芳川裕美の想い(前編)
裕美の心にはある願望があった。それはネットで見る海外ビデオのように、偶然出会ったオジさんと若い女の子が歳の差を超えて恋に落ち、やがてお互いの身体を求め合うという愛欲恋愛だ。だが彼女にとってそんな出会いは想像でしか無く、妄想の中でしか成就出来ない夢物語だった。
裕美は今その妄想を自分と原田に置き換え、新たな物語を空想し始めていた。だからと云ってそんな望欲を文字にする考えのない裕美は、LINEに[写真ありがとうございます、綺麗に撮れていて驚きました。]とだけ書いて返信した。
午後11時を過ぎると両親は寝室に入り、大晦日の昨夜は夜通しで起きていた弟も早々と自室に入った。周りを気にしないで自分の世界に没頭出来る時間がようやく裕美に訪れた。彼女はウキウキした気分でパソコンに向かい、海外の検索サイトを開いて“adult video”と打ち込んだ。
一度アダルトサイトに繋いでしまえば無数にあるウェブリンクからどんなサイトにも飛んで行き、いかがわしい画像や動画でも直ぐに観られることを知っていた。そしてそれらのリンク先には、料金が発生するサイトやウィルス感染などの危険がある事も裕美は解かっていた。そして観終わった後は、閲覧の履歴を消すことも忘れなかった。
そんな好奇心旺盛で早熟な裕美だが、彼女はアダルトなウェブサイトを観る時に絶対に越えては成らない一線を自分で引いていた。それは間違って開かれたサイトだったとしても、幼児が登場したり強姦シーンのある動画を観ないことだ。中学2年生の裕美にハッキリとした倫理観など無かったが、アブノーマルなシーンを観るのが怖かったのだ。
じつはこの怖がりな性格が裕美にとって幸いし、異常な世界に入りかねない環境に居る彼女の心に、理性のボーダーラインが引かれていたのだ。
今夜裕美のパソコンモニターに映し出されたのは、美しい景色の避暑地のような屋外で、若い女の子がたくましい男性と性行為を行い、悶絶させられるという彼女憧れのシナリオだった。
裕美はその場面が来るとパンツの中に手を差し入れ、硬く突き立ってきた肉芽を包皮の上から撫で始めた。やがて息遣いが速くなり、包皮を撫でる指先の動きも速くなってくる。そしてモニターの少女がオーガズムに達すると同時に、裕美も両脚を硬直させて絶頂を迎えた。その時裕美は心の中で(*イクッ!*)と叫ぶ、それは日本のアダルトサイトで覚えた言葉で、いつか自分にその場面が訪れた時に言ってみたい言葉だった。
正月三賀日はあっと言う間に過ぎ、年末から2週間もあった裕美の冬休みは残り4日となっていた。学校の各教科から出された大量の宿題も殆ど終わり、部屋で一人ボーッとしていた。両親は次の日から仕事が始まるので買出しに出掛け、弟の大介は友達の家に行って居なかった。
そんな滅多に無いチャンスに裕美が思い付くのは、普通に考えればオナニーのはずだった。しかしなぜか今日の彼女は躊躇していた。ハッキリした原因が解からないのだが、そんな気分に成らないのだ。
裕美はパソコンの電源を入れる気にもならずベッドの上で仰向けになった。そしてフッと気が付けば、頭には元旦の朝に会った原田の顔が浮かんでいた。(そう云えば名刺をもらったはずだ、・・どこに置いたかな?)、そう思った裕美は当日の朝に着ていたダウンジャケットを出し、ポケットの中を捜した。名刺は左の脇ポケットに入っていた。
作品名:芳川裕美の想い(前編) 作家名:潮 風