はじまりのあの日12 古都と公演とガールズトーク
「いや~やっぱ今日も格好良かったな~センセ」
二次会の買い出し組や、ホテル残留組。それぞれ別れ温泉につかり、部屋に戻る。すでに四人分の布団が、敷かれていた。寝そべるわたし達。リリ姉が唐突に始めるガールズトーク
「おにぃやメー姉もカッケエけどさ。やっぱセンセが一番だな。普段のやさし~時と、ロックモードのギャップがたまんね~」
すごく嬉しそうに枕を抱き、脚をぱたつかせるリリ姉
「カルは、ピコピコとみきみきが良い。二人、かあいい。観てるだけで、ほっこりこり」
カル姉、温泉饅頭を頬張りながら会話に参加
「み~んな格好良かったよ~。でもやっぱり、ぽ兄ちゃんが一番かなぁ。あ、でも確かに。ピコ君や勇馬君は『かわいい』色の方が強いかも~。リンちゃんはだれ~」
わたしの右脇、寝そべるめぐ姉が聞いてくる。あの日のわたし。迷うことなく
「がっくん。がっくんが格好良かった~」
繰り広げられた女子トーク
「リン、ホントにおにぃがオキニ(お気に入り)だな~。なんで、確かにおにぃも超格好良くてやっさしくて~」
基本、彼の妹、私の姉達はブラコンだ。惜しみない賛辞を述べる
「歌も料理も上手いけどさぁ。リンの気に入り方パネエじゃん。なんで~、一回聞いてみて~んだ」
「あ、わたしもちょっと気になるかも~。リンちゃん、わたしたちが来る前の、ぽ兄ちゃんとのお話聞かせて~」
わたしのふとんに集まる姉達。寝そべるわたしの頭の上、カル姉もやって来て、ほっぺたを挟まれる
「聞かせてリンリン」
「ほら、はけ~、はいちまえ~」
「教えて~リ~ンちゃ~ん」
めぐ姉、リリ姉にくすぐられる。そんな風に可愛がってくれる、姉達が大好きだ。あの日も今も変わらない
「あはははは。や、やめて、話す話す~」
言う私、解放してくれる姉
「は~。ん~とね。初めてだったんだ。他の事務所のプロデューサーが歌い手さん、連れてくるの。わたし達、一族以外の歌い手さんが来るの。楽しみだったな~」
あの日の気持ちを話す。何一つ包み隠さず
「で、待ってたらね、超きれ~なお侍さんが来たの。それが、がっくん。それでね、初めてなのに、わたしとレンの見分けができたの」
「そんなに似てたの、小さいときのリンちゃんとレンくん。まあ、今も髪型そろえると、凄く似てるけど」
聞いてくるめぐ姉
「うん。めー姉とか、プロデューサーも間違えるくらいにね。でも、がっくんすごいんだよ。一回も間違えたことないの。それにね、レンを王子、わたしを姫みたいって言ってくれたの。嬉しかった。お姫様なんて言われたことなかったし」
嬉しかった思い出が溢れる
「誕生日、忘れられちゃったことがあってね。でも、がっくんだけは憶えててくれて。靴、プレゼントしてくれたんだ。嬉しくてしょうがなかったなぁ。冬休み、楽しくしてくれたのもがっくんだったし」
「あ~、冬休みに騒ぐの始めたのっておにぃだったんだ。メー姉が提案したんだと思ってた」
リリ姉に顔を向ける。背をそらし、片肘をつき、手の甲に顔をのせたリリ姉。小悪魔なポーズで
「うんっ。宿題してたわたし達にね、甘酒持ってきてくれて。勉強『頑張らな~い』って。おせちとかご馳走もつくってくれたんだ~」
「そういえば、ぽ兄ちゃん。前にチョコ嫌い克服できたの、リンちゃんのおかげって言ってたけど。何したの~、リンちゃん。わたし、ビックリしちゃった。久しぶりに会ったら、ぽ兄ちゃん、チョコ食べられるようになってるんだもん」
今度はめぐ姉を見る。うつぶせになって微笑んでいる
「んとね、一緒に住んでたときね。わたし、がっくんの部屋に行ってみたくてね。頼んで、連れて行って貰ったことがあったの。刀とか見せてくれた」
「あ~、居合いか。何がおもしれ~のかなぁ。たまに、勇馬とチャンバラしてっけどさ~。重音さんとも手合わせしてっけど。痛くねえかあれ」
今度は寝そべって、横向きにわたしをみるリリ姉
「『大切なモノ護れるように鍛えとけ』ってがっくん言ってた~。リリ姉達、護るためじゃないかなぁ、鍛えてたの」
何気ないわたしの一言、頬が緩む姉達
「かる達も、りんりん達も。あにさまが護ってくれる」
夢みる乙女顔のカル姉。でも、本当のこと。カイ兄、めー姉、そして、彼。何処へ行っても、どんなときでも護ってくれた。わたし達を育ててくれた
「ったく、護ってくれんなら置いてくなっつ~の」
頬を染めて言うリリ姉
「でもさ、嬉しかったよねリリちゃん。ぽ兄ちゃんが格闘家やめるって言ったとき。このPROJECTに加えて貰えるって聞いたとき」
今度は、わたしの知らない彼の話をするめぐ姉
「めぐ姉、がっくんは何で格闘家やってたの。そういえば、リリ姉とカル姉って『親族』さんだよね。なんで一緒に暮らしてたの」
気になったことを素直に聞く
「あ、んとね。リリちゃんのお父さんは、わたしのお父さんの弟さんなの。ヨーロッパで、演出家さんやってる人でね」
「ウチが生まれる前、日本来てさ。活動おわって、また本来の拠点、ヨーロッパに戻らなきゃならね~って。ウチ、外国行きたくね~し、転校とかもイヤだってったら~」
「あにさまのお家で暮らすことになった。近所に住んでたし、カルもリリ姉様も、あにさま好きだし、お得ぷらん」
共同生活のワケを語ってくれる、姉三人。そうか、わたし達メンバー、家族と距離が離れてしまう。だからこそ、より縁(えにし)の深い『家族』になるんだな、メンバー同士。チラリと考える
「格闘技はね元々、お父さんに、子供の頃から鍛えられてたらしいの。総合格闘技って言ってたな。お父さん居なくても、道場には通えって厳命されてたらしくって」
プロレスやボクシングなど、格闘技を観るのが苦手なめぐ姉、困り顔。ただし『お相撲』は好んで観る、相撲女子
「オジキが音楽関係の人間だからさ。おにぃも音楽の高校、大学いってたんだけどぉ。歌い手になりたいなら、自分の実力で成れって」
「はたちまでに芽が出なければ、辞めて別の道へ進め。おじさんの言いつけ」
説明してくれる姉達。彼が来た時、25歳だと言っていた。じゃあ
「がっくん、どこからもスカウトとかなかったの。あんなに歌上手なのに」
「うん、リンちゃん。上手いだけじゃだめなんだって。いろいろあるらしいよ。きっと、お父さんの名前出せば、一発合格だろうけど」
「コネとか絶対使うなってオジキが言ったらしい。でも、このPROJECTはそんなの関係ね~じゃん」
「かくとうかしながらも、あにさま歌ってた。歌うことが好きだから。ある日、らいぶはうすに現われた人に誘われたって」
そうか、そこで神威組のプロデューサーに出会ったのか
「スカウトしたらし~ぜ。プロ(プロデューサー)が。この声しかねぇって。おにぃ嬉しそうだった」
そんな苦労をして、彼はやってきたのか。あの日の京都、姉達の部屋。初めて知ったこと
「そっか、がっくんそんなに大変だったんだ」
「わたしも嬉しかった。安心した。試合が終わった後ね、ぽ兄ちゃん、傷だらけで帰ってくる事ばっかりだった。恐かった。ぽ兄ちゃん、壊れちゃわないかって」
やや涙ぐむめぐ姉、本当に心配だったのだろう
作品名:はじまりのあの日12 古都と公演とガールズトーク 作家名:代打の代打