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代打の代打
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はじまりのあの日18 おやすみの魔法

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「―っ」

嘘つけ、彼に逢いたくなって。部屋の鍵を持って駆け出す。部屋を飛び出して、フロアに出て。エレベーターホールへ駆けてゆく。中々来ない、エレベーターに苛立って、あらかじめ聞いていた、一つ上のフロア、彼の部屋。走って行く

「がっく~ん、今大丈夫~」

扉の前、呼び鈴を鳴らし、ノックをする。しばらくの間、返事がない。再びノック。彼の都合など考えないクセに

「お風呂かなぁ」

などと呟いてみせる『束の間』が『無限』の間となり、わたしに襲いかかってくる。遮二無二、寂しくなる。早く速く、迎えて欲しい。いつものように、優しい低音のあの声で、わたしを迎えて欲しい。扉に背を向け、しゃがみこんだときだった

「おまたせじゃな~い、リン。声で分かったんだけどさ。ごめんな、髪乾かしていたじゃない」

扉が開いた。薄着、首にタオルを掛け、水気を含んだ髪。逢いたくて仕方なかった人の声。彼に背を向けたまま、一息。溢れ出そうな涙を飲み込んで

「―。あ、がっくん、遊びに来た。少し良いかなっ」

わたしはとびっきり笑顔だったと思う。しかし紫の彼、やや驚きと『咎(とが)』が混じった表情

「兎に角入って」

入室を急かされる。何事か分かっていないわたし、機嫌良く入る、と

「リ~ン、何時までも子供じゃないんだから。まあ、子供ならイイってワケじゃあ無いけどさ。そんな格好で出歩いちゃダメじゃない」

開口一番、格好を指摘される『子供じゃない』その言葉に、心の何かが反応する。会いたかった彼が、不機嫌そうなのも相まって

「でも、明日も『お稚児さん』の中に組み込まれてるよ。やっぱり子供じゃないのかな、わたしもレンも」

この年代って、大人達は、都合の良いように使い分ける。子供扱い、大人扱い。何だか腹立たしい

「リンは、行列するって聞いたとき『子供じゃない』って不満げだったじゃない。してほしいかな、子供扱い」

聞かれて考える。そう言われれば、して欲しくない、子供扱い。いっつまでも『子供だから』とか『子供のくせに』とか

「でもさ、して欲しくないんじゃない『大人扱い』大人なんだから自分で、とか、大人なら自己責任とか」

痛いところを突かれてしまう。確かに『大人の権利』を与えて貰えない歳なのに。その『大人達』は都合の良いときだけ、わたし達の年頃の人間を『大人扱い』する

「さて、じゃあリンはどう。子供でいたい。大人として扱って欲しい。自分の都合で切り替えちゃってない」
「あ」

さらに痛いところをクリーンヒット。何も言えない。言えないけれど、込み上げてくる不満。だいたい、なぜ

「う~、そ~かもしれないけどさ。何でわたし、いつの間にかがっくんに『お説教』されてるのさぁっ」
「気付いたか、お説教してるって」

あ、これは本気だ。何故だかは知らないけれど、紫様ご立腹。身が竦む

「リンは今、昇ってる。大人って舞台へのハシゴをゆっくりとさ。大人かって言ったらそうじゃない、でももう『完璧子供』でもない。気を付けろよ、自分を大事にしてほしい。家じゃない処で、そんな格好で出歩いちゃダメ」

『ダメ』と同時に、ゲンコツポーズ。仕草だけで、決して当てることはない『まあ、家でも問題ないとは言えないけど』そう言って途中から、目が優しくなる紫の彼

「俺は、キミのことを大切に思ってるんだから。リン、はじめに声を重ねてくれたキミのこと。キミみたいに可愛いのを『変な目』で見るヤツだっているんだ。一緒の時なら『必死』に護るけど、一人の時は気を付けなきゃだめじゃな~い」

両頬を包んで言ってくれる。お説教で沈みかけていた心と心拍が、何とも言えない照れくささへと浮き足出す

「ぬぅ、わかった、ごめんなさい」

可愛いなどと言われ、謝る声に嬉しさが混じってしまう。お説教、本当にわたしのことを思いやってくれたお小言。叱られて『嬉しい』なんて、わたし、変な趣味じゃないだろうか

「素直でよろしい。まぁ、俺自身大人できてるかなんて分からないけどさ。人生の先輩から忠告、オッサンの小言と思って許して欲しい。だいたい『男は一生子供』なんて言われるじゃない」

背中を押され、ソファへの着席を促される。ドレッシングチェアーのイスを引っ張り出して、わたしの正面に座る彼

「がっくん、じゃあ、大人に成るって何なのかな。わたしやレン、ミク姉、あ、そうするとリリ姉とかMikiちゃんもかな。子供でも大人でもなかったら、何だろう」

聞いてみるわたしを、優しい眼差しで見ていた彼。一度、呻くように声を出して

「何だろうな、一番難しいと思う、リンの年頃って。俺も覚えが有るよ、大人なんだから、子供なんだからってさ。好きに使い分けるなよって」
「あ、分かってくれるんだ。でもなら、がっくんだって使い分けないでよ~」

不満が口をついて出る。やぶにらみのわたし

「ごめんゴメン。だけど、その年を越えてきたから分かる事もあるワケ。ダテに歳とってるわけじゃない。だから、そういう『経験』を積むための時期なんじゃない、リン達の歳ってさ。大人を練習してるって考えてもいい」
「練習~」

首をかしげた覚えがある

「練習して、上手くなってるじゃない、化粧の仕方。そんな風に、大人に必要なものの練習」

微笑む彼、一度会話を切って立ち上がる

「さてと、リン。これからルームサーヴィス頼もうと思うけど、何か一緒に頼む」
「ありがと~がっくん。お願い、オネガ~イ」

髪を解いた彼、僅かに残る水気をタオルで拭いながら

「じゃあ、このメニュー見て、選ぼうじゃない」
「やった~」

鏡台机の上、メニューを手渡してくれる。誰が支払うかなど考えもせず、図々しく、選び始めるわたし。やっぱり子供だ。迷って決めたのは

「ろいやるみるくてぃ~」
「おっけ~い。すみません―」

フロント直通電話を使い、早速、注文してくれる彼。告げ終わり、タオルをベッドに置く。再び丸小テーブルを挟んで座る。正面、紫の彼

「だけど、どしたリン。突然来たじゃない。寂しくなっちゃった、トカ」

イタズラ少年のような顔、訊いてくる彼。図星だ。でも、それを口にしてしまうのは恥ずかしい。あの日はそう思って

「や、違うよ。えっと、明日の行列とか話し合おうかなって」

無理矢理取り繕う。その言葉を考える中で、わたしは『反撃してみよう』などという浅知恵にたどり着く

「あ、もしかして、がっくんの方が寂しかったんじゃないの~」
「うん、そうだな、寂しかった」
「え」

あまりにも以外。明確な肯定に驚く

「考えてみれば無かった、全員集合の仕事で、個室に宿泊って。それも珍しい現象じゃない。個室宿泊なしって」

話し始める彼。その視線は、窓の外の夜景に向く。ただ、その眼差しは、どこか遠くを観るようだった

「いつもは、誰かと同じ部屋でさ。みんなで集まって騒いで、楽しい気持ちになってさ。幸せなまま、誰かとごろ寝。個別の仕事で一人部屋とかはあっても、みんなと一緒の時は無かった、一人部屋って」

脚を組みだす彼。膝の上で両手を組んで、背もたれにもたれかかる。一連の動きが、総て大人の仕草