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代打の代打
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はじまりのあの日16 バレンタインとリップサイン2

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「お待たせじゃな~い」
「「「「おまたせしました~」」」」

大きな箱を手に、包みを腕に下げて入ってくる、彼。お揃いのセーラー服を着る天使様は手ぶら。めぐ姉、カル姉は、おぼんを持っている。天使様を意識してか、慌てて離れる、兄と姉。わたし、その声に硬直

「お、オレ、ケーキ取ってくるよ。冷やしてあるやつっ」
「お、お願いカイト」

真っ赤な状態で、キッチンへ向かう兄。同じく真っ赤な姉、立ち上がって大テーブルへ

「お前達~、今年は天使様からのお恵みがあるじゃな~い」
「ぽ兄ちゃんの指導で、わたし達のために作ってくれたんだって。すっごく美味しそうだよ~」
「みんなが、初めて作ったお菓子。感謝の心でうまうまうま」
「え、マジっすか、なんかすっげ~嬉しい。サンキュ~な、みんな」

おぼんの中に入ったお菓子。それは、天使様が作ってくれたもの。とてつもないサプライズ。お手伝いではなかったのだ。珍しく、率先してお礼を言う勇馬兄。その腰にしがみつく、笑顔の天使様。勇馬兄メロメロ。メンバー全員も頬が緩む、わたし以外。わたし、硬直する身体がほぐれない

「にいさまにおそわって」
「ユキたち、つくってみたの」
「おいしくなかったら、ごめんなさい」
「ガ、ガンバッてミマフタ」

口々に告げる天使様。めぐカル姉の手によって並べられたそのお菓子は

「チョコムース。間違いないと思ってさ。お利口さんが、頑張ってくれたじゃない。人数分あるってさ~。あ、リリとテル、二人は特別製。天使様の感謝のお印~」
「「「「キヨテル先生~、リリちゃん、ありがと~」」」」

告げる彼。リリ姉と先生のチョコムースは生クリームが山盛り。クラッシュのチョコや、ウエハースも乗っている。軽いパフェ。天使様のお礼の言葉を聞き、召されそうな二人。紫様、持っていた箱をテーブルに載せる。ムースを置き、寄ってくるめぐ姉

「さぁ、リンちゃん。どうかなっ、ぽ兄ちゃん」

わたしの肩を抱き、紫様の前へ押す。女性一同が集まりだす。わたし、縮こまる。めぐ姉、耳元で『大丈夫』と

「あにさま、きょうのりんりんはっ」
「神威のに~さん、気付いてあげて~」
「ん、どした、カル。IA、リンが―」

応えようとして、わたしを観る。彼と目が合う、目を丸くする彼。次の瞬間微笑んで

「リン、イイじゃない、めぐ達がやったのか。いや、化粧はルカかな。髪のセットも洒落てる。ああ、リボンは『あの日』のヤツだ。すごく似合ってるじゃない」

即座に気付いてくれる。これ以上無い彼の言葉

「あ、化粧してんだ、リン。言われてみると『何か変わった』のってそれか~」

片割れの言葉、ようやく気付いたようだ。弟の言葉は、わたしの心を奮い立たせる効果もあったようだ『どんなもんだ』と『今日のわたしは違う』のだ、と

「がっくん、どうかな、お化粧。わたし、可愛くなってるかなっ」

調子付いたから、そして、めぐ姉が肩を抱いててくれたからこそ言えた台詞。肩を抱かれたまま、少しだけ胸を反らす

「と~っても可愛い『大人の可愛さ』に仕上がってるじゃない。コロンかな、香りの正体は。まつげ『つけま』じゃないな、ビューラーで上げてるんじゃない」

と、少し屈んで来る彼。顔が近くなって、思わず肩が跳ね上がる

「ふふふ、大正解っ。ぽ兄ちゃん、リンちゃんかわいくなったでしょ、すっご~く」
「リンちゃんは、神威さんのためにMakeupしたんですよ。勇気をだして、大人の一歩ですわ」
「史上最高にかわいいリンちゃん、披露会だよ~ぅ、に~さん。さぁリンちゃん、渡さなきゃ~」

ルカ姉が『援護』の発声、IA姉は『援軍』に来てくれる。ちょっとだけ躊躇したけど

「これ、今年のチョコレート。ありがとう、がっくん。いつも優しくしてくれて」

応援に促され、両手で差し出すのは、インゴット型のホワイトチョコ。黒の箱に入った、少し高級な。これ、少しだけ仕掛けをしているわたし。これも気付いてくれたら嬉しい

「ありがとう、リン。装飾(かざり)のリボンが白いってことは、ホワイトじゃない。中身のチョコは」

微笑んで聞いてくる彼。仕掛け成功

「うん。がっくんと、初めてのバレンタインもホワイトチョコだったから」
「うっわ、通じ合ってるな~、おにぃとリン。だっからマジ焦(じ)れって~」

リリ姉の声が聞こえる。受け取ってくれる、彼。少しの間、箱に手を掛け、次の瞬間、わたしの手を、優しく取ってくる。再び肩が跳ね上がる

「いい色合いじゃない、マニキュア。今日はおめかしモードだ、リン。ヘアピンもよそ行きのじゃない。そうか、リボンの結び方もあるな、大人っぽく見えるの。IAが言ったな『史上最高』って。ホント、今までで一番可愛い」

頬が熱くなっていく。気付いてくれたことが、褒めてくれたことが、堪らなく嬉しい

「良かったね~リンちゃ~ん」
「もぅ一息~ぃ、リンちゃ~ん」
「たたみ掛けろ~、トドメだぜっリンたん」

めぐ姉、IA姉の黄色い声。テト姉の弾んだ声で正気に。戻ったが故、一瞬の間

「え、もう一息って、何。とどめって」

顔を見合わせる、めぐIA姉。又一瞬の間、残念そうな微笑みを浮かべる。盛大なため息はテト姉だろう

「あ、な、なら、アニキの方からはナイっ、今日のリンちゃんに感じる事、とか~ぁ」
「おにぃ『可愛い』の外に何かねぇ、リン、今日は気合い入れてんだぜっ。なんっかナイ『想う』こととか」
「何だか知らんが、必死じゃないお嬢みんな『思うこと』か」

多分『おもい違い』をしている彼。あの日、そんな気は回らない。受け取ってくれたチョコを、テーブルに置く。そしてわたしをじっと観る。凄まじく照れくさかった覚えがある

「うん」

つぶやく彼、の右中指が、わたしの下唇に触れる。肩が跳ねる、めぐ姉の目がまん丸になる。なぜ、後ろのめぐ姉の表情が解るのか。彼の後方、つまり、わたしの斜め前で『撮影』していたミク姉。映像が保存され、それを後から見返したから

「この唇は『色っぽい』っと思う、多少。今までの『可愛い』よりは。綺麗に成っていくじゃない、リン。今までにはなかったカンジじゃない。クラッと来ちゃう」

あの日、言ってくれた精一杯の『お世辞』もう、わたしの心拍といったら、200m全力走を終えたとき以上の跳ね上がり方

「ととと、ということは~神威のに~さん」
「ぽっ、ぽ兄ちゃんっ、リンちゃんの事をっ」

頭の上に、巨大な疑問符が浮かぶ紫様。珍しく、彼のアホ毛まで?マークに変化

「可愛いと思ってるぞ、いつも。それがどうした」

今度はわたしの頬に手を当て、撫でてくれる。彼の手のひらの感触が心地よくて、思わずにその腕を取る。より自分の頬を押し当てる事で、心拍数が元に戻っていく

「がっくん、褒めすぎ」

めぐ姉の手を離れ、後ろ向きになって、彼にのし掛かる。図らずも手を取ったことで、彼に包まれる形になるわたし。照れているくせに、その気持ちを生み出す大元。紫様に寄りかかる。一体わたし、どういう神経していたんだろう

「でもうれしい。ちょっと恐かったケド、お化粧、してよかった」
「がんばったじゃない。変わるって勇気要ることじゃない」

抱え込んで、撫で回してくれる彼