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はじまりのあの日14 秘密の贈り物

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「ゎたし思うんだ~。神威のに~さんの前世(まえよ)歌~。あれ、相方は、リンちゃんがいいよ~ぅ。ミクちゃんがダメってわけじゃ~なくて」
「あ、確かに~。ぽ兄ちゃんとリンちゃんってアリだと思うな~」

お煎餅をつまむIA姉。お茶団子を食べるめぐ姉。反省会という名の、内輪語り。申し訳無いんだけれど楽しい。話しが『その方向』に向かわなかった『この日』は楽しかった

「でもさ~、ほんと最近増えたよね~。神威のアニキとリンちゃんのデュエット~。うちも結構好きなんだ~」
「確かにそう思いますわ。急激に増えましたもの。ふふっ、女性プロ様の作為を感じますわ。でも、多いですわね『悲恋』や『別れ』と言った曲も」

訝しむよりも、楽しげなMikiちゃん、生菓子のおまんじゅうを食べている。おでこ出しのルカ姉もスパークリング清酒でご機嫌な様子

「作為、ですか。善からぬ事を考えている。そうだとすれば、お話しが必要ですね」

いつも通りに戻った、キヨテル先生の目が半眼に。全員慌てて諫めにかかる。ただ、紫の彼だけは余裕顔。お茶で作られたという焼酎を飲みながら

「テ~ル、ありえないじゃない。俺とリンだ。女主(じょぬし)がどんな趣味か知らんが、ぶっちゃけた話し、ありえな~い」
「ありえないって、な~にがっくん。何がありえないの~」

彼の膝に収まるわたし。みたらし団子を食べながら

「ん、ああ、リン。ありえないじゃない。俺とリンがケンカするとか、アンドロイドと科学者みたいな別れ方すんの。あんなお別れはしない」

おそらくは、話しをはぐらかした彼

「あ~、あのPVすっごく悲しかった。何か、本当にお別れしちゃいそうな感じになるんだもん」

思い出しても、泣きそうになる。ただ、曲を録音した時とPVでは、設定や世界観が異なる

「ソウイエバあの歌は、レン殿、リン殿の持ち歌でゴザッタ。イカニシテ、神威殿とリン殿のPromotionvideo(プロモーションビデオ)が誕生したデゴザルか」
「あのね、アルにぃ、歌を歌ったのは、がくさんが来る前だったんだけどね~」

アル兄質問。玉ねぎチップスを手に、事情を話し始めたミク姉

「PV撮影になったらね、ど~してもイメージと合わないって。レン君とリンちゃんだと。大人レン君に見立てた、イケメンモデルも当たってみたんだけどね。ど~しても違うって。そりゃそうだよっ、レンくんのがイケメンなんだからっ。モデルさんなんかよりっ」

途中で曲がどうのでなく、モデルさんとレンを比べたことに憤慨するミク姉

「歌ったおれとしては複雑な気持ちなんだけど、何か分かるんだ」

そうなのだ。レン自身が話しを軌道修正。弟自身『歌』とPVのギャップに悩み、苦悩していた。一人きりとは何か。科学者だけが生きている世界なのか、で、あれば何故一人か。そもそも一人だけで生きていけるのか等々。突っ込まれる度に、プロデューサまで苦悩する。そこにやって来た彼。なぜカイ兄でも思い浮かばなかったかは謎だが

「設定変えて、がく兄で撮ろうって。プロさん、思いついたって」

レンが説明を続ける。設定を変えて収録された映像。だから、今もあのPVは、世間には『外伝』として。でも、ファンの方には『傑作』として。語り継がれている。娘を失った、一人きりの科学者が『娘』を生き返らせようと造ったアンドロイド『心』を持たない、娘の生き写し

「一人娘に『成って欲しい』って、科学者が研究をはじめる設定になったんだよね。そのまま『歌劇』にしてさ」

カイ兄が説明を受け継ぐ。そして科学者はある日、人形の娘から『奇跡』の言葉を受け取る

「お父さん、ありがとう。体をくれて、生み出してくれて『心』をくれて。わたしはおかげで、みんなに可愛がってもらってます。歌を紡ぐ『機械の娘』として。だからお父さん、今のわたしが幸せなように『その子』にも『心』をあげてって台詞。はは、思い出しても泣いちゃいそうじゃない」
「レンが『最後壊れちゃうなんて可哀想だよ』って言ったのがきっかけでね。歌詞通り『永遠に』歌うアンドロイドって事になってね」

紫様、やや声が湿っているのは気のせいではない。カイ兄も同様だ

「あれの時も大変だったわねぇ。撮影はじめたら、何度も泣いちゃって」

そう、世の中には出回っている。彼が科学者を、わたしがアンドロイドを演じ、レンの歌を使用したPVが

「役に入りすぎたんだよね。リンが大泣きしちゃってさ『がっくん、お別れやだ~』って。しまいには、殿も泣いちゃって」

しっかり覚えられていた、恥ずかしい過去。めー姉、カイ兄が暴露する

「も~。さっきから、恥ずかしい思い出ばっかり言わないでよ~」
「けれど、あれがきっかけで誕生した名曲もありますわ。神威さんが歌った、科学者の『想い』の歌」

ルカ姉が言ってくれる。そう。彼が歌ってくれた名曲。きっかけは、その恥ずかしい思い出

「わ~ぁ、あの歌~。そんなきっかけがあったんだ~。なんだか素敵~」
「あ、そっか。まだIAね~が来る前のことだもんな」

今度は、餡なし名物を食べるIA姉がつぶやく。ビスケットをつまむ、弟が言う。そう、彼とわたし。メンバーの中では古参組。みんなが知らないエピソードもそれなりにある

「メイコ達を率いてた主がさ、浮かんだって。科学者が、何を想ってたかって。リンのおかげで出来た歌じゃない。それで、研究を続ける決意をするって。笑顔で『生きて』ほしいからって」

紫の彼、どことなく嬉しそう

「色~んな出来事があって、歌が生まれるんですね~。素敵です~」
「そ~だよ、ピコ君。IAちゃんが来てから、わたしたちのプロデューサー張り切っちゃって『コ・イ・ツ・だ~』とか、狂喜して乱舞しちゃって。そこから、やたらと熟語の曲連発しちゃったもの~」

『乙女顔』のピコ君。めぐ姉は、やや困り顔

「あ~、ちょっとアヤシイ雰囲気のアノシリ~ズか。あの歌さ、大人組で歌うと、色気やばくね。男女でもすっげ~カンジ変わるし~。特に、おにぃとセンセの組み合わせとか。しょっぱなセンセがセンターとか、ウチ得以外の何でもないんだけど~」
「あ、確かに。歌う人でがらっと変わるよねリリィ姉。わたしは、アレが良かったなぁ。ピコ君とMikiちゃんのダンス。歌の名前も、ロボロボコンビにぴったり。アホ毛ペア~かわいいよ~」
「それ、かるも思う、みくみく。ピコピコとミキミキ、かあいい」

リリ姉はあの日、わたしと彼の事には触れなかった。ミク姉、カル姉は純粋に、コンビのお気に入りを言う

「ありがと~。確かに、同じ歌歌っても、メンツで雰囲気メチャクチャ変わるよね~。お客さんも喜んでくれるし」
「み~んな格好いいですよぉ。でも、く~る組、せくし~組、きゅ~と組で別れますね~。天使様の可愛さはまた別格です~」

褒められて、笑顔で褒め返してくれるMikiちゃん、ピコくん。二人仲良くたべるお麩のまんじゅう

「男衆だけのダンスも良いわね~。衣装のお揃い感がハンパないわ~。で~もアレやると、まだまだ小っちゃいわね~、レ~ン。セクシーの中に、一人かわいいのが入ってる感じ」
「うっせ~めー姉。おれだって気にしてるんだからっ」