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LIMELIGHT ――白光に眩む2

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「礼を言うのはこっちだろ」
「あ、そうだな」
「ごっそーさん。また食わしてくれよ」
「了解」
 短いやり取りをして、士郎はクー・フーリンを見送った。



 クー・フーリンが食堂の出入り口を出れば、すぐ側の壁にもたれ、腕組みをし、身を隠したエミヤがいる。
「お?」
「む……」
 しばらく睨み合い、クー・フーリンが踵を返して士郎を呼ぼうとすれば、肩を掴まれ、身体の向きを変えられる。
「なんだよ?」
 小声で訊くが、エミヤは顎をしゃくって行けと示唆する。
 眉を上げたクー・フーリンは、目を据わらせつつ立ち去った。
 不器用な奴、とは、言わずに。



 厨房を片づけ、食堂の消灯をし、エミヤの部屋へ向かっていると、何か用事でもあったのだろう、右手側の廊下からエミヤが現れた。
 タイミングが悪いな、と思いつつも、向かう先は同じだ。出会ってしまったエミヤに声をかけないというのも、おかしい気がする。
 どうするか、と迷っていると、
「もう、大丈夫なのか?」
 先に声をかけられた。
「へ?」
「顔色が悪いと言っただろうが」
「あ、ああ、うん、なんともないって、俺も言っただろ?」
「まあ……」
 エミヤは士郎が追いついてくるのを待ち、並んでから歩き出す。
「あのー、先に――」
「同じ行き先だというのにか?」
「う…………、でも、あんたは、俺と並んで歩くのなんか、」
「いい加減にしろ」
「は?」
「私は、お前が嫌いなわけではない。まあ、好きということでもないが……。頭から私がお前を忌避しているような、そういう態度は、いくらなんでも腑に落ちないと、私は思っているのだぞ」
「え……?」
「普通に接するということができないのか、貴様は」
「え……っと……、でも、あんたは、」
 じっと見据えてくる鈍色の瞳が、なんだ、と窺ってくる。
「あんたは、嫌だろ……」
「なぜ、そう思う」
 エミヤの視線から逃げるように顔を背けた。
「…………」
 なぜと問われても、はっきりとした理由など、士郎自身わからない。
 ただ、エミヤは己を憎んでいるとしか思っていなかった。それが当たり前だと士郎は思っている。
 エミヤの運命を思えば、そこへ追い込んだ衛宮士郎の理想に対して、なんらかの責任が生じるはずだ。だから、己の姿を見るのも嫌気がさすだろうと、士郎はエミヤには極力関わらないようにしようとしたが、同室である手前、顔を合わさないわけにはいかない。
 エミヤには苦痛でしかない状況で、極力、士郎はエミヤの視界に入らないようにと心を砕いた。だが、それをなぜだ、と咎めるように訊かれては、正直に答えていいものかどうかと悩んでしまう。
「衛宮士郎?」
 催促するように呼ばれるが、士郎は答えることができない。
 黙々と歩くことに集中する。もう少しでエミヤの部屋に着く。ただ、部屋に着いたからといってエミヤから逃れられるわけではないが……。
「おい、訊いているだろう? 答えろ、なぜだ?」
 無視して行こうとすれば、
 ゴッ!
「っ!」
 目の前を拳が過ぎた。
「な……ん……?」
「なぜだ、と訊いている。さっさと、答えろ」
 怒鳴るわけではないが、腹の底から吐かれた声が苛立たしげだ。
 壁ドンどころか、壁を突き破る勢いで拳を叩きつけてきたエミヤは士郎を殴ろうと思えばできたはずだ。
 いや、回りくどく殴るどころか、殺すことすら可能なのだ。
 今、士郎は魔術を使えない。魔術どころか、日常生活とていっぱいいっぱいの状態だ。だというのに、エミヤは士郎に危害を加えない。並々ならぬ恨みがあるはずだというのに……。
「なんでだ、あんたは……」
 堪え続けたものがあふれてしまいそうになる。
「っ……、俺は、」
 ぐ、と歯を食いしばった。何を言っても仕方がない。エミヤは士郎の知るアーチャーとは違う。
「わ、悪…………い、俺……」
 とにかく、不快な思いをさせたのならば謝らなければならない。
 クー・フーリンには確か、予防線を張っていると言われた。立香にそれは控えてくれと、それから、エミヤにも。
 理由は本人に訊けと言われたが、そんなことを訊いていいのかどうかわからない。
「え、衛宮士郎?」
「あんたが、い、嫌な気分に……なるとか、思わな……くて……」
「い、いや、……謝られても、だな……。と、とにかく、部屋へ」
 士郎の腕を引いてエミヤは歩き出す。
「エミヤ、あの、俺、まだ、」
 何も答えていない、と言おうとすれば、
「もう、いい。……お前が、答えることができる時でいい」
 訊いておいて、なぜ今でなくていいなどというのか。
「でも、あんたが、」
「答えられないのだろうが」
「え?」
「もういいのだと言った、忘れろ」
「……なんで、不機嫌なん――」
「やかましい」
 むすっとしたエミヤにピシャリと言われ、士郎は頷くしかなかった。



■□■Interlude 接近II■□■

 規則正しい寝息が聞こえる。
 その肩にそっと触れ、こちらへと引き倒す。存外簡単に仰向いた衛宮士郎の頬に触れる。
 こく、と喉が鳴った。
 僅かに開いた唇の奥に見える赤い肉が、熟した果実に見えて仕方がない。
 喉が渇く。
 それと似た感覚。
 親指で触れた薄い唇は、少し、かさついている。
「…………」
 触れたいと思うのは、どうしてか……。
 その無防備な唇を貪りたいと思うのは、私が狂いはじめているからか……。
 ぐ、と奥歯を噛みしめ、衛宮士郎の肩を向こうへ押し返す。
 だめだ。
 これは、だめだ。
 だが、自分であちらへ向けた衛宮士郎の背中を見て、胸苦しい。
 押し返した肩から手を離せない。
「っ…………」
 離したくない。
 こんなことは、おかしい。
 私はどうしてしまったのか?
「……っ…………」
 目覚めるまでだ。
 苦しくて、どうしようもなくて、自分に甘い許可を出した。
 衛宮士郎の身体を引き寄せ、抱き込んで瞼を下ろす。
「目が……覚めるまで……」
 夜が終わるまではこうしていたい。
 いったい私は、どうしてしまったのだろうか……。
 夜が終わらなければいいなどと……、そんな、馬鹿げたことを考えるとは…………。



□■□6th Bright□■□

 夜中に目が覚めた。
 寝返ろうとして、動けないことに気づく。
「あのさ……、ちょっと、」
 ぎっちりと締めすぎだ、と首だけ振り返ろうとすれば、すぅ、と寝息が聞こえた。
(え? コイツ、寝てる?)
 驚きで、しばし思考が止まる。
「え? ちょ、ちょ……、え? あんた、サーヴァントじゃ、」
 エミヤの腕を、ぐ、と持ち上げ……、いや、たいして上がらなかったが、少し隙間ができた。寝返ってみれば、間近に見たこともない顔があった。
 士郎が知るエミヤは、いや、アーチャーとして聖杯戦争に召喚された彼の表情というものは、眉間にシワを寄せた、険しいものばかりだった。
 下りた白い髪が瞼にかかっている。このカルデアでは、再臨というシステムがあるらしく、英霊たちは、その姿を少しずつ変化させていくらしい。そして、それまでの再臨時の姿にも自由に変えることができるそうだ。
 彼はすでに最終再臨を終えているが、今は、第二再臨の時の姿だ。