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代打の代打
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はじまりのあの日22 違和感の正体と告白

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皆が言い終わる前に、誰かが何かを吐く前に、テーブルにコップを叩きつける。砕け散る、グラスの音と共に立ち上がる。もうすでに視界はぐちゃぐちゃだった。化粧、落とした後で良かった。驚愕の表情で、静まりかえるメンバー

「そうだね、迷惑だよね、がっくんも。悪いことなんだね。ずっと、わたしが想ってたことは。これからわたしが言うことは」
「リンちゃん」

ごめんめぐ姉だまって。あの日、罰当たりにそう思った

「しょうがないじゃん、なにさっ、みんなして。みんなにまで言われて。みんなにまで言われたら『悪い事』にしか思えないじゃないかっ。あ~あ、わたしが悪いんだね」
「は、なに言ってんのリン。いきなりど―」

レン、未だににやつく顔が頭にくる。おそらく、場を静めようとの薄ら笑いに、益々込み上げる、怒りと悔しさ

「だまれっっ。ダメかっ人を好きなことが。しょうがないじゃないかっ。好きなんだ好きなんだ好きなんだっ」

その総てを叩きつける。押し殺していた声は、いつの間にか、号哭へ。引きつるレンの顔。もう止まらない。もう戻れない。きっとこの言葉、言った後。仲良しだった、やさしさで包んでくれた。彼との関係には戻れない

「わかっちゃったよっ。今、ついさっき解っちゃった。わたし、初めて会ったあの日から好きだったんだ。今まで気付かなかっただけで。ずっとずっと好きだったんだ。悪いか、何で悪いんだっ。悪くなんてないっ、絶対悪くなんてないっ。悪くても悪くないっ」

筋も理屈も何もない。もはや、訳が分からない。でもこれだけは言おう、決めていた。彼の方に向き直る

「がっくん、ごめんね、わたしのせいで。いままで、いっぱい優しくしてくれたのに、がっくん悪者だよ」

両手を握る、肩を怒らせる。精一杯、勇気を出す。でも、これは『蛮勇』というのかもしれない

「ごめんね。がっくんの前に現れて。わたしなんかいない方がよかったんだ。ごめんね、ごめんね、ずぅっと『護って』くれたのに。でも、でも、でもっ。だからなんだっ。すっごく優しくしてくれて、優しくわたしを護ってくて。だからどんどんドンドン好きになったんだ」

目を見開く彼

「お兄ちゃんとしてじゃない、メンバーだからでもない。わたしは好きなんだっ。結婚したいくらいに、一生支えたいくらいにっ、一生支えてほしいくらいにっ」

わたし、一息ついて、想いを込めて。自分の中の、精一杯の『好き』を込めて。思い切り言い放った

「わたしはがっくんが好きなのっっっっっ」

再び静か。誰一人、声をあげない。誰かの手によって、映写機も消されていた。無音、込み上げる後悔。最低だと思う。でも、あの日のわたしには、これしかできなかった。言うだけ言って、もうここに居たくない、部屋に帰ろう。身を翻そうとしたとき、腕をひかれた。抱き上げられ、わたしは収まった。わたしの『指定席』に。いつもとは違い、横抱きの状態で

「そう―だったのか」

混乱した。これから起きることが、予見できないから

「最低だな、俺。キミに言わせるなんて」

何がおきたか、分からなかった

「言われて気づくなんて」

頭の中はぐちゃぐちゃだった。そのわたしを

「リン『解っちゃった』って言ってたね。俺も解っちゃった」

これ以上無い真剣な、そして優しい眼差しで見つめてくれて

「俺、キミが好きだ」

彼は言った。わたしだけに、言ってくれた。目を合わせ、のぞき込むようにして、わたしだけに告白してくれた

「はじめてキミと出会った日」

ぐるぐるとまわる頭の中、空っぽの心の中。彼の言葉が響き渡る。彼の言葉で、わたしは彼の想いを知る。わたし自身の想いに気付く

「PROJECTに参加が決まった日、すごく嬉しかった。でもね、事務所が別と聞かされて。妹とも離れて。俺は一人で歌ってくんだと思ってた。あの日、この家に来たとたん、キミが飛び込んできた。キミがこの手を引いて、俺を一人じゃなくしてくれた。歓迎会で聞いたキミの歌が、声が、キミが。俺の中に流れ込んできた。俺、忘れられない。キミと俺だけなんだ、来たその日に声を重ねたの」

彼はそんなことを思っていたのか。わたし達が、ただひたすらに楽しみにしかしていなかったあの日。そんな孤独をかかえて。彼は、たった一人で。始まりのあの日を迎えたのか。そしてでも、わたし同様、わたしが彼にのみこまれたように。わたしも彼の中に入っていったのか。わたしの声が、わたしという存在が

「キミ達は親族だと、あの日聞かされた。俺は違う。過ごした年月(としつき)も、縁(えにし)の深さも血の結びつきも、全てが違う。ルカが帰って来た日、俺とキミたちとの、繋がりの違いを知った。俺は、あの時又『一人』だった」

ルカ姉が帰って来た日。彼はまた、一人に戻っていたのか。そうだ、彼は一人離れて佇んでいた。何も言わず、ただ一人

「あの日又、キミが俺の手をひいてくれた」

彼の片手がわたしの手をつつむ

「ルカの歓迎会、キミのワガママが、俺を一人じゃなくしてくれた。いつの間にか俺の傍らには、キミが居るのが当たり前になった。キミと生きてきたこと、覚えてる。はじめてボイトレの時キミと歌ったあの歌、覚えてる。料理をつくる傍らで手伝ってくれた、あの日、キミの好みを覚えた。好きになってくれた料理、沢山有ったね。俺の好みも覚えてくれたよね、すごく嬉しかった。初めてのバレンタイン、はじめて二人で留守番して。俺のチョコ嫌い、治してくれて。故郷で、線香花火、合わせてくれて。ループタイ、贈ってくれて。中華の町、秘密のお芝居して。覚えてる、全部覚えてる。リンとのことは全て」

わたしとの事すべて。わたしを想ってくれる、彼がわたしを受け入れてくれる。さっきからそれを伝えてくれる。ぼろぼろと涙があふれ出る、わたし『嬉しさ』『幸福』『安堵』混ぜ混ぜの思いが涙となって溢れていく

「始めはキミの歌声に惹かれた。そうやってキミと過ごすうち、気がついたら『キミ』に惹かれてた。仕草を、歌い方を、キミを。目で追うようになった。別々に仕事して、帰るとまず、キミに会いたくなった。何時の間にか毎日、キミと会いたくなった。キミと会えない日、俺結構凹んだ」

わたしも同じだ。毎日、彼に会いたかった『家』が別々になって、より一層会いたくなった

「いつの間にか、全部が愛おしくなってた。でも、恐かった。俺みたいないい歳のオヤジが、キミを好く。キミが、オレを好いてくれる。ありえないと思ってた。正直今でも信じられない。釣り合うはずがない、俺とキミじゃ。キミみたいに可愛い子と、俺みたいな年増がさ」

彼の言葉。そのままわたしの言葉だと感じた。きっと、どこかで思ってた。わたしなんかじゃ、彼に釣り合わないと

「自分の気持ちに、蓋をした。考えないようにした。きっと、自分の『妹』を観ているんだ。そう思ってた、思い込んだ。だから殊更、妹って言葉、強調した。バレンタイン、リップのお礼くれたあの日、覚えてる」

肯定する、わたし、頷く

「俺、本当に『クラッ』っときてた、かなり心拍上がってた。内心思ってた『妹にトキメクな』って。そうやって宥め賺して(なだめすかし)た」

皮肉な微笑みの彼