はじまりのあの日16 バレンタインとリップサイン2
「リ~ン、神威君も。な~んにも解ってないのね『そこ』だけっ。もぅ、甘ぁ~い空気なのに~」
困った顔で『何か』を聞いてくるめー姉。少しだけ頬が赤い
「ぐぐぐ、グミちゃ~ん、くすぐったいよ~ぅ」
「ど~ぅしてなのかなぁ。こんなに良い雰囲気なのに~ぃ」
めぐ姉の胸に、顔をうずめるIA姉。その頭に顎を乗せ、背中をさするめぐ姉様
「うずうずでも、時間を掛けて見守るしかない。おもいがはぐくまれることを」
「カルさんの言うとおりにするしかありませんわ。おそらく、お気づきでないダケかと」
カル姉目をつぶって、両手を組む。ルカ姉困った笑顔で、頬に手を当てる
「は~い、持ってきたよ。いちごのレアチーズ~」
「お~い、リン達何してんだよ、手伝えって~」
そのタイミングでキャスターを押し、入ってくるカイ兄。上がるレンの不満声『タイミング悪ィ』という、テト姉の小声
「お、カイトは二作か、負けられないじゃない。俺はこれ、作ってみた」
わたしの頭を一撫で
「さ、お手々離して、リン」
「ん、がっくん」
手を離すわたし、から離れる紫様、ちょっと残念。周囲の女性陣の残念感は何故だろう。わたしと彼へ注がれていた視線が散る
「「「「すごいんだよ~」」」」
天使様の声で、一斉に集まる期待の視線。完全にケーキモードメンバー。箱を開ける紫様。出てきたのは、白い大木。フルーツや生クリーム、チョコのプレートには、ハッピーバレンタインのローマ字。砂糖細工などで彩られた、とても美しいケーキ。わき起こる歓声
「すっげ~ぇ、がく兄。これもしかして、ブッシュドノエルなの」
「ゎ~、おいしそうぅ。食べるのもったいないくらいに綺麗~。でも、早く食べた~ぃ」
今にも食らいつきそうな片割れ。IA姉も悶絶。箱が取り除かれたことで、撒き散らされる甘い芳香『色気より食い気』と言う言葉の通り。すべてのメンバー、気持ちがケーキに前のめる、というか、倒れ込む。カイ兄と紫様の作る食べ物、それだけの神通力を持っているということなのだ
「レン正解~。ホワイト・ブッシュ・ド・ノエル。ホワイトチョコレートでコーティング。スポンジはココア味。間には、ビターチョコレートのクリームが入ってる。飾り付けは、天使様も手伝ってくれたじゃな~い」
普通のブッシュ・ド・ノエルと比べれば、五倍はあろうかという大木ノエル
「拙者、ソコマデノ甘党ではナイガ、これは堪らん。今にも胃袋が暴走しそうでゴザル」
「うふっ、分かります、アルさん。ぽ兄ちゃんも、カイトさんも、本職さんに勝っちゃうよね~」
辛党のアル兄、珍しく甘い物に食欲が先走る。楽しそうで嬉しそうなめぐ姉
「こんなの作れるんすね~。がくサン、ホントすっげぇす」
「さ~、それじゃあ、飲み物用意して~」
さりげなく、めぐ姉の隣に陣取る勇馬兄。すでに飲み始めているめー姉が声を弾ませながら
「あ、では私、お茶を煎れて参ります。その程度しか出来ませんので」
「ウッチも行く~センセッ。手伝うぜ~」
先生達がキッチンへ向かう『その程度』などと謙遜するが、先生の煎れてくれるお茶も、総じて美味しい。カイ兄、ケーキをテーブルに乗せ、彼やめー姉がフォークやスプーンを配る。紫様は片手にトレイ、ここはナンバー1の執事カフェか、と言う風情
「はい、リン。本当に似合ってる。そんな歳になったじゃない、でも『変な』背伸びはするんじゃ~ない。めぐやルカに教えて貰おう」
わたしの脇にフォークとスプーンを置いてくれながら
「ありがと、がっくん。でも『変な』ってどういう事~」
「その辺も含めて教わろうじゃない、野郎の俺じゃなくってさ。男に『女の子のコト』教えられない。それ以外は何とかなるけどさ。お願い、お嬢様方~」
言ってめぐ姉を見る、紫様。ルカ姉が微笑みながら
「ええ、神威さん、保証いたします。リンちゃんを責任持って『素敵なLady(レディ)』にいたしますわ~」
「まかせてっ、ぽ兄ちゃん。まずは『可憐な乙女』に成らなきゃねっ、リンちゃん」
さっきわたしを『変化』させてくれた二人。任せておけば間違いなし。わたしにはルカ姉の小声が聞こえた気がした『神威さん好みの』という
「ん~、あ、ああ~っ、リンお化粧してるっ」
顔を上げたカイ兄、ビックリ仰天
「今更~、カイトのアニキ~。いっちばん始めにコノリンちゃん観たの、あにさんなのに~ぃ」
「あ、うん。ケーキに没頭しちゃって、さ。うわ~、リン―あ~、なんか泣いちゃいそう」
眉間を押さえて、天を仰ぐカイ兄
「っはは~ぁ、カイ兄変なの~」
わたし、訳が分からず、笑いが込み上げる
「だ~って、この間までこんな小っちゃかったリンがさ~」
と言って、腰の辺りで片手を振る。どうやら身長を表しているようだ
「大人っぽくなってさ~、綺麗になっちゃってさ~。どんどん、オレから放れて行っちゃうみたいでさ~ぁ」
「カイト殿の方が、妹離れ出来ていない様子でゴザル」
ため息を吐くカイ兄。苦笑いのアル兄。メンバーから、微笑のさざ波
「カイト~、そんな急に大人になるわけじゃないんだから。喜びなさい、妹の成長をっ。寂しいなら、アタシが側にいるでしょ~」
「『お兄様は心配性』ですか、カイトお兄様。ふふふ、ワタシ達がリンちゃんに『大人の魅力』教えて差し上げますわぁ」
カイ兄へ寄って行き、やや強めに肩を叩くめー姉。気付け(きつけ)と、自分のアピールと。ルカ姉、得意の妖艶笑顔
「でも~ぅ、さすがだね、カイトのに~さん。すぐに解ったね、リンちゃんのお化粧」
そこは褒めてあげるべき。IA姉完璧対応
「だって可愛さが倍になってるもん。見たらわかるよ~」
眉を下げつつカイ兄。複雑そうだが、褒められれば嬉しい
「な~んか洒落っ気出してさっ。背伸びじゃね~の、リン」
「レンだって髪、整えてるじゃん。香水も付けたでしょ~」
変に張り合う姉弟。お互いの『背伸び』をからかう。この辺り、まだ子供
「あら、似合っていますわよ、レン君。二人とも素敵になっていますわぁ」
「レ~ンくん、いいにお~い」
ルカ姉、レンの顎を上げ、ミク姉、後頭部にハナを押し付ける。照れ照っれでもがく弟。姉に遊ばれ動いた結果、筋肉痛、誘発
「さぁお茶をお持ちしました。これは素晴らしい茶会になりますね、皆さん」
「おかわり用のサーバーなんかも持ってきた~。ははは~、遊ばれてんな~、レ~ン~」
お茶を、キャスターで運んでくれる先生。各種茶器をキャスターでリリ姉。からかう声で、解放される片割れ、息が上がっている
「お、おれだって『大人る』んだからっ。子供扱いヤメてって~」
距離を取りつつ、姉に抗議。警戒して、何か構えをとる
「あら、大人扱いでも変わらないかもしれませんよ、レン君。ワタシのCommunication(コミュニケーション)は」
「レンくんだからっ、のスキンシップなんだけどなぁ」
返った姉の言葉に肩を落とす。いつものようにメンバー、笑いのさざ波。キヨテル先生、微笑みつつお茶を並べる
「何だか『学園カフェ』にいるみたいな気になるわ~」
「学園カフェにいる女学生様カナ、この光景」
作品名:はじまりのあの日16 バレンタインとリップサイン2 作家名:代打の代打