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梅嶺小噺 1の三

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上手く大猪を追い詰められるように、別の場所に逃がれて行かぬように、仕掛けを配した。
赤焔軍兵は、そういった事には慣れていた。
日頃からそんな軍務や調練が多いのだ。まさに打って付けの助っ人だったのだ。

作戦の決行は、大猪が動き出してから。
それは深夜になっていた。
月明かりに照らされる、静かな夜だった。

見張り役が、大猪がねぐらから出てきたのを確認する。
里山に向かいだしたら、花火の筒を空に上げる。
花火は大猪の背後から、大きな音を立てて、爆発した。
驚く大猪に、林殊を先頭にした、八騎の騎馬隊が追い立てる。
大猪は驚く速さで、山を駆け下りた。
騎馬隊は付かず離れず、絶妙な距離で追い立てる。
比較的樹木はあったが、高い太木が多く、本数は少ない。大猪と馬は樹木をぬって、駆け降りる。
山の割に、騎馬で追い立てるのには楽な地形だった。
大猪は、山の沢に逃げ込むが、これも作戦通りだった。沢には三騎の騎馬を、大猪が下流に逃げるように、上流に配していた。
そこから林殊達と合流する。
沢は広くはないが、途中、沢が浅くはい上がって、山の中に逃げられてしまうような場所が、何ヶ所かあった。
そこにも仲間を配置して、火薬を爆破させたり、大きな石や倒木を落とす仕掛けをしておいたり、、、沢から猪が外れないように、周到に用意をしていた。
順調に大猪が下りてくれれば、山を下りてしばらくすると、沢から上がって平原に出るように、、、そしてその先には、村人の協力で、柵を設けてある。
そこに追い詰める事が出来れば、大猪は捕えられる。
だがもし、そうでなかった場合、、、大猪が、想定していた道を辿らず、平原に紛れて見失った場合は、より面倒になる。
一からのやり直しだった。
またどこかの村が、被害に遭うだろう。
そうならぬように、赤焔軍の仲間の進言も取り入れ、配置をしていた。まさに戦の布陣と言って良いだろう。
後から、軍務を終えた者も幾人か駆けつけ、最終的に有志は、六十人以上になっていた。

予定通りに沢を下り、川の流れる沢から森の中へ上がれる地点に差し掛かる。
猪はそこから、森へ逃げようと走る向きを少し変えていた。
絶妙に時を見計らい、森と沢の境目で爆破が起こり、大猪は森へ逃げる事が出来ず、そのまま沢を下るしか無かった。
もうもうと煙が立つ中を、猪と林殊達の騎馬が、沢を駆け下りる。
爆破をした者も続いて、沢伝いを騎馬で降りてくる。
沢も幾度か蛇行しており、沢が浅く、また山の木々の中に、猪が逃れそうな場所にかかると、そこに待機していた仲間達が、倒木を投げ入れたり、簡易的な投石器で大きな石を飛ばし、皆で協力して大猪が沢以外に逃亡するのを阻止していた。決して沢から逃さぬ作戦だ。
大猪を追う騎馬兵達と共に、仕掛けを担当する兵達も、仕掛けを出し終えると、林殊達を追って、沢を下る。
戦場さながらに、蹄音が山に響き渡った。

沢の傾斜が緩くなり、山の麓に近付いたのが分かる。
猪の先の沢に、十数個の炎が見えた。
松明を持った騎馬兵が、大猪の向かう先に立ち塞がっていた。
その中に靖王がいる。
「着火せよ!。」
靖王が叫ぶと、松明から導火線に着火されて、たちまち爆破が起こった。
爆破は沢を寸断するように起こり、大猪は進路を変えざる得なかった。
大猪は沢から原野に入った。
一面のすすきヶ原だったが、村人の協力で、柵の方へとススキは刈り取られていた。
大猪が柵の方へと行くように、靖王の隊と林殊の隊が、大猪を挟んで並走した。
このまま進めば、大猪は捕えられる。
だが何かがあって大猪が進路を逸らせば、折角の作戦と協力が水の泡だった。
皆に緊張が走る。
程なく、進路の先に柵が見えた。
人の背丈ほどの高さの、、、竹で作られた柵だった。
「よしっ!!。」
大猪が追い詰められた。
だが、大猪は柵を目の前にすると、止まるどころか、そのまま柵に向かって突っ込み、そして後ろ足で大地を蹴り、柵を飛び越えたのだ。
「キィィィ───。」
大猪がひと鳴きした。
騎馬の林殊と靖王達は、馬の勢いを止めず、柵をそのまま過ごした。
林殊のいる隊と靖王の隊は、柵の場所の前方で交差して、また柵の場所へと戻って来た。

大猪は、柵の先へと仕掛けられた、何十本という太い竹槍の林の中で、竹槍に腹を刺されてもがいていた。

───────

今日の朝方まで、林殊と靖王は二人、大猪の分析をしあっていた。
ただ追い詰めただけでは、大猪を捕らえる事は出来ないだろう。
奴の側に、近寄ることも出来ない。
何らかの手立てで、弱らせることが出来れば、、、。
弓を使っても、動く大猪に、どれだけ当てられるか。
蒙摯の剣が、刺さったままで動き回るのだ。十射位、当たったところで、大猪には大した事は無いだろう。そして更に大猪の反撃を喰らうだろう。
一撃で、大きな痛手を喰らわせられたら、、。
だが、蒙摯ですらこの前、苦労してやっと、自分の銘剣でひと刺し出来たのだという。
それ程、大猪の皮は硬く丈夫な様子だった。
しかし、例え背中は硬くても、腹の皮はいくらか柔らかいのではないか、林殊も靖王もそう考えていた。
考えた挙句、竹槍を地に刺して、そこに大猪が被さる状況に出来たら、、、。
大猪を飛ばせて、槍の上に落とす必要があったのだ。
だから槍の手前に柵を立て、わざと高くはせずに、大猪が飛ぼうと思えるだけの高さにしたのだ。

大猪は槍を外そうともがいていたが、次第にその力は弱っていった。
馬から六人ほどが降り、様子を見に大猪の側に近付く。
「気を付けろ!、まだ暴れるかもしれないぞ。」
誰かが大声で言った。
実際、人が側まで行くと、「キィキィ」と声を出してもがき出した。
六人は幾らか様子を見ていたが、やがて剣を抜き、大猪を逝かせてやった。
そして雄叫びを上げる。
「退治したぞー!。」
「おお━━━━━━っ!!」
騎馬隊が続いて歓喜の声をあげた。


大猪は、身の半分を有志達で、もう半分と皮を協力した村の人々で分けられた。
危険を犯して退治したのは、林殊や靖王や赤焔軍の有志達だが、村人達は竹材を切り出し、柵を作ったり、竹槍を設置したりと、赤焔軍の有志だけでは、果たし切れなかった作業を担ってくれた。
大猪の皮は驚く程の上等な毛並みの、分厚い皮だった。村の作物を食い荒らし、栄養が良かったのだろう。普通ならば鎧には、何枚も皮を張り合わせるが、そのまま鞣しても作れそうだった。きっと皮は、良い値で買ってもらえる。

赤焔軍の有志達の動きは素早かった。
猪肉を切り分け、火を起こし、早速、猪肉を炙り始めていた。
夜中にも関わらず、一番近い宿場町まで、酒を求めに行く班も作られた。叩き起された、酒場の主も気の毒である。
そして瞬く間に、酒盛りの用意が整っていく。
林殊と靖王も、皆の輪の中に入り、宴会に興じた。
どんどんと有志達の腹の中に、猪肉は消えていく。
酒を飲み交わし、たらふく肉を喰らい、皆、楽しげだった。
夜も更けていたが、まだまだ、酒盛りは終わりそうにない。
林殊も靖王もいささか疲れてしまって、賑やかな宴の輪の中から、自分達の馬を繋いでいる場所に逃げてきた。
「凄い盛り上がりだな、、、赤焔軍はいつもこうなのか?。」
作品名:梅嶺小噺 1の三 作家名:古槍ノ標