はじまりのあの日13 一緒と内緒の古都巡り
「はい『ボカロ』大集合」
PROJECTの略称で、一つのテーブルに集結を促す紫様。VOCALOID PROJECTの略称が、聞き手の皆様から『授け』られるほどに、染み渡った。このお店での出来事だってその証に他ならない
「この真心お菓子のお礼としてさ。大人組とティーンで、あの歌、アカペラ即興で歌おうじゃない。子供達、好きに踊ってほしい」
紫の彼、お店の心遣い、お客さんの眼差しに答えようと提案
「良いですね、あの曲なら、そう長くもなりませんから」
「デハ、拙者、バスメロディーを担当イタス」
みんな、顔を近づけ、ナイショの会話
「ゎたしと先生さんでソプラノを、ハモはもするから、リリちゃんがティナーパートね~」
「おにぃ、リン。メイン歌ってくれよ~」
リリ姉の手が、わたしの首に回る。片手で撫でてくれる
「やった~。がっくん、よろしくね~」
「歌っちゃおうじゃない、リン。よっしゃ、みんな~ごっめんよ~」
店のみんなに呼びかける彼。歓喜の歓声。少し、テーブルが下げられ、始まる即興の歌会。楽器が無くたって、この声がわたし達の商売道具。披露させていただきます。歌う大人組、踊る天使組。気ままな野良猫と、飼い猫『恋』の歌。レンとめぐ姉の持ち歌。思えば、わたしと彼に歌わせてくれたのは、IA姉、リリ姉の『応援』だったのかもしれない。お店の中でも、大歓声を頂いて。美味しい和菓子まで頂いて。大満足で後にする
「おみせでおどると、おもわなかったです。ひやま先生」
「私もですよ、ユキさん。浸透したんですねプロジェクト。光栄な事ですね」
「超たのしかった~。ぜんざいもメッチャ旨かったし、言うことな~し」
ユキちゃん、先生、リリ姉と手を繋ぐ。旅館は、もう近くなので歩いて向かう
「さいんをかいたのは、きょうがはじめてです。あるのだんなさま」
「良い経験ガ出来たでゴザルナ殿下。きっとコレカラ機会が増えるでゴザルヨ」
リュウト君を肩車するアル兄
「オリバーくんは、どうだった」
「オテラ、オチャヤサン。タノシカタデフ」
「渋いじゃない、オリバー。見所あるぞ~」
わたしと彼、キヨテル先生達と、同じように手を繋ぐ
「あたしも~。初めてばっかりで楽しかった、IAちゃ~ん」
「良い一日だったよね~いろはちゃ~ん」
古都、京の都。そう言われるが街の中は、現代の大都会に他ならない。一大観光地でもあるこの街は、人の密度も高かった。手を繋ぎあったのは、子供達とはぐれないようにという大人達の配慮。その中に、わたしも含まれていたことは、あの日は考えもしない。午後四時過ぎ、ホテルに入る。フロントで鍵を受け取る。それぞれの部屋で、荷物を置く。天使様は、少しお疲れなので、部屋で休憩。わたし達は、居残りメンバーが集まっている部屋へ向かう
「あ、おかえりなさ~い」
「っす、ど~たったすか」
「と~っても楽しかったよ~、っゎゎ~」
「こっちも派手にやってたようじゃない」
めぐ姉、勇馬兄の声が部屋の中から。先頭で入ったIA姉、たまげた声。紫の彼からあがる、ややあきれが混じった声。わたしも、彼の脇からのぞき込む。と、ころがる、ペットボトル、スナック菓子の空き袋。昼食にしたと思わしき、ピザの空き箱。チョコレート菓子の食べ残しや、ビスケットの余り。そして
「そちらのコインは」
怪訝な顔で聞くキヨテル先生
「にゃはっ。皆でゲーセンによってさ。お菓子のクレーンゲームやったら、たまたま一発でくす玉が割れてよう」
愉快げに説明を始めるテト姉
「悪ノリして、もっかいやったんです。そしたら、また、くす玉割っちゃってっ。二度あることは、なんてコトワザがあるから、試してみようってしちゃったんです~」
ピコ君、公演後で、本当に悪ノリしちゃったんだろうな。悪ふざけモードって、滅多にない。と、思ったら
「うちが思いついちゃってねっ。そしたら、ホントに割れちゃって、くす玉。これ全部コインチョコなの~。すごいっしょ。これでも減ったんだよ~」
小箱一杯のコインチョコを示すピコ君、Mikiちゃん。Mikiちゃんの悪ノリだったのだ。百枚以上はあるだろう、コインチョコ
「ヘッタとは、いかなる由縁で、でゴザルカ、Miki殿」
「あ、重ね~さん提案のゲームでね~。まず『何枚』って宣言するの」
顔が引きつっている、アル兄
「1~10枚の間でっす。んで、その時一番多い数を採用っす。カードゲームをやって」
楽しげに説明を引き継ぐ、勇馬兄
「最下位の人が、そのチョコ枚数を一気食いです。オモシロイでしょ~」
笑顔のピコ君。何をしているのだろう。でも、この勝負の仕方。どこかで聞いた気もする
「太っちゃうし、からだに悪いよ~ぅ」
「はなぢ出そ、アタマの血管切れじゃね~の~」
IA姉のあきれ顔は珍しい。リリ姉、目に蔑みの色。テト姉は楽しそうに
「にゃはは~。激辛とか、アルコール系よりいいじゃん。それに、未成年組も参加できるしなっ」
「また、帰ったら沢山運動しないとね、重音さん」
「めぐ、ったく。重音、お前等、阿呆だろう。ん、テル、おい」
あきれ果てる、紫の彼。その横を、無言で通り過ぎるキヨテル先生。眼鏡を、頭に上げる。有無を言わせず、テト姉に近づく。と、右手で頭をワシヅカミにする。意外な行動に、全員固まる
「重音さん。そのゲームは、二度としてはいけませんよ~。特に、天使様の前ではぜ~ったいに、ですよ。お利口の重音さんなら、聞き分けていただけますよね~」
「ん、どした、先生たん。て、痛、イタタタタ、せせせ、先生」
「二度としませんよね~」
もがくテト姉。テト姉の戦闘力は、最強足る紫の彼に次ぐはずなのに。先生はこの時その上をいっていた。言語道断オーラも、めー姉の上を行く。万力で、クルミを潰すような音が聞こえた、気までした
「賭け事や、変なゲームはいけませんよ~。特に『未成年』の皆さんに影響するようなものは~」
「わわわ、わかった。わかりました~先生もうしません~。ぐにゃあああ、てんて~ごめんにゃさいいい」
頭から手を放すキヨテル先生。テト姉が崩れ落ちる。先生、わたし達に向き直り
「ね、皆さん」
細目のまま笑顔。というか、目は笑ってない。めー姉が、和を乱すワガママを許さないように。紫の彼、わたしとレンに過保護なように。先生は、天使様達へ。悪影響をもたらすものを許さない。沸騰点があることを知る
「こ、こええ」
「わわ、わかりました~」
「し、しないです~。二度と~」
勇馬兄がポツリと。めぐ姉、ピコ君は怯えながら
「センセ、マジカッケエ」
乙女モードに入るリリ姉
「か、重ね~さ~ん、生きてる~」
倒れ込むテト姉の心拍を確認するMikiちゃん
「ま、概ね、テルの意見に賛同~。心配すんなMiki、その程度でクタバル奴じゃない。さぁて、駅組が戻ってくるまでに、お片付けしようじゃない」
まだ帰還していない駅組が来る前に、片付けを促す紫の彼。食べ残しのお菓子はまとめておく。ゴミは袋へ。その最中に、駅組が帰ってくる
作品名:はじまりのあの日13 一緒と内緒の古都巡り 作家名:代打の代打