はじまりのあの日22 違和感の正体と告白
わたしが、そんなリアクションを返すと思っていなかったのだろう。さすがに青ざめるテト姉。紫様、語気が優しいのが、かえって空恐ろしい。その軽口に、悪意がない事くらい知っている。でも、あの時、あの場面で『その言葉』だけは聞きたくなかった。それに、もし、彼が『ろ、が付く人』なら。わたしを含め、ユキちゃん、ミク姉、MikiちゃんIA姉あたりも危険だ、彼曰く。実際、彼に『その気』があったら、わたしは何度も危険な目に遭っていただろう
「お二人のすすむ生涯に祝福多きことを。清らかに、ですよ」
涙ながらに微笑んで、キヨテル先生が手をたたく
「がくサン―カッケエ。マジでカッケエ―じ、自分、腹据えました」
勇馬兄が、立ち上がる。顔が赤い。拳を握る手が震えている。そしてめぐ姉の面前に歩み寄る
「わわ、勇馬くん、どした―」
「グミさん、自分、年下すけど。まだ頼りないかもっすけど」
状況を飲み込めず、慌てるめぐ姉。勇馬兄、その手を取って
「とっ友達からでいいんで、じ、自分と、つひあってくださいっ」
告白した。セリフうわずってたけど。さらにその後
「っしゃ、ウチも決~めた。リンとおにぃに負けてらんね~」
リリ姉はしたり顔で、わたしを一回撫でた後。立っていたキヨテル先生ににじり寄る
「リリィさん、あの、まさか」
「まさかも何もさ~ぁ、気づかね~ねな~ぁ」
上目遣い、手を後ろで組んで。完全無欠の小悪魔モード。笑顔が引きつり、あからさまにたじろぎ、後退する先生。壁際まで追い詰められて
「センセッ、ウチ、センセが好き。世界でいっちばん王子様っ。ウチだけのナイト様っ。ウチだけのキヨテル先生ッ」
頭半分、背の高いキヨテル先生に壁ドン。宣誓、もとい先生両腕ではさみ、超至近距離で告げる。ナイト様というより、困り果てた『執事様』的構図
「うふふ、では、ワタシも決めました」
告白ラッシュは止まらない。突如妖艶にルカ姉は、隣に座っていたレンの顎を、片手であげる
「うっ、るるる、ルカ姉、どうしたの、ちょっ」
有無を言わさず、顔を近づけて
「レン君、あなたが好きです。もちろん、I LOVE YOUの好きですよ、ぁぁ可愛らしいワタシのレン君」
今まで、撮影に没頭していたミク姉、突如あわてて、スマホをぶん投げる。叩きつけると言った方がいいか。間伐入れずにレンをがばっと抱きしめて
「え、ちょ、だめ、レ、レンくんはわたしのなのっ」
と返す。これで大破したスマホ。データー引き上げも無理だった。以上、告白ラッシュが残っていない理由。嵐はまだまだ終わらない。はにかみながら
「Mikiちゃん。何時みたいに、ぼくのプラグを繋ぐ相手でいてくれませんか~」
ピコ君、伏し目がち、上目遣いでMikiちゃんに告げる
「良いよ~、ピコ君。うちず~っとピコ君の充電器で居てあげる。だ~い好き」
両思いだったロボコンビ。抱きしめて頬ずりをはじめるMikiちゃん
「「「「「「「「「☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆」」」」」」」」」」
またまた、いろんなところで、色々な色の悲鳴が上る。それに、完全勢いづくめー姉
「さ~、盛り上がってきたわぁ。これから四次会するわよ~」
「もう、今夜はオールでよくね、メー姉~」
「はは、お手柔らかにお願いしますよ」
はしゃぎだすリリ姉を膝に乗せる先生。あの日、告白への応えは言わなかった。ただ、その顔は『観念しました』という表情だった。実際、膝の上で甘えるリリ姉をタシナメなかったし
「ダメだよ~リ~ン、いくら何でもさ、グラス投げたりしたら」
「ん、ごめんねカイ兄」
「明後日、危険物の日です~ぅ。あ、ミクさんのスマホも、大破してま~す」
「あ゙あ゙あ゙しまったスマホ~~~」
テーブルを拭いてくれる兄、お詫び、わたし。ピコ君も、破片をゴミバケツへ。ミク姉、悲鳴をあげる
「さぁ、レン君、お口を開けてくださいな~」
レンに、アイスを差し出すルカ姉。頭の中身がオーバーヒート、魂消て魂消た(たまげて、たまげた)レンを挟んだその横
「う~。ルカ姉でも、レン君は渡さないモン」
眉がハの字のミク姉の抵抗。されるがまま、抜け殻状態のレン。その二人に、返った答え
「あら、ミクさん。ワタシ、レン君と同じく、ミクさんのことも好きですのよ」
「い」「え」「「「「「「「「「「は」」」」」」」」」」
さらに魂消て魂が帰ってくるレン。驚きのミク姉。そして一同
「ぅふふふふ、神威さんもお気に入りでしたわ。未だ氷山さんも、魅力的ですもの~」
「なんとぉ」
「ふえええ」
ロボットアニメ、主人公のような台詞で驚く紫様。相当に意外だったのだろう。こんな台詞回し、後にも先にもない。キヨテル先生の慌て方も、最初で最後
「でもあげないよ、ルカ姉。がっくんはわたしの。わたしはがっくんのだもん」
「あぶね~、アブネ~、先にウチのセンセにして良かった~。ルカ美人だから~」
ちょっと牽制、彼にしがみつくわたし。先生の腕にすがりつくリリ姉
「もちろん、神威さんはリンちゃんに、氷山さんはリリさんにお譲りします。だ・か・ら・こそ、ですわぁ~。ふふふ~、ミクちゃん、レン君、お二人まとめて愛してさしあげますわよ~」
言って、これ以上無い妖艶な笑みを浮かべる。気の多い大美人、ルカ姉。見やれば、めぐ姉は、勇馬兄と話している。明らかに今までと違う雰囲気で。上目遣いで、照れ合う両者。カル姉はピコ君とMikiちゃんに、祝杯を挙げている。二人は変わらない雰囲気で。でも、あからさまに、距離が近くなっている
「ちっ。幸せ者ばっかだぜ。あ~もう。さっきのPVもっかい流してやる、かむい。このフトドキモノ共が」
「おお、是々非々で観たいでゴザルヨ、重音殿」
「あ、わたしもっ、あのPVすっごっく良かったよ~」
やや、つまらなさそうにテト姉。逆にアル兄、めぐ姉は楽しそう。わたしと彼のPVが始まる。すると、盛り上がり方がさっきとは違う一同。囃し立てるメンバー。もちろん、観ているわたしも楽しい。おそらくは彼も。もう『何も気にすることはない』あの日のわたしは、一人思う
「あっは、やっぱヤバイよ~神威のアニキィ。この絵面~(えずら)さっき、ミクちゃんが言ったみたいになっちゃうんじゃない。リンちゃんの切なげな顔も、いみし~ん(意味深)」
「ふふふふふ。もう、楽しくてしょうがな~い。なら、そんなの、シリーズで撮っちゃおうじゃない」
「意外といけそうだよね、殿。多分、女プロさん、驚喜しながら作るんじゃないかな」
ソファに腰掛け、焼酎を手にご機嫌の彼、カイ兄と乾杯を交わす。もはやMikiちゃんの言葉に動じない。紫様とカイ兄の発案で、実は名作も生まれた。女プロさん、それはそれは嬉しそうに作ってくれた
「ほらほら~、抱きしめられたリンちゃんの幸せな顔~。神威のに~さんの切ない顔。夜空の下でぇ~、これもう、萌え萌え。身長差にキュ~ってなっちゃう~ぅ」
「神威君の乱舞は、リンの想いに応えようって必死さかしら。応えてあげられないもどかしさ、つらさの足掻きにも見えるわねぇ。実際超えていかなきゃならない山は多わよ」
作品名:はじまりのあの日22 違和感の正体と告白 作家名:代打の代打