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代打の代打
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はじまりのあの日18 おやすみの魔法

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「がっくんもっ熱っ、ぅあっつぅ」
「リンっ」

迂闊に身を乗りだしたわたし。手にしていた紅茶を零してしまう。その熱さに身じろぎして、さらに零れ出る紅茶。膝の上に、半分ほど零してしまう。熱い液体はスネを伝って、足先へ。なんてバカなのだろうか。瞬時にグラスを置いて立ち上がる紫様。さっき置いたタオルを引ったくるように掴んで来る

「大丈夫か、火傷してない」
「っつ~」

確かに熱かったが、このくらいで火傷はしないだろう、と思う。わたしの手からティーカップを離し、受け皿に戻す。片方ずつ、脚を拭いてくれる彼

「あ、ごめんね、がっくん。大丈夫だよ、タオルも汚しちゃって」
「本当か、ムリするんじゃないぞ。タオルは後で、クリーニング代払っておけばいい。スリッパ脱いで」

ただ、真剣な眼差しで脚を拭かれている。ふと、奥の鏡台に目が行く。映し出される自分の姿。キャミソールにかぼちゃパンツ、部屋用の使い捨てスリッパ。そんな格好で、彼の部屋まで来てしまった。そのわたしが、あたかも『王子様』にお世話をされる『お姫様』のように、足を取って、脚を拭いてもらっている。そのシチュエーションに、胸の鼓動が大きくなる。自分の心臓の音、彼に聞こえてないかと思うほど

「よしっと。ん、火傷は確かにしてないみたいじゃない。まだ少し熱持ってるみたいだけど」
「ぴゃっ」

されるがままのわたし。拭き終わった彼、確かめるように、私の膝小僧、手を当てる。熱い紅茶で火照った(ほてった)膝、優しい感触と冷たい彼の手のひら。温度差、心地よさ、恥ずかしさ。心臓が飛び出す、そう思ってしまうほど跳ねる。口をついて出た、間抜けな悲鳴

「リン、大丈夫、どした」

脚を持ったまま、目を丸くする紫の彼

「あ、う、ううん、何でもナイ。だ、ダイジョウブ」
「本当か」
「うん」

不思議そうな顔のまま立ち上がる彼。心臓の全力走が収まらず、ソファの上、縮こまるわたし。体育座りの状態。上目遣い気味に彼を見る。タオルを畳み、鏡台に置いている。その彼、鏡に映るわたしが、縮こまっているのを認めたようで

「リン、本当に大丈夫」

聞いてくる。実は心拍数がまだ戻らず、どう返すかも考えられない

「あ、だ、ダイジョウブだから。ほんと、ホントだからね、がっくん」
「あ、ああ、わかった」

ヘタに必死なわたし。気圧される彼、無言になる。気まずい静寂が『二人』の空間を支配する。この無音空間は、一人の時よりもつらい。どうしてイイか分からず、ティーカップに手を伸ばす。中身が半分失われて、生ぬるくなったカップを取る

「あ~、もったいないことしちゃった」

独り言を、自分に聞こえる程度の音量で呟いた、はずだった

「ああ、ならリン。それ、ちょっと貸して」

耳ざとく聞き取る彼。いや、この静かな空間には、大きな音量の独り言だったと言うだけ。再び立ち上がって、わたしの前にやってくる紫様。今度はわたしが気圧されて、素直にカップを渡す。ドレッシングチェアーの前に移動

「一口も飲んでないじゃない。即席で悪いけど」

備え付けのサービス品。部屋のティーパック紅茶。わたしのカップに入れて、カップ半分までお湯を注ぐ

「リン、ミルクポット貸して」
「あ、う、うん」

言う彼に、わたしが立ち上がろうとして

「あ、スリッパ」
「そっか、ごめん」

二人用の部屋なので、備品も二つ。スリッパを持ってきてくれる彼

「これ、取り敢えず履いておこうじゃない、お嬢様」
「ん、あ、ありがとぅ」

お嬢様にやや照れる。ついさっき、足を拭かれた構図も頭をよぎる。ダブルで照れる。一度手を洗って、紅茶煎れに戻る彼

「リン、ポッド頂戴」
「ん、がっくん」

今度は立ち上がって渡しに行く。ミルクをなみなみ注ぐ、わたしに向き直って

「はい、即席でごめんな。これ、飲んだら部屋に戻ろうじゃない。今度は慌てず、ゆっくりな」
「あ、あり、がとうがっくん。迷惑掛けてごめんね」

作ってくれる、即席ミルクティー。まだやや気まずさが抜けないわたし。何だろうか、この感覚。失敗したから、変なことを言ったから。いや、そうではないと言えばそう。そうだと言えばそう

「さ、座ったら。俺もこの酒飲んだら眠るつもりだから。今日は寝付けない気がするけどさ。リンもそれ飲んでお開きにしよう。明日があるじゃない」
「あ、う、うん」

さっきから同じ生返事。意識が上滑りしていくのは、きっとさっき、僅か、刹那、そのうちに、思った事が心を浮つかせている。心配してくれて、脚を拭いてくれて、まるで執事様のように。メレンゲを潰さないように触れるほど優しく、扱われたこと。わたしはそれが、宙に浮くほど嬉しいらしい。どこかで自覚して、心の焦点が合っていない

「帰りは送って行こうじゃない。心配だから」
「ぅ、あ、ご、ごめんね」
「あわてな~い」

さっきの二の舞踏みそうなわたしを注意する。一瞬固まってしまうわたし。その手からカップを抜き取り、テーブルに置く

「落ち着こうじゃない、大丈夫か、本当に」

明らかに挙動不審なわたしを、心配そうに看てくれる彼『見て』でなく『看て』で正解だ。夢遊病のように浮つくわたしを『看て』くれる。肩を抱いてソファに座らせてくれる

「さて、リン、深呼吸。その後ゆっくり息をして。落ち着こう。零して吃驚したか、動揺してるみたいじゃない」

言われるままに、深呼吸。何度かしたあと、ゆっくり呼吸する。数分の間、自分の膝だけを見て。ようやくのこと、だんだんと落ち着いてくる

「少しは落ち着いた」

目の高さを合わせるよう、しゃがむ彼、目が合う。また少し、心臓が駆け出すものの

「うん、ありがとうがっくん」

それでも何とか、さっきより、よほど落ち着いている

「ん、よかった。ゆっくりと紅茶飲めば落ち着くんじゃない」
「ホントにありがとう、ごめんね」

ふたたびソファの上、膝を抱えて座る。上目遣い気味に彼を見ると、微笑んで、頭を撫でてくれる、が

「俺も、か。何時までも子供じゃない」
「がっくん、どしたの」

頭から手が離れる。もっと撫でて欲しかった。故に不満が残るので、やや咎めるように聞く。その彼、目つきが変わる。真剣な眼差し、さっきとは別の意味で、心臓が早鐘を打つ