はじまりのあの日19 メイコとカイトの
リリ姉をなだめ、涼しい顔で言ってのけた。それは、彼らが家を建てた時期だった。一家の長として、やって来た妹達を護るため。彼は『道化』を買って出た。この時暴れたリリ姉は、イベント自体、ほぼメインで呼ばれることがなくなった。めぐ姉は、公演後、楽屋で大泣きしていた。なぜ、あんな役を、何故大好きな兄を殴りつける役など演じなければならないのか、と。紫の彼が諭して、公演が終わったら、兄妹デートすることで、めぐ姉の涙は微笑みへと変った。もちろん仕事が頂けるのはありがたい。でもそれは、道化を演じ続けてくれた、兄達のおかげも大きい
「俺も『あ~あ』って役目、結構演じた。でも、それで皆が、カワイイおまえ達が困らないなら、俺はこれで良いって思ってた。けっこうしんどかったけど、今は、もう辛くない。だって、俺はあんな人間じゃないって、みんな解ってくれてるじゃない。大好きなおまえ達が、解ってくれてるから辛くない。今はむしろ、楽しんでやってやる。でも、カイトは一人でやって来たじゃない。俺が来るまで。カイト、違ってたら済まない。でも『辛かったよ』ってそのことじゃない」
めー姉の肩の辺り、顔を埋め、二三度頷くカイ兄。選べない、選ばない。兄と紫様は、仕事に対して、そのレッテルを貼られていた時期がある。彼は今も、年に一回、必ず貶めるほどの道化を演じさせるイベントを断ることはない。それは皆を護るため『変な役は全部引き受けてやる』という、彼の意思の表れ
「当たり。でも、それだけじゃないかな。オレ、一体、め~ちゃんの何の役に立ててるのかなって、何度も思った。バカだの変○だの、やぱり嫌だった。それに、殿まで巻き込んじゃってさ。食べていく、養っていくためだって解ってても、ちょっと辛かった。たださ、やっぱり一番はめ~ちゃん。オレ『歌い手』として、め~ちゃんの役に立ててるのかなって。何時もそれは気がかりだったかな」
涙を拭う兄。照れ笑いしながら、涙は止まってない
「ばかねカイトォ。アンタがいなかったら、今のアタシだって居ないのよ。身の回りの世話してくれたり、食事作ってくれたり。愚痴も弱音も聞いてくれたわね。おちゃらけの役割、自分で引き受けてくれて『歌姫様に演じさせる役じゃない』なんて。珍しく啖呵まで切っちゃって。うふふ、アンタはアタシのナイトなのよ。いっつも支えてくれる騎士様、もっと胸を張りなさい」
途中で姉のハグを離れ、肩に手を回す兄。カイ兄の胸に、頭をもたげるめー姉。自然の動作は、二人がもう、心の底から通じ合っている証。姉を、歌でも生活でも、ずっと支え続けていた兄。どちらが欠けても、今の二人はあり得なかった。PROJECTの成功はあり得なかった。わたし達を、育て続けてくれた兄と姉。ずっとわたし達を護ってくれた、偉大な姉弟
「支えて、なんて、もったいないお言葉です、お后様。オレの命は、貴女様に捧げてみせます。これからも、オレの女神様でいてくださいね。あ~っ、幸せっ」
抱き合う二人。拍手喝采、メンバー。リリ姉、指笛、アル兄口笛。大リーグ試合のような盛り上げ。照れるカイ兄、喜びに満ちるめー姉。そこに近付いた
「お目出度うのぅ、二人とも。他所一族のワシじゃが、我が事のように嬉しいものじゃ」
本日の役割『紫の御館様』モードで、抱きしめに行く紫の彼。年長三人による、感動シーン。さらにわき上がる、わたし達メンバーの拍手、祝福の歓声。めー姉と共に、カイ兄の頭を撫でる彼。ここで、カイ兄、めー姉に何か耳打ちし、一度年長団子が解かれる。すると今度、紫様に向き直る兄
「御館様、殿もありがとうね。オレさ、友達が出来て、すっごく嬉しかった」
「俺もだ。憧れの先輩様が、イキナリの友達宣言してくれてさ。飛び上がるぐらい、嬉しかった」
固い握手を交わす、彼と兄。と、抱きつきに行く兄っ。抱きしめる彼っ。一部女子、垂涎の光景っ。BLの気無いって言ってなかったっ、紫様っ。あ、良くよく思い出したら『あんまり』とか言ってらした。じゃあ少しは、あるんだろうかソノ『気』カイ兄の言葉は続く
「でね、仕事していくうちに思ったんだ。殿は親友でさ、オレの頼れる『兄ちゃん』だって。弱音聞いてくれた、役割変ってくれた、いっつも皆を気に掛けてくれた。兄ちゃんありがとう、オレまで護ってくれてさ」
あの『道化役』公演の他に。わたしの知らないところで、そんな事もあったらしい。と、台詞は感動的なんだけど、光景は完全に『薄い本』的。ミク姉なんか
「ふぉぉぉぉおっ」
なんて言いながら撮影してる。現在でも、女子組メンバーがお酒のアテにする、門外フ出の秘蔵映像。ハードディスクにしっかり保存。しばらく堅い抱擁が交わされる。ちなみにわたしも『この頃は』ただの友情的光景で観ていた
「『兄貴』だの『親父』だの、俺も中々のもんじゃない。頼られるってのも良いモンだ。これからもメイコと『支え合って』生けよ、カイト。頼れるんなら甘えに来い『兄ちゃん』に任しとけ」
頭を撫でてあげる、紫様。親父ってのは、彼が自分を『オヤジ』と呼ぶアレではない。きっとユキちゃんが呼ぶ『ぽ父さん』のことだろう。ここでテト姉が茶化さなかったのは。茶化そうとのそぶりを見せた瞬間、キヨテル先生がメガネを外したから。先生の必殺技の威力は絶大。抱擁を終える二人、再び握手。今まで、無言で観ていためー姉、おもむろに
「ありがとう、神威君。うふふ、御館様、これからもよろしくね。カイト、ず~っと仲良し夫婦でいましょっ、アタシだけのナイト様。さあ、みんなで乾杯よ~」
「結婚祝い、は~じめ~るよ~」
彼とカイ兄の握手に、手を重ねるめー姉。三人の年長者、堅い縁を再確認。この三人だからこその、感動。その三人に、光りを当てたミク姉、撮影しながら促す。会場貸し切りなので、ホテルのスタッフさんを呼ぶときは、ブザーを鳴らす。まず、用意していただいていた飲み物で乾杯
作品名:はじまりのあの日19 メイコとカイトの 作家名:代打の代打