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LIMELIGHT ――白光に眩む2

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「さて、朝食の準備だが……、お前は、どうする?」
「え? 今、から?」
「もちろんだ」
「あ……、う、ああ、うん、わかった、支度する」
 士郎はすぐに身支度をはじめた。



***

「あ、キャスター」
「あら、えーっと?」
「あ、ち、違った! わ、悪い!」
 紫のローブを見かけて、士郎は思わず声をかけてしまった。カルデアのサーヴァントのほとんどは、真名を明かしている。クラス名で呼べば、複数のサーヴァントが反応してしまうのだ。
「キャスターだけど、そう呼んだって、振り向いたりしないよな……」
 彼女の真名は聞いたことがないため、士郎はなんと呼べばいいかわからない。
「あとで誰かに聞いてみよう」
 少しだが、話をするサーヴァントができた気がする。大概クー・フーリンが呼んできた者たちだが。
 しかし、エミヤとはそれほど会話というものは、やはり、できるものではない。エミヤが随分と譲歩してくれて、厨房に入ることも、並んで調理をすることも許されている。だからといって、なんのてらいもなく話ができるというものではない。
 もしかすると、あの地下洞穴のときのように軽口など叩けるようになるのではないか、と考えてみたりもするが、すぐにあり得ないな、と首を振る。
 気持ちはともかく、士郎はこのところ、明るく振る舞っている。気持ちが上を向いていると、自分自身に錯覚させていればいい。そういう作業には慣れている。身体がようやく動くようになったから、という体を貫いている。
 おそらく誰にも気づかれていない。気づく可能性があるとしたらエミヤだが、彼は自分に興味がないはずだと士郎はタカを括っている。嫌ってはいないといっても、常にべったりと張り付かれているわけでもない。確かに、いまだ、夜はともに寝ているが、彼は何も言ってこない。ということは、何も気づいていないはずだ。
 完全ではないが、士郎の身体はずいぶん回復してきていた。日常生活は問題ない。ただ、魔術の使用は無理だろう、というのが、主治医ロマ二・アーキマンと天才ダヴィンチの見解だ。が、日常生活を送るのに魔術など必要ない。このカルデアで士郎は、食事係と雑用をしているだけだ。
 トイレの紙がなくなったと言われれば補充し、ヒーターの調子が悪いと泣きつかれれば修理をし、エミヤに手伝えと言われれば厨房に入って食事の準備を手伝い……。
「あれ? なんだ、俺、高校の時と変わらないんじゃ……?」
 思わずこぼしてしまう。
「だな」
「ひっ!」
「なんだ」
 エミヤが不機嫌な顔で訊く。
「びっくりさせるな! 急に後ろに立つな!」
「フン」
「なんだよ!」
「鈍い奴だな」
 呆れ顔で言われ、士郎はむっとする。
「用は済んだのか?」
「ああ」
「では、手伝え」
「わかってる。だから、食堂に向かってるんだろ」
「殊勝なことだな」
「なんで上から目線だ……。あ、そうだ、あの、紫のさ、ローブ? みたいなの着たキャスターって、」
「ああ、メディアか」
「メディア?」
「コルキスの魔女と謳われた、……魔女だ」
「今、二回も魔女って……」
「彼女がどうした」
「いや、さっき、呼んでから、名前知らないことに気づいた」
「たわけだな……」
 呆れるエミヤに士郎は苦々しい表情を浮かべた。
「…………でも、魔女って感じじゃなかったけどな」
「あまりナめていると、痛い目を見るぞ」
「そんな怖い人でもなさそうだったけど」
「人ではない、サーヴァントだ」
「いちいち細かいな……」
「やかましい」
 軽く揉めながら食堂に入れば、話題に上っていたメディアがいた。
「む……」
「あ……」
「あら、さっきの……。貴方だったの、魔術の使えない魔術師って」
「まあ……、うん、そうだけど」
 エミヤは先に厨房へと歩いていく。
「さっきは、何か用だったのかしら?」
「え? あ、いや……、知り合いに、似てたから、つい」
 困ったように笑って謝れば、メディアは、にっこりと笑う。今はローブで顔の半分を隠していない。あの聖杯戦争の時は全く見えなかった素顔が晒されている。
「おい、さっさと手伝え」
 厨房から呼び出しをくらい、
「ここで厄介になってる者だ。雑用と飯炊きの補助をしてる。まあ、よろしく」
 士郎はメディアに軽く挨拶をして厨房へ入った。

「彼女は、」
「ああ、時々、調理を手伝うこともある。口説くつもりならやめておけ。お前の手に負えるような女性ではない」
「口説くって……、そんなこと、欠片も考えてない……。そもそも、サーヴァントだろうが、ただの人間の俺に、どうしろっていうんだよ……」
「サーヴァントであっても実体であれば、それなりに…………」
 不意に黙ったエミヤに士郎は首を傾げる。
「なんだよ?」
「いや。やめておこう」
「変な奴だな」
 首を捻りながらこぼせば、
「何か言ったか?」
「いいえ、何も!」
 即答で否定する。
 地獄耳め、とは口にせず、士郎はエミヤの補助に入った。
「……助かる」
「へ?」
「一人では手が回らない時があるのでな……。たいした説明をせずにやることを理解していてもらえるというのは、たとえ貴様でも助かると言ったのだ」
「……だったら、もうちょっと感謝の気持ちを込めて言えよ」
「……感謝するほどのことでもない」
 視線を交わさないまま、調理の手を止めないまま、士郎とエミヤは淡々と言い合う。険悪という雰囲気ではないが、どこか冷ややかな空気が流れている。だというのに、手際よく食事の準備が整っていくため、二人の様子に口を出そうとするサーヴァントはいない。
 どうにかならないものか、とため息をこぼしているのは、腹を空かせたクー・フーリンと珍しく食堂に来たダ・ヴィンチだ。
「やあ、クー・フーリン。君も彼らにはひと言申したい、って感じだね?」
「まあ……。けどま、あいつらの問題だろ? 相談を受けたわけでもないおれたちが口出したところで、うまくいくとは思えねえ」
「だね。ところで、君は、彼らと縁があるのかい?」
「ああ? さあな。ただ……」
「ただ?」
「エミヤの方は、たぶん、何度か殺り合ったような気がする。シロウの方は……、なんだろな? ことあるごとに既視感に襲われる。何かあったかもしれねーし、関わりもあったかもしれなえな。んでも、あいつが言いたくねえってんなら、無理には訊かねえよ。探りを入れるなら、他当たってくれ」
「おやおや、全部お見通しだね」
「天才さまの考えるこたぁわからねぇでもないが……、あんま、かき混ぜるようなことはすんなよ?」
 クー・フーリンに釘を刺されたものの、ダ・ヴィンチの探求心はそんなことではおさまらない。
「肝に銘じておくよ。けれど、私は心配なのだよ。このままではいけない、そうは思わないかい?」
「まあな……」
 頷くものの、クー・フーリンは無茶をするな、という姿勢は崩さないようだ。
「残念だ。せっかく協力者が見つかったと思ったのに……」
 ダ・ヴィンチは肩を落として嘆いてみせた。
「遊び半分で関わることじゃねえだろ……。エミヤは、まあ、いいとして、シロウには下手に手を出さないことだ。たとえこのカルデアに必要なあんたでも、その心臓、もらい受けるぞ」
 赤い瞳がダ・ヴィンチをねめつけた。