チェンジの末――プリキュアとなった姿を今一度エレミアたちの前にさらけ出す。エレミアが険しい顔を浮かべる中、彼女は自分で決めた振りつけに合わせて掛け声をした。
「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」

「ピースフル!! 今度こそ蹴散らせ!!」
 襲いかかってくるくるまピースフルに対抗するべく、ベリアルは使い魔に呼びかける。
「レイ、行くわよ!」