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はなみずき
はなみずき
novelistID. 65734
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星屑色の降る夜

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無性に腹が立った。
正直に言えば、どこのどいつだと問い詰めたかった。相手を特定して何らかの制裁を加えてやりたいと思う俺がいた。そんなやつ放っておいたらロクなことがないから。
でも、牧野が決して言わないだろうということもわかっている。
問い詰めれば問い詰めるほどただ困らせる。
牧野はそういうやつだ。よく知ってる。
だからこそ抱えてしまった感情のぶつけどころが見つからない。
俯く牧野の横顔を見ながら、俺は堪え切れなかったため息をこぼした。

「牧野、それさ――」
「噛みつかれたんだよね、あたし」

嫉妬にまみれた言葉だから気にすることはない。――そう伝えるよりも先に、牧野は言った。

「なんだ、わかってたのか」
「だって、敵意むき出しだったもん。さすがにわかったよ」
「なら――」
「でも、その通りかもしれないって、思ったの」
「え?」
「言われて初めて気づいたの。そんなふうに考えたこと、なかった」

牧野は一つゆっくりと息を吐いて、そして再び言葉を紡いだ。

「最初は、なんでそんなこと言われなきゃいけないんだろうと思った。友達が言い過ぎだよってその人に言って、でもその人は本当のこと言っただけだって譲らなくて、その場の雰囲気もすごく悪くなっちゃって……すごく嫌だった。そのことすべてが。せっかく楽しかったのに、あたしのせいでそんな空気になっちゃって」
「別に牧野のせいじゃないだろ」
「でも、あたしがいなければ、そんなふうにはならなかったんだから」

居た堪れなくて、申し訳なくて、牧野は一人で先に店を出たのだと言った。

「帰り道、ずっとずっと悔しかった。今日初めて知った人になんでそんなこと、って。何も知らないくせに、って。なんかすごく悔しかった」
「その通りだと思うぞ」
「だけど、ハッとしたのも事実だったの」
「……なんで」
「考えたこともなかったから。道明寺は道明寺。みんなはみんな。あたしの中で、もうずっと全く別に存在してた。だから、道明寺と別れたからってみんなとの関係性を変えることなんて考えもしなかった」
「いいじゃん、それで」
「でも周りで見てる人にはそうじゃなかったんだよ。あたしはあくまで元彼女というだけの存在。だから、いつまでも別れた彼氏の繋がりに寄生してるって思われるし、また似たような関係を手に入れようとしてるって勘ぐられる」

牧野は宙を見つめる。その時のその場の空気を思い出したのだろうか、一瞬言葉を止め、そしてふっと笑って呟くように言葉を吐き出した。

「場違いなやつって思われてる自覚はあったけど、寄生してるなんて……そんなふうに思われてたなんてね」

それは痛みの伴う笑顔だった。
見ている俺にまでその痛みが伝染する。それを紛らわすように俺は口を開いた。

「気にすることないさ。勝手に言わせとけよ、そんなわけのわかんねえ部外者」
「うん」
「何にも知らねえくせに、憶測で好き勝手言ってるだけだろ」
「うん」
「相手にするだけ時間の無駄」
「……だけど、結局そういうことなんだよ」

牧野はまた頭の中でたくさんのことをぐるぐると考えている。表情からそれがわかった。

「どういうことだよ?」
「あたしが、甘えてるってこと」

そして吐き出された言葉は、ぐるぐると考えたその先で出た答えだ。

「ショックだったけど、でも図星なんだよね」
「図星?」
「あたしが考えなしだった。だからそんなふうに言われる。だから、変な噂が流れる」

極論だった。頭の中で複雑に変換されまくったその先の。
でも、目の前の牧野は真剣で、だからこそ、牧野の笑顔にも言葉にも痛みが滲んでいる。

「だから、あたしのせいなの。全部。自業自得。だから、」
「だから?」
「だから……もう、一緒にいないほうが、いいかなって……」

女の涙には多くのワケがある。
女だけじゃなく、涙は感情の昂ぶりに比例する。
きっと牧野が泣いたのも……。
明確な答えなどない。
でも、いろんなことを考える中で牧野の中に様々な感情が膨らんで、泣くことでしかコントロールできなかったのだろう。
良く知る牧野は、そう簡単に人前で泣くような女じゃない。でも、その一方で、とても泣き虫な女で――どうしてそう思うのかはよくわからないけれど、俺はそう思っていた。

今、目の前で俯く牧野に涙はない。
けれどその横顔は、泣いているように見えた。

ふと、家の前に立つ牧野の姿を思い出した。
暗闇に紛れるようにひっそりと立っていた牧野。
そこに立ち尽くしていた時間、そしてそれよりも前の――ここへたどり着く前、一人店を出てからの時間、整理しきれないたくさんの感情を抱えて、それを涙に変えながら自分を保っていたのかと思ったら、胸の奥がギシギシと軋んだ。

「なるほどね。だいたいわかった」
「……」
「光栄だなあ、そんなふうに泣いてもらえて」
「え?」

胸の奥の軋みを綺麗に隠して軽く放った俺の言葉に、牧野は俺を見た。
戸惑いを滲ませた顔で。
俺はにやりと笑って言葉を続ける。

「部外者に無責任に傷つけられて、でもそれは図星な気がして、だから離れなきゃいけないという考えに至ったけれど、でもそう思ったら悲しかったんだろ?」
「……」
「牧野にそんなふうに泣いてもらえるなんて、俺は嬉しいよ」

軽い調子で言ってにんまりと笑う俺。
牧野はその言葉を自分の中で消化させているのか、ぱちぱちと瞬きをして、そしてやがて睨むように俺を見据えて口を尖らせた。

「なんか、ちょっと違う」
「違うのか?」
「さあ。でも全然違うって否定しておく」
「なんで?」
「わかんないけど、否定したくなった。なんでだろう」
「あはは、なんでだろうなあ」
「わかってるでしょ? ムカつくからよ、その自信満々な感じが」
「そうか?」

牧野は大きくため息を吐いた。

「あんたたちっていつもそう。いつだってやけに自信満々で。道明寺も西門さんも類も。まさか美作さんまでそうだとは」
「意外?」
「意外よ。いつだって大人で優しい美作さんなのに。……でも、実はそういう人だったかもって今思い出してるとこ」
「あははは」
「笑いごとじゃないんですけど。あーあ、優しく慰めてくれるかもなんて一瞬でも思ったあたしがバカだったわ」

眉間に皺を寄せてますます睨んでくる牧野。
でも俺は、笑みを崩さなかった。

「少しくらい許せよ」
「なんで許さなきゃいけないのよ」
「これでもすげえ心配したわけ、俺は」
「心配? 何の心配よ」
「牧野の」
「あたし?」

俺は頷く。

「突然のメールに突然の訪問に突然の涙。心配するだろ、普通に」
「う……そうだけど。だからなによ」
「もしかして誰かに襲われたんじゃないかとも思ったし」
「はあ? お、襲われたって……ま、まさか」
「まあ、そうじゃないってのはすぐにわかったからその部分の心配はすぐに消えたけど」

「なんですぐにわかるの?」と訊いてきたから、「俺の腕を拒否しなかったから」と答えた。
牧野は気まずそうに顔を赤くして口籠る。
いかにも牧野らしい反応に俺は小さく笑って、そして再び言葉を続けた。
作品名:星屑色の降る夜 作家名:はなみずき