はじまりのあの日14 秘密の贈り物
「お、タイミング同じじゃない。やっぱ俺らも、ゆっくりしすぎ~」
男湯から出てきた、彼らと鉢合わせる
「はは、普通、女の子のが、時間かかるはずだけどね。アルがサウナで、腹筋始めちゃったりしたのもあるけどさ」
「髪おろしたがく兄とピコが、入ったとたん『女~』なんて言われてさ。湯船でも広がるし。がく兄の髪、なかなか乾かなくてさ~」
事情説明、さっきから楽しげな弟。むむむ
「自分やアルサンは、そこまで時間、掛かんないんで。がくサンに加勢して。最後は、全員でドライヤー大会っす」
浴場の前、浴衣姿。髪をおろした彼と片割れ。ただ、綺麗なストレートの彼と違い、レンは癖が強い髪。それは、わたしにも言えるのだけど。彼の頭の上、しっかりアホ毛。カイ兄だけがいつもと変わらない髪型
「失礼ツカマツッタ。拙者、ガタイの良さも売りユエ」
「あはは、ダメよアル。体にも悪いから。ま~たしかに神威君『美人』って言葉が似合うものねぇ、嫉妬しちゃう程。ピコ君も『美少女』じみてるし。ってか、うっと~しくないの神威君。この髪~」
艶やか、紫様の髪に指を絡めるめー姉『あら、ホントにさらさら』と声を上げる
「ぶっちゃけ、うっと~しい。何でここまで伸ばしたか。けどもう、変えられないじゃない。この髪型。俺イコール、サムライポニーになっちゃった」
「でも、かむさんの髪。サラサラで憧れます。乾かしてて楽しかった~。良い香りがします~」
苦笑いの、めー姉、紫の彼。乙女顔のピコ君は、花飾りのヘアピンで前髪を留めている。アホ毛は元気。勇馬兄は、カチューシャで髪を上げ、アル兄は髪がねている。整髪剤を付けていないため
「わ~、何か新鮮だね~。違う髪型大会だ」
IA姉はストレート。ただ『犬耳ヘアー』と世間様に言われる、わんちゃんの耳のような癖毛はそのまま。完全なストレートヘア、ミク姉はポニーテール
「毛髪の量なら、ワタシもミクさんも同じようなモノですわ。神威さん。心中お察しします。ワタシも手伝っていただきましたもの」
「うちもだよ、ルカね~さん。何気に、ロンゲ率高いよね~、このメンバー。でもホント。意識するとし~んせ~ん。あ、神威のアニキも治んないんだね、アホ毛~」
Mikiちゃん、彼のアホ毛を再確認
「Mikiピコと同じじゃな~い」
「あ、ほんと~ですね。ぼく、Mikiちゃん、かむさん。わ~い、アホ毛同盟だ~」
ルカ姉、カチューシャでおでこを出す。Mikiちゃん、低い位置でのツーテール。アホ毛は健在。なんだか二人とも、幼く見える。言われてみると、確かに新鮮。なんだか、色々な髪型に出来るのが羨ましくなる。アホ毛同盟のように、アホ毛もないし
「いいなぁ。わたしなんて、後ろハネのクセっ毛。ショートだし、髪型、自由にできるの羨まし~」
「あ、わかるよ~リンちゃん。わたしも同じ~。いっつも同じ髪型だもんね~」
「ほんと、めぐ姉。良かった~わかってくれる人がいて」
悩みの種なのに、めぐ姉と同じが嬉しくて。変に気分が良くなる
「アタシは、リンもレンの癖毛も好きだけどね~」
「自分も、グミサンの髪、い、良いと思うす」
「ありがとうね。あはっ、勇馬君のカチューシャかわいいね~」
部屋へ向かいながらの会話。めー姉の褒め言葉とは、何となく違うトーンの勇馬兄。めぐ姉からのカワイイの言葉。風呂上がりの赤さとは違う赤さが、頬に浮かぶ
「でも、やっぱりいいな~。ルカ姉とか、がっくんみたいなサラサラの髪~。ミク姉もクセないし~」
「結構、お手入れ大変なんだよ~リンちゃん」
「本当ですわ。枝毛に気をつけて、トリートメントは欠かせません」
ミク姉、ルカ姉の言葉。それでも、自分にないものは欲しくなる。羨ましく思えるものは。トリートメント、お手入れ、大人の単語に聞こえてしまう『大人』に憧れ始めたあの頃。その『理由』には気付かずに
「大人っぽいサラサラのロングヘアー。憧れるな~」
頬を膨らませて、下を向いた覚えがある。何故か、気落ちして
「これはこれで、苦労するじゃない、リン。ルカが言うようにな。シャンプー代もバカにならないし。よし、メイコ。これから二次会するじゃない」
「当然、神威君。アタシの部屋集合ね~」
紫様の肩を叩くめー姉
「なら、その時だ。お前達、今みたいに色んな髪型で集合しようじゃな~い。テルとリリも巻き込んで」
「さんせ~い、神威のアニキ~」
「もう、その流れですよね。Mikiちゃん。ぼくも賛成しま~す、かむさんっ」
楽しい彼の提案に、アホ毛が跳ねる、ピコ君、Mikiちゃん。メンバーも活気づく
「オレはできる髪型、少ないけどね。でもノッタ~」
「拙者モ同様でゴザル。が、参加させてイタダク」
カイ兄、アル兄、確かにあまり変化は出来ない。が、浮き浮きと参戦希望。そうして、それぞれの部屋に入って数分。めー姉の部屋に集合。全員、第一印象の強烈さに爆笑する
「あ~おかしい。何それ~」
「ははははは~神威のに~さん」
「かむさんっ、何かかわい~です~」
現われた彼。頭の上にリボンとアホ毛。別れた後、わたし達の部屋に借りに来た彼。さっきまでわたしが付けていた、桃色のリボン。笑うめー姉はユキちゃんのような髪型、IA姉はサイドテールの三つ編み。ピコくんはさっきのヘアピン。でも、フリフリパジャマに着替えて『お姫様』状態
「メイコ、お前も可愛くなったじゃない。IAも良いぞ、それ。ピコは完全に男の娘~」
以前、PVの撮影で、わたしの代役を務めた女性。あの撮影が行なわれたのは、彼が来る以前の事。大人のわたしをイメージした女優さん。あの人がしていたような髪型で現われた彼
「ぽ、ぽ兄ちゃんかわいぃぃぃ」
「おにぃ、美人になってんじゃ~ん」
「あにさまがおひめさま」
めぐ姉はリボンを付けて、短い三つ編み。リリ姉は、紫の彼がしている、サムライポニーのコピー。カル姉は、頭上いってん縛り。三人の姉達の評判も上々
「そこまでじゃ~ないじゃない。どう、リン。いつものリンの髪型真似てみた」
「う~がっくんのばかぁっ」
一瞬、その場全員が凍り付いた。でも、怒ったわけではない。多少腹は立った。だって
「わたしより美人さんになるなんてずるい~ぃ」
言って、破顔して。彼に飛びついた。たちどころに、華やぐメンバー
「ビビらせんなよリン。がく兄とケンカ始まるかと思った~」
「うちも、焦った~。仲良し、こよしの二人がさぁ」
胸をなで下ろすレン、ミニポニテ。わたしはゴムを使って、彼の『アホ毛』を真似してみる。同様にため息一つ、Mikiちゃんは普段のミク姉ヘアーを真似た物。プラスアホ毛
「はは、ごめんな、リン。でも、美人はないじゃない」
「ううん、がっくん美人さん」
「殿、オレもそう思う」
「おれもす、がくサン」
わたしは、ただただ楽しかった。が、何か複雑な表情のカイ兄、前髪を縛る。さっきのカチューシャ勇馬兄。何を思っていたかは不明
「うん、リンがもとに戻って良かった。髪型だの癖毛だの、気にしなくていいじゃない。その笑顔のリンがいっちば~ん」
作品名:はじまりのあの日14 秘密の贈り物 作家名:代打の代打