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LIMELIGHT ――白光に眩む3

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 間違いではないと気づいていたとしても、エミヤの後悔だけはどうしようとも拭えない。おそらく彼は、永遠に悔やみ続けるのだ、その運命に従う己を。
「っ…………、あの、バカっ!」
 濡れたマグカップをそのままトレイにふせ、部屋の電気を消した。
 食堂へ向かうことにする。
 居ても立ってもいられない。エミヤがまた後悔に苛まれるのなら、どうにかして雪いでやりたい。
「あ」
 扉が開けば、そこに立ち塞がる者がいる。
「…………」
 じっとこちらを見つめる鈍色の瞳が、士郎を映している。
「エミヤ、さっき、藤丸が、」
 様子がおかしかったと立香が言っていたために、慌てて部屋を飛び出そうとした自分が急激に恥ずかしくなってきて、言い訳を探す。
「その……だな……」
 何も言わないエミヤの腕が上がり、その手がこちらへ伸びてくる。
「……エ、エミヤ?」
 近づく手を目で追いながら、もしや首へと伸ばされるのではないかと、覚悟しながら唇を引き結ぶ。
 聖罰という非情の行いを目の当たりにし、自身の行いがフラッシュバックして後悔に苛まれ、自身の運命を決定した衛宮士郎を殺したい、と再燃した怨みにエミヤが突き動かされても仕方がない。固唾を飲んでエミヤの顔を見つめた。
(俺は……、コイツに殺されることを恐いと思うんだろうか……?)
 エミヤの動向にも、自身の覚悟にも、目を凝らして士郎はその瞬間を待ってみる。このまま縊られるのか、それとも剣で斬られるのか、やり方はその二通りくらいだろう。
 それを、エミヤはどんな顔で行うのか。
 多少の興味がある。
 表情はない。
 能面のように変化のない顔だ。
(そっか……。やっぱり、こんな感じで……)
 うれしそうでも、苦しそうでも、悲しそうでもない。ただの無表情というもの。
 何かしらの感情すらなく自分を消すのだと知って、少し悲しいと思う。
「…………」
 無表情なその顔が予想に反して近づいてくる。
「え……?」
 目を瞠ったまま身動きすら忘れ、やがて、エミヤの肩越しに扉が閉まるのが見えた。
「え? あの? おい?」
 エミヤに押されて、士郎は後ろ向きに部屋の奥へと押し戻されていく。
「エミヤ? ちょ、ど、どうし――――、う、ぅわわわわ!」
 抱き寄せられていることに目を白黒させているうちに、エミヤがそのまま前のめりになった。
 士郎にエミヤの身体を支える余力はない。しかも、背を反った状態というキツい体勢でなど無理だ。日常生活が送れるようになったと云えど、すっかり元通りというわけではない。踏ん張りがきかないのは仕方のない話だ。
「ちょっ? エミヤ?」
 後退りながら、どうにかエミヤを支えていたが、脹脛がベッドに当たり、そのままなだれ込むように倒れ込んだ。
「ぐえ……」
 潰された蛙のように呻き、ずっしりと重い肩を押し返そうとするが、びくともしない。
「お……い、いったい、なんだ……」
 どうにか身体をずらして、何をするんだ、と文句を言ってやろうとエミヤの顔を窺えば、瞼は閉じている。
 意識がないようだ。
「あの……」
 言葉を失う。
「藤丸が様子がおかしいって言ってたけど……」
 これほどとは、とため息をこぼした。
 士郎には思いもよらないことだった。
 こんな弱々しい彼を見たのは初めてだ。今まで、レイシフトに向かったエミヤがこんなふうになったことはなかった。
 やはり、聖罰というものは、エミヤの胸の内を掻き乱したようだ。
「英霊でも、疲れるんだなぁ……」
 エミヤの下から逃れることは諦めて、そっと、白い髪に触れてみる。
「あんたは、頑張ってるよな、ほんと……」
 士郎も歩むかもしれなかった未来。
 その理想の、ずっと先にいるはずのエミヤが、ここにいる。
 本来ならば、出会うことのない存在だ。
 だが、士郎は四度、出会ったことになる。エミヤが士郎を憎み、殺そうとしなければ、三度目はなかった話だ。そして、今またエミヤと出会った。
 この出会いに意味はあるのか?
 士郎は、瞼を下ろして考えてみる。が、大したことは思い浮かばない。
 エミヤにとっては、己を殺して溜飲を下ろすくらいだろう。
(俺にとっては…………)
 いったい自分にとって、エミヤとはどういう存在なのか。
(……理想だな)
 士郎が目指した先の先にいる存在(もの)……。
(手の……、届かない……)
 眩い光そのもの。
 エミヤだけではない。サーヴァントはみな英雄と謳われた、己が触れていいような存在ではない。中には神性を持つ、神と呼んでもおかしくはない者もいるという。
(魔術師崩れの俺が、どうしたって……、届きはしない……)
 瞼を上げると、フットライトが反射した薄明かりが天井を照らしている。部屋を出ようと電気を消したために、足下を照らす淡い光源だけがこの部屋を包んでいた。
(よかった、こっち側に倒れ込んでて……)
 エミヤが突っ伏している左側は見えない。士郎の左目は、今も視力があまり戻っていない。ぼんやりと人の影は見えるが、それが誰かなど判別できない。
 温もりが、いや、熱といってもいいくらいの体温が、心地好い。
 けれども、同時に、後ろめたい。
 こんなふうに触れていていいのか、こんなに近くにいていいのか、こんなにも安らいでいていいのか……。
 どう考えても、すべてがノーだ。
(俺は、コイツから何も与えられてはいけない……。それは間違っているんだ。与えるのは、俺の方。俺がコイツのためにできることを……、俺が与えられるものすべてを……。たとえこの命だと言われても、差し出すしか……)
 静かな部屋に、かちかちかち……と音がする。小さな音だというのにやたらと響いている気がする。
 先ほどから歯の根が合わず、微かな音を立てている。爪先から浸食されるように、震えが士郎の身体を蝕んでいく。
「っ…………」
 歯を喰いしばって、震えを噛み殺した。
(俺は、コイツのためになら……いくらでも……。それが、理想を追ってしまった衛宮士郎の、責任の取り方だ……)
 そっと瞼を下ろし、エミヤの背に震える手を回した。
(今……だけ……)
 こんなことは二度としない、と言い訳しながら、エミヤにしがみつく。
 震えているのは、寒いからだ。
 この、空調が整っているはずのエミヤの部屋にいても、……寒いからだ。



■□■Interlude 安堵■□■

「む……」
 少し息苦しい。
 凹凸のある何かを下敷きにしているらしい。
 胸元に硬い物があって、それに乗り上げているようで……、私はいったいどこで転がっているのか?
 いや、私は、気を失った…………?
「っ! ぐ、ぅ?」
 身体を起こそうとすれば、下から何かに拘束されている。頭を起こすのが精一杯だ。
 レイシフトからは戻ったはずだ。
 だというのに、なぜだ?
 いったい何に拘束されている?
 もしや、ダ・ヴィンチ女史が何かを仕掛けたのか?
 情けない。疲れていて気づかなかった。ということは、ここは、ダ・ヴィンチ女史の工房という可能性も……、
「ん?」
 ここは、私の部屋……だ。
 そして、ベッドだ。
 視線を動かせる範囲で見渡せば、見覚えのある閑散とした室内。