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As you wish / ACT2-3

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Act3~逢瀬?否定しません~



くすくすと笑い続ける臨也の髪が、さっきからずっと頬をくすぐっている。
帝人はくすぐったくて、世話をした3ヶ月間でとっくにあきらめた、[臨也を平和的に自分から引き剥がす]行為を、実行しようとしてやっぱり諦めた。後ろから抱きつかれ、首筋に顔をうずめられた状態で、帝人は大きくため息をついた。
無駄なんだ、この人には。
「臨也さん、もういい加減笑いやみません?」
「臨也でいいよ、って何度言っても呼び捨てにはめったにしてくれないよね帝人君って」
「ぐっと距離が縮まる感じがするんで」
「ここぞって時は呼ぶくせに」
結局あれから固まった正臣をどうにか正気に戻し、臨也にさらわれるように新居まで帰ってきてしまった。二日後には学校が始まるっていうのに、そう言えば今日は何も買い物ができなかったなあともう一度息を吐く。
池袋で住む家は、臨也が用意したものだ。できるだけ安いところ、と注文したにもかかわらず、臨也が用意した住居はどう見ても立派なマンションの3階、しかも角部屋で、学校までの距離も遠すぎず近すぎない好立地。こんな部屋がどうしたら「安い」になるんだと、帝人は頭が痛くなってきた。
「この部屋、どういうことです?」
「気に入った?本当はもっと上の階にしてあげようかと思ったんだけど、エレベーターがなかなか来ないのっていらつくよね?ってことで3階位ならまあ許容範囲かなって」
「そういう意味じゃなくて」
「ここ、無料だよ?水道光熱費だけセキュリティしっかりしてるでしょ?」
「はあ?」
「俺の持ち物だから」
だから気にしないでね?なんて語尾にハートマークがつきそうな甘ったるい顔で言われて、色々と悟った。つまりわざわざ買い取ったというわけだ。
「・・・そこまでしてくれなくてもよかったんですけど」
「んー?だって君のご両親、池袋の賃貸相場分かってないんだもん。あんな金額でろくな物件が借りられるわけないでしょ。風呂台所トイレ無しの寝るだけ物件か、良くてワケあり物件くらいじゃないの?」
帝人君、バラバラ殺人とかあった部屋で住みたかった?笑顔で問われて、それはやだなあとげんなりする。しかしマンションを買うなんて、いったいこの人は本当に何者なんだと、今更のように思った。
1年前、偶然道端に倒れているのを見つけた時は、重傷を負っていた。救急車を呼ぼうかと一瞬思ったが、どう見てもワケありすぎる彼の傷にそれもためらわれ、つい、両親が旅行中でいないことを幸いと手当をしてしまったのが運のつき。
打撲の影響か、酷い熱だったのでとりあえず自分のベッドに寝かせて看病して、まさか一晩で目が覚めるなんて思わなかったし、その後いきなり押し倒されて血を吸われるなんてもっと思わなかった。貧血で気絶した帝人が目を覚ました時、臨也は爽やかな笑顔でこう言ったのだった。

『俺、君に飼われることにしたよ。よろしくねご主人様?』

確かに、非日常は好きだ。大好きだ。
けれどもこれは望んでいなかった、と切に思う。ぺらぺらと自分が吸血鬼だと言うことを説明し、あまつさえ帝人の血がどれほどおいしかったかについて熱弁をふるった臨也は、どう贔屓目に見ても電波だった。
ヤバイ何この人。好奇心猫を殺すとはよく言ったもので、うかつに拾うんじゃなかったと後悔したのだが、その後がまたすごかった。
「吸血鬼が血を吸うって言うのはさあ、人間でいうところのセックスと同じなんだよね。特定の相手が居ないうちは、ちょっと味が良ければ誰でもいいんだよ。けど、一度この人だって運命の人に出会っちゃったら、もうその人じゃなきゃ飲む気になんないわけ。俺にとっては君だよ。だから、君は俺のご主人さまになるべきだよね」
中学生の多感な時期に、堂々とそんなことを言いきられ、しかも力の入らない体にねっとりと手をはわされて涙目になっていたら、臨也はそれはそれは綺麗な笑顔を帝人に向けて、返事は?と問う。
ご主人様って何。っていうか何。帝人は必死で抵抗しようとしたけれど、貧血で頭はくらくらするし、臨也はどこまでも臨也だった。
「何も帝人君にメリットがないわけじゃないんだよ?俺のご主人様になるっていうなら、俺は君の命令には絶対服従だ。どんな無理難題でも、まあ大抵叶えてあげられる自信があるけど、どうする?」
あの時せめて、貧血じゃなかったらなあと思う。
思考回路がくらくらとしていた。
それさえなければもう少し、まともな判断を下せたんじゃないかって、本気で思う。いつの間にか帝人は頷いていた。それも面白そうだと思ってしまっていた。後で聞いたところによると、その時は笑っていたんだそうだ。帝人はそう告げてきたときの臨也の、わけがわからないくらい胡散臭い微笑みを思い出して、またしても深いため息をついた。
決まりだね、といった臨也は、貧血でくらくらしている帝人の口に無理やり人差し指を突っ込んできた。驚いた帝人の舌に、鉄の味が広がったのはその時だった。
血。
理解するより先に、指が抜かれて口をふさがれる。
「飲んで」
言われるまま飲み下した血液は、はっきりと明確に、まずかった。けれども確かにその瞬間、帝人は自分の中に、切り捨てられない確かな絆が・・・つながりが、臨也との間に生まれたことを、感じたのだった。



はいはい、回想終了。
帝人はいまだにごろごろと首筋になつく臨也の頭に手を置いて、ぽんぽんと撫でる。それは犬や猫をなでるような動作だった。
血が欲しいのだと分かっている。
何しろ臨也という男、旅行から帰った両親に暗示をかけて家に住み着き、1週間に1回の吸血を帝人に約束させるくらいずうずうしい癖に、帝人が池袋の高校に出るつもりでいることを知ると「今の池袋は帝人君には危ないなあ」なんて言って反対するくらいには過保護だった。幼馴染から誘われていて、楽しみにしているから絶対に行く、と告げた帝人に、それなら俺が先に池袋に言って浄化しておいてあげるね☆なんて言葉とともに帝の家を去ったのが、7か月前。
浄化。よく言ってくれる。
ネット上で探った情報によればそれはまさしく浄化だったのだろう。何しろこの男は、当時池袋を騒がせていた2つのカラーギャング同士を対立させてぶっ潰したのだから。
そして時たまふらっと現れては、血を採取して冷凍して持っていく。その繰り返しが、この7カ月だった。十分、ご褒美に値する行為だとは思う。
・・・紀田君のことさえ、なければね。
「臨也さん」
「うん?」
「紀田君のこと知ってたでしょう」
一瞬の沈黙が肯定だった。
「僕の幼馴染だって知ってたんでしょう」
「・・・そりゃ、調べるよ。君は俺の大事なご主人様なんだから」
「その大事なご主人様の親友を陥れるような真似、よくしてくれましたよね」
「だってあいつずるい」
予測していたような屁理屈ずくめの反論はなく、臨也はただすねたようにそう言って顔を上げた。後ろから抱きつかれているのはそのままだけれど、耳元に囁くように声を投げつけてくる。
「あいつは帝人君の小さいころも知ってて親友で毎日のようにチャットして、」
「ちょっと、臨也さん、それくすぐったい」
作品名:As you wish / ACT2-3 作家名:夏野