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芳川裕美の想い(前編)

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しばらく躊躇していた裕美だったが、ある決心をしてスマホを手に取った。そしてLINEのアイコンにタッチして原田からの着送履歴を見た。裕美は心がモヤモヤする要因が原田に有るのではないかと気が付き始めたのだ。そしてその要因を確かめる為に、もう一度彼に会おうと考えたのだ。
スマホを見ながら原田の顔を思い浮かべると、裕美の心臓は急に鼓動を速めた。だがそれを裕美は、単に自分が緊張している為だと考えていた。裕美はLINEに[原田さんこんにちは突然すみません、時間がある時に会ってください、]と短く書いて送信した。

しばらくして、返ってきた原田からのコメントを読んだ裕美は嬉々とした顔になった。LINEには[こんにちは、じつは僕も連絡しようと思っていた。頼みたい事があるんだ、電話してくれないか?]と書いてあったのだ。裕美は直ぐに原田の名刺を取り出し、胸を高鳴らせて携帯の番号をプッシュした。

3回目のコールで電話に出た原田は、「はい、原田です、」と真面目な言葉使いだった。裕美が「芳川裕美です」と言うと急に明るい声になり、「あァ〜キミか!、電話ありがとう、番号が出たけど誰なのか解らなかったよ!」と答えた。裕美は「いきなりライン送ってすみませんでした、*頼みたい事ってなんですか?、」と聞いた。原田は「うん、・・じつはキミにイラストのモデルになって欲しいと思ったんだ、ある企業からイメージキャラクターのデザインを頼まれてね、写真や雑誌を見て考えたけどイメージが湧かないんだ、」と答えた。そして「キミはどうしたの?、・・僕に会いたいって書いてたよね?」、と聞き返した。

裕美は、「*あっハイ、・・*あの、たいした用事では無いんです、・・私、フラワーデザイナーに成りたいんです、・・・それでチョッと話が聞きたくて、」と、考えておいた理由を言った。
原田は「そうか、僕の話が参考になるんならいつでもOKだよ、」と答えた。裕美は鼓動の高まりを隠しながら、「*じゃあいつ会えますか?、*今日は用事無いからこれから会えますか?」、と聞いた。原田は「エラく急だね、・・いいよ、会えるよ、僕も早く会いたいしネ、・・でも1時間待って、キミと会えるなら道具を用意しなきゃ成らないから、・・11時丁度に、元旦に会った運動公園はどう?、メインゲートの前で、」と答えた。

約束の時間は一時間後だったが、裕美は直ぐに出掛ける支度を始めた。原田には思い切りおしゃれをして会いたかったが、中学校の校則では私用で外出する時でも派手な服装は禁じられていた。
裕美はセーターの上にスタジャンを羽織い、荒いプリーツの入った膝上のスカートを履いた。そして紺のロングソックスを履くと鏡の前に立って一回転した。どう見ても子供っぽい体型と服装だ、海外サイトで見る欧米の女子のような、オトナの雰囲気が自分には無いと思う裕美だった。

裕美は元旦の朝と同じように歩いて約束の場所まで行き、車の車種が解からないまま原田の車を待った。そして時計を見ながら舗道を歩き始めると、後ろの方で車のクラクションが長く鳴った。振り返った裕美の目にワンボックス車のウインドから手を振る原田が映った。立ち止った裕美の横で車を止めた原田は、「お待ちどうさま、移動するから車に乗って!」と声を掛けた。裕美は「ハイ、」と返事をして、車道に止めた車の助手席に乗り込んだ。

車は直ぐに発信し、狭い市道から片側2車線の県道に出た、そして十字路を左折し3車線の国道に出た。どこに行くのか解からなかったが裕美は行き先を聞かなかった。それは(もしも原田さんが『ホテル』とか答えたら私は『嫌だ』って言わなくちゃいけない、本当はホテルでもいいけど、まだ中学生だから嫌だって言わないと)と考えたからだ。それは妄想の続きのような滑稽な思い込みだったが、彼女なりに真剣に考えた結果だった。
作品名:芳川裕美の想い(前編) 作家名:潮 風