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Simple words 3【番外編】

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思わず思考に耽ってしまったマイアーにアムロが声を掛ける。
「あ、すみません。なんだか当時を思い出してしまって…」
「当時って…例のアクシズの?」
「ええ、実はあの時、自分もあのアクシズを押し返す為に取り付いたMS隊の一人です」
「え?」
「あの時、ロンデニオンのMS部隊は、上からずっと待機を言い渡されていました。しかし…一機でアクシズを押し返す大尉を見て…皆が一斉に命令を無視して飛び出したんです」
「そうなのか!?」
「はい。正直ジオンの人間である自分は行くべきか迷いがありました。しかし、行かずにはいられなかった…。やはり、人としてあの作戦には賛同出来なかった…。そして、連邦の怠慢的な態度に憤りを隠せなかった」
マイアーはギュッと拳を握りしめ、当時を思い出す。
「大尉が命懸けで戦っているのに、連邦政府はギリギリまで日和見を決め込んでいたんです。そんな連邦に、スパイとは言え、属しているのが嫌になって、あの時のドサクサに紛れてジオンに帰還しました。正直、軍人でいるのさえ嫌になったんです」
「そうか…」
「そんな自分に、ナナイ大尉から大尉達の護衛任務が来た時は驚きましたが、直ぐに飛びつきました。…大尉が生きていたと知って…心から嬉しく思ったんです」
「マイアー中尉…」
「まさかネオ・ジオン総帥のクローンを大尉に預けるとは思いませんでしたが…長い間大尉達を見ていて納得しました」
優しく自分を見つめるマイアーにアムロがドキリとする。
「シャア総帥は…本当に残念な事をしました…。彼は、正しい道を歩めば素晴らしい指導者となったでしょうに…」
マイアーの言葉に、アムロがそっと目を伏せる。
「そうだな…。俺は…多分色々道を間違えたんだ…。傲慢かもしれないけど、もしかしたら…俺があの人の側にいたら…もう少し違う道を選ばせられたのかもしれないと…思う時がある」
それはおそらく事実だろうとマイアーは思う。
あの時、シャアの隣にアムロが居れば、こんなに生き急ぐような事はしなかったのかもしれない。
人々を導きながらも、彼は迷い、そしてその宿命から逃れたがっているようにも思えた。
彼が求めていたのは、スペースノイドの平和であったが、それと同時に、目の前にいるこの男だったのだろう。

「そうかもしれませんね…。けれど、彼の思想は間違ってはいない。この先、新たな指導者が彼の思想を受け継ぎ、世界を導いてくれるでしょう」
マイアー言葉に、アムロの瞳から涙が一筋零れる。
シャアの生き様は…人生は決して無駄では無かったと、後世の人々の道筋になったのだと言われ、救われたような気がしたのだ。
「大尉!?」
「あ…ごめん…。なんだか…嬉しくて…、あの人の人生が無駄では無かったって思ったら…」
琥珀色瞳から次々と流れる涙に、思わずマイアーは席を立ち上がりアムロを抱き締める。
「アムロ大尉、貴方の人生も決して無駄ではありませんよ。そして貴方はこれから、キャスくんと幸せになって行くんです」
その言葉に、アムロの涙が堰を切ったように溢れ出す。

暫くして落ち着くと、アムロはマイアーの胸の中で自身の今の状況にジワジワと羞恥心が込み上げる。
「す…すみません…いい歳した男がこんな…恥ずかしい…」
「いえいえ、役得です」
そう言いながら、マイアーがギュッとアムロを抱き締める。
「マ、マイアー中尉!」
「今はただの雑貨屋のオーナーで、カフェの常連客です。階級は忘れましょう」
クスクス笑いながらそっと腕を緩め、腕の中のアムロを見下ろす。
そして、顔を真っ赤にしながら見上げる琥珀色の瞳にドキリとする。
「…困った…離したくない…」
「えっ…」
焦るアムロに、小さく息を吐くと、そっと手を離す。
「貴方を警護するのが俺の仕事ですが、貴方に嘘を言った事はありませんよ。本気で口説きに掛かってました」
「マイアーさん!?」
「まぁ、残念ながらキャスくんに取られてしまいましたけどね」
残念そうに肩をすくめるマイアーに、アムロが恐る恐る訊ねる。
「あ…あの…俺とキャスの関係が“そう”なったのに…やっぱり気付いてたんですか?」
「勿論。まぁ、実のところキャスくんに釘を刺されたんですけどね」
「は?」
「マスターはもう自分のモノになったから手を出すなってね」
「何ぃ!?あの馬鹿!まさか、他にも言いふらしてたりしないだろうな!」
「ははは!多分、俺にだけですよ」
「全く…!何考えてんだ!」
「それだけ真剣だって事ですよ」
「二十も歳の離れたおっさんに…何だって…」
「それは貴方が一番よく分かっているんじゃないですか?彼は彼であって…あの人でもあるんですから…」
マイアーの言葉に、アムロは息を止める。
それは、アムロも何となく気付いていた。
キャスからは時々、シャアの気配がした。
全く別人であるはずなのに、シャアの欠片を感じる時がある。
まるでシャアの一部がキャスに溶け込んだように…。
「…参ったな…そうか…きっとそうなんですね…」
「ええ、そうですよ。だから渋々ですがマスターを諦めたんです」
そしてアムロはキャス自身がそれを自覚しているのにも気付いていた。
多分、キャスに好きだと言われたあの時から、キャスは自覚していたのだろう。
ただ、本人もそれを決して否定している訳ではない。キャス自身がシャアを受け入れているのだ。
「さて、折角ですからこのままランチでも如何ですか?」
「マイアーさん…言ってる事とやってる事が…」
「食事くらい良いでしょう?キャスくんから貴方を奪おうなんて思っていませんよ。ただ、少しの時間だけ独り占めしたいだけです」
ウィンクしながら手を差し出すマイアーに、アムロがクスリと笑う。
「それは浮気にはならないんですかね?」
「マスターの心次第ですよ。気になるようでしたら、カフェのオーナメント選びを兼ねた会食という形ではどうでしょう?プライベートではなく、ビジネスとして」
「ふふ、貴方には負けました。ではビジネスという事で」
「承知しました。お客様」
マイアーと二人、顔を見合わせ笑い合う。
ずっと、一人だけで抱えていた事を相談できる相手に、少しだけ心が軽くなるのを感じる。
もしかしたら自分が思っているより、色々と抱え込み過ぎていたのかもしれない。
第三者からの言葉は、思いの外心に響いた。
そしてふと、キャスにもそんな相手がいるのだろうかと思う。
キャスもきっと、一人で色々抱えてしまっているだろうから…。


◇◇◇


後日、マイアーの店には仏頂面のキャスが訪れていた。
「おい、アムロに何を言ったんだ?」
「え?いきなりなんだい、キャスくん」
「アムロに何をした!?」
何か動揺した様子のキャスに、マイアーが少し意地の悪い表情をを浮かべる。
「…ふふ…何って…色々?」
「い、色々って!」
「おやおや、どうしたのかな?マスターがどうかしたのかい?」
「…いや…どうと言うか…アムロが…最近よく笑うようになった…から。それに、前みたいに…不意に思い詰めた表情を…する事が…無くなった…」
「そう…。それは良かったじゃないか」
マイアーは少し安心したように微笑む。
「良い事なんだが…あんたが何か言ったんだろう?」
作品名:Simple words 3【番外編】 作家名:koyuho