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芳川裕美の想い(前編)

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混雑するスタート地点の観戦ポイントで裕美の隣に陣取った原田は、彼女の肩越しに大きな望遠レンズを差し出し、事もあろうか裕美に向かい「お嬢さん、悪いんだけどこのレンズの先を、肩に載せてもいいかな?」と言葉を掛けてきたのだ。裕美はビックリした、原田の図々しさにでは無い、肩の上に載せて欲しいと言った望遠レンズの大きさにだ。

元来人見知りをしない裕美は、ダウンジャケットを羽織った厚着のせいもあり「いいですけど、こんなチビでいいんですか?」と聞き返した。すると原田は「お嬢さんがここに載ってくれる?、そしたら丁度いいと思うんだ、」と答え、片手に持った折り畳み式の踏み台を見せた。そして高さ50センチ程の踏み台に上がった裕美は、肩に載せられたレンズを気にしながらも、俄然良くなった見晴らしに満足していた。

駅伝のスタートシーンを何枚も撮影した原田が、裕美にお礼を言い折り畳みの踏み台を片付けた。そしてメディアジャケットの胸ポケットから名刺を取り出して彼女に差し出した。そして「僕はコマーシャルイラストレーターなんだ、これから帰って今撮った写真を基にイラストを描くんだ、」と言った。大人から名刺など貰ったことが無い裕美は緊張し、「*あの私、よしかわひろみです、すぐ近くに住んでます、」と、姿勢を正して挨拶した。
原田は少し腰を下げて目線を合わせ、優しそうな笑顔を裕美に向け「・・可愛いな〜キミは、いま中学生なんだね、オトナになったらきっと美人になるぞォ〜、」と言った。裕美は心の中で、(と云うことは、今は美人じゃ無いのか、)とツッコミながら、言葉では「はい、頑張ります!」とおかしな返事をしていた。

原田は「キミの写真も撮ろうかな、」と言い、ポケットから別のデジカメを取り出した。そして彼女が“おすまし顔”をする前に、数枚の写真を連写で撮影した。裕美が笑いながら「私の写真なんか撮っても・・」と言うと、原田が「キミ、スマホ持ってたでしょ、そこに画像データ送ってあげるよ、SNSやってる?」と聞いてきた。裕美は「*はいラインを・・、名前で登録してます」と答え、ペコッと頭を下げながら「ありがとうございます、」と言った。原田は一眼レフと踏み台を肩に掛け「じゃあ又どこかで!」と言い、観客が移動を始めた駅伝のスタート会場から出て行った。

裕美は自宅に戻る道を歩きながら、元旦の朝から起きた出来事を不思議な気持ちで思い起こしていた。そして(見ず知らずの女の子に何て失礼な人だったの!)と思うと同時に、冬だと云うのに日焼けしたような浅黒い顔、大きな眼と無精ひげが生えた優しそうな口元。それらが画像データのようにハッキリと裕美の脳にインプットされた。

原田と会ったその日の夜、正月のバラエティー番組を見飽きた裕美は一人自室に籠り、スマホのSNSを開いて友達とやり取りをしていた。本当はパソコンを開いて海外のアダルトサイトでも覗きたいと思ったが、まだ両親も起きているし弟がいつ乱入するか分からない時間だった。それでも正月の出来事を友達と暴露し合うSNSは面白く、時間はあっと云う間に2時間も経ってしまった。そして午後10時を回った頃、手に持ったiPhoneの着信チャイムが鳴った。
着信はLINEだった。発信元は今朝の駅伝会場で会った原田昭夫からだ。コメントは短く、[今朝の写真送ります、8枚全部送るけど元データがデカいので小さくします。大きいのが欲しかったらメールで送るからPCアドレスを知らせてください]と書かれ、[この写真は他には絶対に出さないので安心していいよ]と書かれていた。
簡単に連写された写真は思ったより綺麗で、気取らない普段の裕美が上手く写っていた。そして最後の一枚は、いつの間に撮られたのか家に帰る裕美の後ろ姿だった。それは一度片付けた一眼レフに、超望遠レンズを付け直し、心をこめて撮った一枚だった。
作品名:芳川裕美の想い(前編) 作家名:潮 風