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Simple words 1

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一緒に暮らし始めて二年、真っさらだった子供は、色々な事をあっという間に吸収し、学校に通えるまでになった。
学校でもその聡明さから、気付けば皆が一目置いている。
けれど、どこか他人行儀で周りと一線を引いているところがあるからか、まだ特別な友人はいない。休日はいつもアムロと一緒に過ごし、離れようしない事から、アムロは自分に依存し過ぎているようで、少し心配だった。
「何言ってるんだ。女の子と付き合えとは言わないけど、仲のいい友達くらい作れよ」
「うん…」
「まぁまぁ、良いじゃない。学校は楽しいのでしょう?」
「うん!今度キャンプに行くんだ!」
「あら、良いわね!楽しんでらっしゃいな」
「うんっ!」
その日はセイラも一緒に夕食をとり、久しぶりに楽しい時を過ごした。

食事の後、キャスが眠りに就いてから、アムロとセイラがリビングで軽くグラスを傾ける。
「二人が上手くいってそうで安心したわ」
「ははは、上手くいってるかはよくわかりませんが、結構楽しいです」
「そのようね。キャスの笑顔を見ていると、幼い頃の兄を思い出すわ。昔は兄もよく笑っていた。でも、キャスの様な無邪気さは無かったわね」
セイラが少し目を伏せる。
「私たちは妾腹の子だったけれど、父と本妻との間に子供が居なかったから、兄は幼い頃からダイクンを継がなければという自覚があったのね。どこかを大人びた子供だったわ」
「ふふふ、なんとなく想像できます」
アムロはグラスの中の氷を揺らしながら、クスリと笑う。
「でも…今でも思ってしまうの。父があんな事にならなければ、兄の人生はもっと穏やかであったのではないかと…」
「…そうですね…、でも穏やかであったかどうかは疑問ですね。あの人の事だから、何か大きな事をしていたとは思いますよ」
「そうかもしれないわね」
「でしょう?」
二人、視線を合わせてクスクスと笑い合う。
「まさかアムロとこんな風に兄の事を話せる日が来るとは思わなかったわ」
「本当ですね」
アムロはリビングに飾られたキャスの写真を優しい瞳で見つめる。
「キャスには…人並みの幸せを感じて生きて欲しい。あの人の分も幸せになって欲しいんです」
「そうね。正直、アムロがあの子を引き取ると言った時はどうしようかと思ったわ。どうしても、あの子の中に兄を見てしまうでしょう?あなたにとって、それは辛い事ではないかしらと…とても心配だったの」
「それは勿論…そっくりですからね。キャスの中にあの人を見てしまっているのは確かです。でも、一緒にいればいるほど、二人は別人なんだなっていうのが分かってきて…。今では完全に別人だと思っていますよ」
「そう…それならば良いけれど…」
「このままずっと…あの子と生きていけたらって思います」
「でも、アムロ、貴方このまま独り身でいるつもり?」
セイラからの思わぬ返しに、アムロが目を見開く。
「え?あ…そうですね…結婚とかは考えて無いですね。多分、あの人以上に好きになれる人はいないと思うので…」
「アムロ…」
「でも、俺はずっと一人でいても、アイツはとっとと良い子を見つけて出て行っちゃうかもですね。今は付き合う気は無いとか言ってるけど、どんな出会いがあるか分かりませんから」
戯けて言いながらも、少し寂しげなアムロの様子に、セイラは気付かぬフリをして微笑んだ。

翌朝、アムロが自宅一階のカフェでオープン準備をしていると、キャスが厨房に顔を出す。
「アムロ、おはよう」
「おはよう、キャス」
「セイラさんは帰っちゃったの?」
「ああ、昨晩帰ったよ」
「泊まって行かなかったんだ…」
「泊まっていくわけないだろ、彼女は忙しいんだから」
「そうじゃなくって…」
「何?」
「アムロとセイラさんは…その…恋人なんじゃないの?」
言いづらそうに話すキャスに、アムロが笑い出す。
「俺とセイラさんが?はははは!そんな訳ないだろ!」
「…ホント?」
「ああ、大体俺とセイラさんじゃ全然釣り合わないじゃないか。セイラさんに失礼だろ?」
「そんな事…ないと思うけど…」
「ほら、バカな事言ってないで、早く学校行けよ!遅刻するぞ」
「…はーい。行ってきます」
「おうっ!いってらっしゃい」
家を出て、キャスはふと振り返って微笑む。
『そっか、恋人じゃないのか!』


◇◇◇


それから四年、地球の片隅でひっそりと暮らすアムロとキャスに、平和で穏やかな日々が流れていった。

カランとベルを鳴らし、カフェの扉が開く。
「マスター、こんにちは」
「いらっしゃい、マイアーさん」
マイアーと呼ばれた、アムロより少し年上の男がカウンターのいつもの席に座る。
「いつものね」
「はい、少々お待ち下さい」
マイアーはカウンターに頬杖をつきながら、アムロがサイフォンでコーヒーを丁寧に淹れるのを湯気越しに見つめる。
「今日は少し寒いね」
「そうですね。もうすぐ十一月ですしね…」
「公園の木も紅葉して来たし…秋だねぇ」
「ええ」
「マスター、良かったら今度一緒にドライブでもどう?」
カウンター越しにアムロを見つめ、マイアーがドライブに誘う。
「え?俺とですか?」
「勿論、マスターとプライベートで会いたいな」
「ははは、何言ってるんですか。どうせドライブに行くなら可愛い女の子と行った方が楽しいですよ」
サイフォンから香り立つコーヒーをカップへと注ぎ、それをマイアーの前に置く。
「はい、お待たせしました」
「俺はマスターと行きたいんだ」
カップを置くアムロの手を掴んで、マイアーが詰め寄る。
「マイアーさん、冗談はそれくらいにして…」
「冗談じゃないよ。俺は本気だよ」
真剣な瞳に、アムロが困惑の表情を浮かべる。
「あ…えっと…すみません。俺は…」
「彼には恋人がいるからダメですよ」
いつの間に現れたのか、キャスがマイアーに掴まれたアムロの手をぐいっと引いて離すと、その整った顔でニッコリ微笑む。
あれから四年が経ち、十六歳になったキャスは、可愛らしい子供から見目麗しい少年へと成長していた。
「キャス!?」
「え?」
「彼には心から愛する人がいますからね。いくら誘っても無駄ですよ」
「マスター、恋人がいたの?」
驚くマイアーと同時に、聞かれたアムロも驚く。
そんなアムロに、キャスが話を合わせろと言わんばかりに視線を向ける。
「え、ええ。実は…なのですみません。でも、誘って頂けて嬉しかったです。ありがとうございます」
ニッコリ微笑むアムロに、マイアーの心臓がドクリと跳ねる。
それを見たキャスが、アムロに向かって『余計な事を…!』と心の中で舌打ちする。
『そんな態度をとったらこの男が諦めきれないだろう!』
そんなキャスの心の内を知ってか知らずか、アムロがお詫びを言いながらマイアーにサービスのお菓子を差し出していた。
「そっか…残念だけど、俺の気持ちは知っておいて欲しいな」
『そら見ろ!コイツ絶対諦めてないぞ!』
尚もアムロの手を握るマイアーにキャスが苛立ちを募らせるが、アムロはその手をやんわりと離して「ありがとうございます」と微笑んで受け流した。

店内の客が居なくなり落ち着いた頃、アムロが「ふぅっ」と小さな溜め息を吐く。
「ああいう事はよくあるの?」
作品名:Simple words 1 作家名:koyuho