はじまりのあの日16 バレンタインとリップサイン2
何か言おうとしたテト姉、間伐入れず、眼鏡を外すキヨテル先生。軽口を言わさない『牽制球』牽制アウト、効果バツグン。テト姉、開けた自分の口に目一杯、ケーキを突っ込む
「あ、取ってあったんすか、ファイター時代のグローブ。ぅぉわ~、ガクサン、自分にも見せてッス。レア情報、リンっなうっ」
勇馬兄、歓喜。話しがここで多少ぶれる
「ああ、格闘家時代のアレェ。っへ、あんなの観たいってイミ解んね~。勇馬って変な趣味してんな~」
『小馬鹿』にした表情のリリ姉。言われた途端、逆に『馬鹿に仕返す』顔で勇馬兄
「はっっ、解んねえなら、口挟むんじゃねェよ。イイカ、BloodyVioletっつたらな、ソノスジじゃ『神レベル』のファイターだぜ。鑑定する番組に出したらゼロ七つは付くわ。協会支給のグローブ、普通じゃ手に入らねーって知らねえのかよ」
「へ~、マジ、勇馬、うっわ知らねかった。おにぃのグローブごときがね~、やっぱすげぇ、おにぃ。勇馬サンキュッ」
しかし勇馬兄の反撃は、暖簾に腕押し。紫おにぃの事が分かって嬉しいリリ姉。勇馬兄、何も言えなくなって『お、おう』と一言
「その中二な通り名、久々聞いたじゃない。で、話戻そうじゃない、どこまで話したっけ」
「刀とグローブまで~」
彼の隣、ご機嫌わたし。ぶれた話しが戻される
「ああ、そう。そしたら、今度、リンの部屋にお招きされちゃって。お礼だからって」
彼の口から、あの日の思い、聞くのは初めてだった。状況説明は、何度かあったけれど
「おやつまで用意してくれるじゃない。招いてもらって、お茶菓子貰って。もらってばかりじゃ悪いからさ。もらい物のチョコレート、食べて貰おうと思って。もともと、みんなに食べて貰おうと思ってたから。リンに最初にごちそうしたじゃない。今のところ『もらい物』ばっかりだな」
『もらう』という言葉が重なり、またも笑いの渦が起きる
「ずり~よな~。あのチョコ美味しいやつだもん。まぁ、その後しっかり貰ったけどさ~オレ達も。あ、また『もらった』話しじゃん」
不満げな片割れ。こういう所はまだ子供。苦笑いの彼
「そしたらさ『あ~ん』なんて。食べたことのない、白いチョコ取ってくれるじゃない。多少、驚いた。そんなリアクションが来るなんて思わないじゃない。処理がしきれないで食べた。甘かった、美味かった。そこから。これ、みんなでチョコ会したら楽しいんじゃないって。カイト(マブダチ)の誕生日も近いからさ、次の年に作ってみたじゃない、ケーキ」
「あのトルテも、うんま(美味)かったな~」
正面のリリ姉が、思い出の味を反芻しつつ、紫の彼のグラスにウォッカを満たす。わたしに、飲み物のリクエストを聞いてくれるIA姉。コーヒーウォッカを含む彼。私もブッシュ・ド・ノエルを食べる。甘いホワイトチョコ、ココアのスポンジ、濃厚ビターチョコクリーム。トッピングのクリームはカスタード。完璧な甘みの多重奏。少しの間静かになる。無言ではない
作品名:はじまりのあの日16 バレンタインとリップサイン2 作家名:代打の代打