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はじまりのあの日18 おやすみの魔法

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「昔は一人の時のが多かったのにさ。妹が生まれて『妹達』と暮らすようになって。PROJECTに来て、リン達と過ごすようになって。いつの間にか忘れちゃった、一人での過ごし方」

来客を告げる、呼び鈴が鳴る。一度話しを打ち切り、向かう彼。手に、英国紅茶とウィスキーが乗ったトレイを持って戻ってくる。わたしの前に紅茶、砂糖、ミルクポット。彼の前、グラスとミニボトルのウィスキー

「お疲れさま~、リ~ン」
「オツカレ~、がっくん」

ウィスキーグラスとティーカップをあわせ、口に含む紫の彼。わたしは熱々のミルクティーに、息を吹きかけ、冷ましにかかる。中々、適温にならない紅茶。彼はいつもの仕草で、お酒を含む。会話の無い時間が、逆に期待を抱かせる。窓の外を見つめる彼が、次に、何を話すか。でも結局焦れてしまって

「がっくん、さっきの話し、続きあるの」
「ん」
「寂しいって。一人の過ごし方、忘れたって」
「ああ」

もう一口、ウィスキーを含む。少し考えてから

「みんなが仕事で、俺、留守番とか。逆に、一人仕事とかだと違うけどさ。みんなと一緒で一人になるって寂しいなって。リンは平気だった、今日一人で」
「実は寂しくなって。来ちゃった、がっくんの部屋」

今度は意地を張らず、素直に肯定する。寂しさで、この部屋に押しかけたのだから。いや、わたしの場合『彼と一緒でない』ことが、嫌で嫌で仕方なかったのだろう。ただ、あの日は漠然と寂しいと思っただけ。彼も『寂しかった』との声に、どこかで安心するわたし。安堵したように、微笑む彼。わたしは、言葉を続ける

「みんなと一緒なのにさ、なんだか一人っきり。のけ者みたいで寂しくなっちゃって」
「あはは、俺も同じ。勝手なモノじゃない、普段は『プライベート』とか言ってさ、個室持って、鍵まで掛けるのに。環境が変わったら『一人じゃ寂しい~』なんてさ」

脚を組んだまま、イスの背もたれに寄りかかる彼。お酒を含む。大人な仕草が、本当によく似合う。子供だったわたし、彼の仕草に高まる鼓動。その理由は気付かない。目の前の紫様、今度は天井を仰ぐ。真顔になって、目が細まる

「幸せな事じゃない。ほんの少し、距離置くだけで、寂しくなっちゃうほど、最高の仲間に囲まれてさ。食べて、飲んで、歌って、生きて」

独白のようにつぶやく彼。その彼、脚を組むのを辞める。少し前屈み、膝の上で手を組んで、わたしに向き直る。綺麗な瞳に打ち抜かれ、輪を掛けて、鼓動が早くなる

「ありがとな、リン。あの日『キミ』と歌えたこと、それが今の俺を作ってる。ミクの歌を聴いて、PROJECT参加を決めたけどさ。初めて会った日、キミと歌ったこと。あの経験はきっと一生の財産だ」

真正面、紫の彼。今までに感じた事のない『何か』を感じた。彼の想い。なぜなら

「がっくん、今『キミ』って言ったね。そういえばさっきも。何時もは『リン』って」
「ああ、言ったかな。何だろう、少し改まっちゃった。大事な思い出、キミと俺だけじゃない、初対面で、声を重ねたの」

喜びが、心の底から滲み出す。彼も又、特別の思い出として、心の中にしまっておいてくれた。それが本当に嬉しくて、想いの器から、歓喜の湯水があふれ出す