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鳥籠の番(つがい) 2

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研究所に着くと、アムロはまずは簡単な検査を受け、ノーマルスーツに着替えてシミュレータへと入る。
頭にヘッドギアを付け、大きく息を吐いて操縦桿を握る。
「準備OKです」
アムロの声と同時にシミュレータが起動し、景色が宇宙へと変わる。
アムロは意識を仮想空間の戦場へと拡げ、敵の位置を把握する。
「ギラ・ドーガが前方に二機と後方に三機…」
そう呟くと、右前方の一機に向けてライフルを発射し直ぐに上昇して次の攻撃に入る。
先ほどのギラ・ドーガにビームが直撃したのを目の端で確認しながら、ファンネルを三機解き放つ。
「行け!ファンネル」
もう一機のギラ・ドーガを攻撃しながら、三機のファンネルがそれぞれ同時に後方のギラ・ドーガに攻撃を仕掛ける。
モニターに〈3 minutes 18 seconds〉と表示され、五機のギラ・ドーガ全てが撃墜された事を告げる。
アムロが小さく「任務完了」と呟く。
その瞬間、仮想空間が消え元のコックピットの内壁へと変わった。

「五機のギラ・ドーガを三分か…。凄まじいな」
モニタールームでその様子を見ていたシャアが
感嘆の声を上げる。
「これでも時間が掛かった方です。前回は二分を切っていました」
「今日は調子が悪かったか?」
「どうでしょう?大佐が見ていたので緊張したのでは?」
冗談混じりに言うナナイに、シャアが機嫌よさげに笑う。
アムロが傍に居るようになって、シャアはよく笑うようになった。
以前の貼り付けた様な作った笑顔では無く、本当の笑顔で。
アムロ・レイと過ごす事でアムロだけでなく、シャアも精神的に安定してきたように思う。
エゥーゴを抜けて直ぐの頃は、表には出さないが、どこか憂鬱で、何をするにも投げやりな雰囲気だった。
しかし今は、目的に向け精力的に動いており、
当初懸念していた、アムロとの関係も良好で、特に問題なく接している。
エゥーゴで共闘していたとは言え、過去に敵対勢力として対峙し、ララァ・スンを巡って争っていたアムロと何故このように接する事が出来るのかナナイは疑問に思う。
『人類の革新であるニュータイプだからだろうか?』
それに、アムロ・レイの印象も自分の思っていたものと随分と違った。
連邦のエースパイロットで一年戦争の英雄。
士官学校を出ていない為、階級こそ大尉止まりだが、もっと軍人らしくあっても良いはずだ。
しかし実際の彼は、その見た目も軍人にしては小柄で細身であり、物腰も柔らかい。
こんな男が本当に一年戦争であの赤い彗星と渡り合ったのかと疑問に思う程に。
『確かにパイロットとしての腕は一級品であり、そのニュータイプ能力もずば抜けているが…』
「どうした?ナナイ」
思考に耽るナナイにシャアが声を掛ける。
「いえ、なんでもありません」
ナナイが端末を操作しながら、今のシミュレーションデータをモニターに表示させる。
「素晴らしいですね。それに、戦闘しながらもファンネルの攻撃を容易にやってのける。恐ろしいまでの戦闘センスです」
「ふん、全くだ」
「一年戦争の終盤、連邦のモビルスーツの戦闘能力が飛躍的に向上したのは、アムロ・レイの戦闘データを各MSに学習データとして搭載したからだと言う噂は、あながち嘘ではないかもしれませんね」
「ああ、そうだな…」

そこに、シミュレータから降りたアムロが姿を現わした。
「大佐…」
「アムロ、ご苦労だった。しかし、今日は少し調子が悪かったのか?」
「え?あ…いえ…、大佐が見ているかと思うと…少し緊張してしまって…」
アムロの言葉に、シャアとナナイが顔を見合わせて笑う。
「ちょっと!そんなに笑う事ですか!?」
「いや、すまん」
「緊張もあると思いますが、サイコミュの微調整をした方が良いかもしれませんね」
データを解析しながらナナイが告げる。
「ええ、少し違和感がありました。これから調整に入ります」
「そうして下さい。大佐はそろそろ会議のお時間ですので移動しましょう」
「しかし…」
アムロを置いて行くことに懸念を示すシャアに、ナナイが溜め息を漏らす。
「こちらの施設は警備もしっかりしておりますのでアムロ大尉に何かある事はありません。ご安心下さい」
「…分かった」
渋々ながらも了承するシャアに、アムロがそっと耳元で囁く。
「大丈夫です。夕食の時にまた会いましょう」
「仕方ない…」
溜め息まじりに答えると、ナナイに連れられて総帥府へと戻って行った。

実際のところ、シャアと離れると少し不安になるのは事実だ。しかし、この施設は普段からよく来ていて慣れている事から、どうにかそこまで不安定にならずに済んでいた。
だが、この施設の中でも“実験棟”と呼ばれる場所だけは、当初アムロが収監されていた所であると言う事もあり、正気を保てる自身が無かった。

シミュレータの横でサイコミュの調整をしていると、不意に人の気配を感じた。
アムロが顔を上げて気配の方を見ると、十四、五歳くらいの少年がこちらを見つめている。
その髪と同じ黒い瞳で見つめられ、アムロは調整用のヘッドギアを外して少年に声を掛ける。
「何か用かい?ギュネイ」
ギュネイと呼ばれた少年は、アムロの側まで駆け寄ると、ジッとアムロを見つめる。
「アムロ、アムロはニュータイプなのか?」
「え?」
「俺みたいな強化人間じゃなくて、本物のニュータイプなのか?」
ギュネイに問われ、アムロは戸惑う。
シャアやナナイは自分の事をニュータイプだと言うが、記憶のない自分は、正直そう言う自覚がない。
ギュネイの様な強化人間との違いがよくわからなかった。
「…どうなんだろう…実は自分ではよくわからないんだ」
「だってアムロは“アムロ・レイ”なんだろう?」
「確かにアムロ・レイだが…俺にはそう呼ばれていた時の記憶がない」
「そうなのか…?」
「ああ、だから何とも答えようがないんだ。しかし突然どうしたんだい?」
「だって、研究員の奴らがアムロは本物だって…俺たちみたいな偽物じゃないって言うから…」
視線を反らして悔しそうに言うギュネイに、アムロは眉を顰める。
“偽物”…“作られたニュータイプ”…“生体兵器…”
強化人間をそう呼ぶ彼らは、自分も含め、被験体を人として扱わない。
だからこそ、心無い言葉を平気で言うし、非道な実験も容赦なく行う。
アムロは過去の実験の事を思い出し、身体を震わせる。
「アムロ?大丈夫か?」
心配気に顔を覗き込んでくるギュネイをギュッと抱きしめる。
「ごめん、大丈夫だ…」
暫くして落ち着くと、ギュネイを見つめる。
「偽物なんかじゃない。ギュネイはギュネイだ。何者でもない」
「アムロ…」
「それを、忘れちゃいけない」
真剣なアムロの目に、戸惑いながらもギュネイはコクリと頷いた。

「アムロ大尉、少し良いですか?」
そんな二人の後ろから、研究員の男が声を掛ける。
「何か?」
「先ほどの検査で気になる結果が出ていましたのでもう一度検査をしたいのですが」
「え?」
「お時間良いですか?」
「…はい」
研究員から少し嫌な気配を感じたが、いつもの事だと自分を納得させて研究員と共にシミュレーションルームから出て行く。
その後ろ姿に、ギュネイは眉を顰める。
「アイツ…なんか嫌な感じがする」
作品名:鳥籠の番(つがい) 2 作家名:koyuho