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鳥籠の番(つがい) 5

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機械いじりが好きで、パイロットよりもメカニックのが向いているのではないかと思う程だ。実際にモビルスーツの設計もいくつかしており、開発チームの主任がその図面を見て驚いていた。
強化人間であるギュネイの面倒もよく見ていて、あの気難しいギュネイもアムロには懐いている。
しかし当然ながらパイロットとしての技量も相当なもので、操縦技術や判断力、そして反射神経や運動能力もズバ抜けていた。
そこにニュータイプ能力が加わるのだ、もう無敵としか言いようがない。
それでもそれにおごる事なく、自身を追い詰めストイックなまでに訓練やトレーニングに打ち込んでいた。
全てはマスターであるシャアの為に。

ナナイは当然ながら二人がそう言う関係になった事も察していた。
自身の愛する男を奪われた嫉妬は勿論あるが、それよりも二人の微妙な関係に不安を抱いていた。
シャアがアムロに何を求めているのか、その苦悩と葛藤が微かだがニュータイプ能力のあるナナイには伝わって来ていた。
今のアムロはマスター登録の影響もあるだろうが、シャアを受け入れ、愛する対象として求めている。シャアもまたアムロを求めていた。
しかし、それが偽りのアムロだと言うこともシャアは理解しているのだろう。
もしもアムロが記憶を取り戻してしまったらと言う不安をいつも抱えている様に見える。
だが記憶を戻した瞬間。アムロに何が起こるか分からない。過去の被験体の実験データでは、全ての者が精神を崩壊させ廃人となるか、もしくは命を落としていた。
記憶は…アムロの為にも思い出してはいけないものなのだ。
『しかし、ブライト・ノアの名前にアムロ・レイが反応するとは…記憶操作が解けかけている?』
ナナイは最近のアムロの様子に少し不安を感じていた。
研究所での定期的な検査やテストの後、アムロが体調を崩すことが多くなった。
しかし、検査内容などを確認しても特に問題は無く、『何かがおかしい』そんな疑問を抱えながらも、そのままにしてしまっていた。
それが後に事件を引き起こすとは思いもせずに…。


「アムロ、α・アジールの初陣だ。行けるか?」
モビルスーツデッキに向かいながらシャアが尋ねる。
「何度かテスト飛行はしていますから。ファンネルの反応も問題ありません」
「そうか」
シャアはアムロの頬に手を添えるとそっと唇にキスをする。
「大佐…!」
通路で突然キスをするシャアに「こんな公衆の面前で!」と抗議しようとするが、その真剣な瞳に言葉を飲み込む。
「アムロ、敵のモビルスーツを再起不能にしろ」
「え?」
シャアの言葉に驚きながらも、それが命令であると言うことを認識すると、アムロはコクリと頷く。
「はい…分かりました。マイマスター」
「良い子だ」
そう言うと、今度は深く濃厚なキスをされる。
通路を通り掛かったクルーが驚いているのが目の端に見えるが、もうどうでもよかった。
アムロはシャアの背に腕を回し、まるで縋るようなそのキスを受け止めた。

《α・アジール、アムロ・レイ出ます》
大型モビルアーマーであるα・アジールはレウルーラの外にワイヤーで牽引されている。
その牽引ワイヤーを引き剥がすようにしてスラスターを吹かし発進する。
それを追うように、シャアのサザビーもレウルーラを飛び出した。
《アムロ、ギュネイと共に5thルナを守れ》
《《了解》》
ギュネイのヤクト・ドーガがその命令に従いαアジールに追従する。
《ギュネイ、前方からメガ粒子砲来るぞ!上昇しろ》
「え!?あ、はい!」
アムロに言われるまま上昇すれば、今までいた場所に光の帯が通り過ぎる。
「ヤ、ヤバかった…スゲぇ、なんでアムロ大尉は分かるんだ?」
《ギュネイ、心を落ち着けて周囲に意識を拡げろ。お前なら視える筈だ》
「俺なら…?」
ギュネイは深呼吸をすると、意識を周囲に拡げる。今まで聞こえていた音が静かになり、自身が宇宙に溶け込むのが分かる。
「あ…この感じ…」
目ではなく、意識として戦場の様子が視える。
背後から自分を狙う敵のMS。
ギュネイは背後に向けてビームを放つ。
すると、ジェガンの脚にビームが当たり爆発した。
《その調子だ、ギュネイ。常に戦場を感じるんだ》
「は、はい!」
アムロに褒められ、ギュネイの目が自信に満ち溢れる。
《でも調子にのるな!次、来るぞ!前方二機のリ・ガズィは手強い。俺が相手をする!ギュネイは後方のジェガン、二機を頼む!》
《了解!》
アムロは向かい来るリ・ガズィに向かってライフルを連射する。
一機のリ・ガズィはその攻撃で腕と脚を撃ち抜き戦闘不能状態にする。
しかし、もう一機のリ・ガズィはそれを軽く躱して反撃してくる。
「このパイロット…中々やる!」
アムロは口角を上げ、アームレイカーを微妙に操作してフェイント掛けるとリ・ガズィの背後を取る。
〈何!?こんな大きな機体が!?〉
巨大なα・アジールの意外な程の細かく滑らかな動きに驚愕した敵パイロットの声がアムロの脳裏に響く。
「この声…なんだ?知ってる?」
アムロはそんな事を思いながらも、リ・ガズィが振り下ろすビームサーベルを同じくサーベルで受け止める。
その瞬間、接触通信でパイロットが話しかけてきた。
《アムロさん!これに乗ってるのアムロさんですよね!?俺です!カミーユです!》
《カミーユ少尉!危険です!》
被弾したリ・ガズィのパイロットが敵機に通信する仲間に警告する。
《大丈夫だ、ケーラ中尉は下がれ!》
《しかし!》
《その機体じゃ戦えないだろう?危険だ!ラー・カイラムに戻れ!》
《…了解》
ケーラと呼ばれたパイロットは、自身の機体の状態に唇を噛み締めると、その場を離脱し撤退した。
それを見届け、リ・ガズィのパイロットがまたアムロに語りかける。
《アムロさん!カミーユです!分かりますか?》
「…“カミーユ”?」
《そうです!カミーユです!アムロさん!こんな事やめて下さい!アレが落ちたらラサの市民が死んでしまう!》
サーベルで打ち合いながらも、カミーユと名乗る敵パイロットが必死に訴えてくる。
「だからなんだ。俺は大佐の命令に従うだけだ。大佐は俺に5thルナを守れと言った。マスターの命令は絶対だ」
〈アムロさん!〉
パイロットの悲痛な叫びが今度はアムロの頭に直接響いてくる。
「うるさい!黙れ!お前は何者だ!何故、俺の頭に直接語りかける!?やめろ!俺の心を乱すな!おかしくなる!」
アムロは頭を振って、直接頭の中に語りかけてくる声を拒む。
〈アムロさん!思い出して!〉
「思い…出す…?」
〈そうです!ブライト艦長も心配してます!〉
「ブ…ライト…?」
〈お願いです!クワトロ大尉を止めて下さい!〉
「クワトロ…?」
その名前を聞いた途端、頭に激痛が走る。
「うっああああっっっ!」
〈アムロさん!?〉
「や…めろ…俺を…呼ぶな!」
動きの止まったα・アジールのコックピット付近にリ・ガズィが取り付く。
〈アムロさん!大丈夫ですか!?コックピットを開けてください!〉
必死に語りかけるパイロットの言葉に、アムロは思わずコックピットを開く。
〈アムロさん!〉
作品名:鳥籠の番(つがい) 5 作家名:koyuho