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LIMELIGHT ――白光に眩む3

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「うん、だろうな」
「それでも……」
「うん」
「間違っていないと、言い切るのか?」
「ああ、言い切るよ」
 はっきりと答えた士郎が、エミヤの頭を肩に引き寄せる。
「誰がなんと言おうと、俺は、あんたの味方だ」
 何よりも心強い言葉だと思った。
 額を士郎の肩に預けて、エミヤはほっと吐息をこぼす。
 士郎の背中におずおずと腕を回していく。こうすることを許されていると自覚する。
 縋る思いで士郎を抱きしめた。



□■□Interlude Notice□■□

 俺は、何を頑なになっていたんだろう。
 ここのスタッフと馴れ合えば、サーヴァントたちと過ごせば、きっと、再び封印される時に俺がもたないから、なんて……。
 そんなこと、カルデアには関係ない。俺がどこの誰であろうと、今後、封印指定になろうと、彼らには本当に関係のないことだった。
 同じことがエミヤにも言える。俺は向き合わなければいけなかった、エミヤと。
 アーチャーと斬り合ったのと同じように、エミヤと……。
 エミヤは、未来の英霊だ。
 今、ここにいるエミヤが聖杯戦争に召喚される前のエミヤだとしたら、記憶なんてなくて当たり前。
 俺が出会ったアーチャーは、カルデアのサーヴァントとして召喚されたエミヤよりも、ずっと先の未来から召喚されたのかもしれない。
 サーヴァントに時間の概念なんてない。時系列で考えること自体がおかしいのに、アーチャーの記憶がないからなんて、俺は何を拘っていたんだ……。
 いや、俺との記憶自体が些末事すぎて、記憶に留めていない可能性もある。
 英霊エミヤは、永遠とも呼べる道のりを歩き続ける。それこそ霊長の敵がある限り……、いや、人類が一人でも存在する限り……。
 永い時、磨り切れる年月、記憶すら薄れて定かではなくなる膨大な時間。
 そんな中にあって、アーチャーとして召喚された十日ほどの日々なんて、記憶に残りはしないだろう。山積の記録に埋もれて、欠片すら見当たらないはずだ。
 ましてや地下洞穴で斬り合ったのなんて、二時間にも満たない。
 そんなもの、微塵も残っていなくても不思議じゃない。
 なのに俺は、アーチャーだった時の記憶がないのかと落ち込んで、きっとエミヤを困惑させたはず……。
(傷だらけなのに……。触れれば壊れそうなほど磨り切れているのに……)
 カルデアのサーヴァントであるエミヤに、アーチャーの記憶が残っていないのは明白だと思う。
 俺に心を許しているなんてことがいい証拠だ。殺しても足りない、切り刻んでも晴らせない恨みがあるはずなのに、こいつは俺にすべてを預けてきたりする。
 ありえないことだと思う。英霊エミヤは、衛宮士郎を許さない存在だというのに、こんなふうに馴れ合っていてはいけない者同士だというのに……。
(だけど……)
 だけどさ、こいつに必要とされることが、俺はうれしいなんて思ってる。
 俺はどこかおかしい。
 寂しさが薄れていくなんて、本当はありえないはずだ。
 だけど、寂しくない。エミヤが傍にいると、寂しくないんだ。
 震えもおさまる。ここにいていいんだって感じられる。
 本当は、ここにいてはいけない存在だと思うのに……。
(……いつ最後通告を言い渡されるのかとビクビクしていた)
 それでも、エミヤにもサーヴァントたちにも、カルデアの人たちにも、声をかけてもらうことがうれしかった。
 ここでは、俺が封印指定であることは、関係ないんだと、やっとわかった。
 それに、エミヤにも、あの聖杯戦争のことは関係ない。それから、俺が過去を変えたことなんて、このカルデアの人たちには、さらに関わりのないことだ。
 俺が何をどう思おうと、それこそ、関係がない。
 ただ、俺が、アーチャーとの時間を覚えていてほしいと願っていただけで、もしかしたら、一緒にいれば思い出すんじゃないかって期待も少しあって、エミヤと過ごす時間が、すごく、惜しくて……。
 殺し合うことしかできないと思っていたのに、今は、一緒に食事を作ることができる。
 エミヤがたくさん譲歩してくれているからだろうけど、それでもやっぱり、うれしいと思ってしまうんだ。
(だって……、こいつは、理想…………)
 俺が追い求めていた理想の具現。俺がなれなかった正義の味方。
(ああ、俺は…………)
 いつまでも焦がれ続けるんだろう、この英霊に。
 再び封印指定となって、どこかに捨て置かれるとしても、俺はきっと、こいつを夢に見て、朽ち果てる時を待つんだろう。
 もう、あんまり時間が残されていない。
 だから……。
 少し、我が儘に振る舞ってもいいだろうか?
 このカルデアでの一時を、俺の思うままに過ごしてみてもいいだろうか?
 どのみち俺は人理修復に関わることはできない。魔術は使えないし、スタッフの助けにもなれない。せいぜい、飯炊きか、雑用をこなすだけだ。
 少しの間だけ、笑って生きてもいいだろうか?
 俺が変えた未来――――。
 このカルデアしか残ってはいないけど、俺が未来を変えたんだって、その達成感を、味わっていてもいいだろうか?
 それから……、エミヤと向き合っても……いいだろうか…………。



■□■10th Bright■□■

 士郎はエミヤに対し、気さくに話してくるようになった。
 あの日以来、エミヤと過ごす時間は格段に多くなっている。
 このところの士郎は、一階の窓には行っていなようだ。その代わりというのもおかしな表現だが、たいていエミヤといるか、厨房に詰めている。
 いったいどういう心境の変化か、とエミヤは首を捻るものの、その表情は明るいものなので、何かしらの踏ん切りがついたのだろう、と思うことにした。
 あれこれ詮索するのも野暮だ。士郎が前向きになっているのならば、エミヤはそれでいい。
 今日も士郎は一階の窓辺に行くことなく食堂にいる。カウンターに片肘をついて、雑誌のようなものをパラパラとめくっていた。
「何を見ている?」
「ぅわっ?」
 飛び跳ねる勢いで驚いた士郎が顔を上げる。
「それほど驚くこともないだろう……」
 エミヤが目を据わらせれば、
「あ……、悪い、気づかなくて……」
 少し目を伏せて士郎は謝ってくる。
「気づかない……?」
 そういえば、左側の頬に触れた時も過剰に反応していた。
「やはり、……見えないのか?」
「え?」
「左目が」
「あ……、ああ、これ? うん、まあ、仕方がないかもしれない」
 目のことはあまり触れられたくないのか、士郎は下を向いてしまい、紙面を見ているというのでもない。
「…………」
 これ以上根掘り葉掘り訊くのも気が引けて、話題を変えようと、視線を落とした士郎の手元を覗き込めば、それは、料理のレシピが写真付きで載っている月刊誌のようだった。
「そんなものをどこで見つけた?」
「え?」
 エミヤを振り向き、その視線を追って、話題が雑誌に向かったことに士郎は明らかにほっとしている。やはり、目のことは触れられたくないのだろう。