二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

キス10題(前半+後半)

INDEX|7ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

「 6悲しい言葉を遮って 」1



 今なら言える。
 そう思うのは、彼を見送った後の帰り道のこと。いつもそうだ。気丈に振舞って、ではまたと笑顔で見送って、その後一人で家まで帰る、その道すがら。
 今なら言えるのに。
 彼はここには、いない。
 夕方の橙と藍の混ざった空が美しかった。それが余計に想いを募らせるから、自然は残酷だ。






「あ。アーサーさん、忘れずに外してくださいね。金属探知機に引っかかりますよ」

 服の下にあって見えないが、アーサーの首に掛けられている指輪をさす。
 そうだな、菊、頼む。
 目的語のない言葉を理解し、菊はアーサーの首の後ろに手を回す。慣れた仕草で鎖を解き、外した。その中心で揺れる指輪に目を落とす。

「ありがとう」
「どういたしまして」
「なぁ、いつも見てるけど、気に入ってるのか?」

 いつも?
 いえ、そんなことは。
 でもよかった、気づかれてはいないみたい。

「いえ。感慨深いなぁって思ってるだけですよ」
「感慨? どうして」
「長い時間を、アーサーさんと共にしている、でしょう」

 これくらいなら、まだ大丈夫。
 まだ気づかれない。
 声色に気をつけながら、なるべくさらっと、意味を乗せずにいう。

「……菊とも、長いだろ」
「えぇ、これからも長くなるといいですね」

 今度は希望を乗せて言う。これからも、できることなら、あなたと共にありたい。

 ここは太陽の陽が入らない。空港の、ターミナルの中だから、広く、明るくとも、それは陽ざしゆえではない。そういう場所でのアーサーの瞳は、少しだけ濃くなる。淡い碧のペリドットが今は深緑のジェイドにみえるほどに。その色の変わった瞳が、不振を灯した。声を落としていう。

「どういう、意味だ?」

 どうもこうもない。

「そのままの意味ですが」

 別れ際に、こんな情況は嫌だ。彼の不振を拭いたくて、口角を上げて返す。

「また、いらしてくださいね」

 しぶしぶといったふうに、不振を解除したよう。

「当たり前だ。お前もそのうち来いよ。近く欧州に来る予定あるんだろ? 寄っていけよ。なんなら、ホテル代わりにしてくれてもいい。ていうかむしろそうしろ」
「ありがたい申し出ですけど、前後にも仕事があるので余計なことはしたくないです」
「余計なことってなんだよ。つれないな」

 あえて冷淡に言うのを、アーサーはおもしろがって言葉を遣す。

「途中にあなたに会ったら、なんだか大変なことになりそうですから」
「それはお前の望みなんじゃないのか?」
「そういう身構えを必要にしたのはあなたです」
「そういうこと言うと、意地でも引っ張り込みたくなる」
「せいぜい離れておきますね」
「はん。好きにしろ」

 皮肉のやりとりは、お互い照れ隠しだから棘はない。甘い会話だってできるのに、不思議とこうなることがある。けれどそれも楽しめる関係なのだ。それが嬉しい。
 これで流れたと菊は思ったのに、アーサーは忘れていなかった。菊によって首から外され手に握らされていた指輪を、菊に渡したのだ。

「え?」

 掌に乗った指輪をみて、慌てて見上げると、色の濃くなったはずの瞳がやわらかく向けられていた。

「お前が持ってろ」
「え?」
「そんなに驚くことないだろ。俺がいうんだ、お前が持っててくれ」
「だ、ってこれは、」

 この人の名前を口にするのは、いささか勇気が必要だった。女々しい、と思うけれど、恋敵なのだから、しかたない。

「エリザベス女王様のものでしょう」

 持ってろだなんて、なんてことを言うのですか。そこまで言って、指輪を押し返す。しかしアーサーは受け取らない。

「なんとなく、なんだ」
「はい?」
「俺がずっと持ってるのが気に食わないんだろ?」
「……」

 あぁ、嫌だ。

「だから言っておく。なんとなくなんだ、これを持ってるのは。あいつの言葉は詭弁だったけど、それでも当時の俺にとっちゃ嬉しかったんだろうな」

 国家と結婚いたします――その言葉を、アーサーは嬉しかったという。そうだろう、当時のアーサーは今より幼い。20歳に届いていたかどうか。無意識にでも、人を必要とする年頃のはずだ。ならば、二人のあいだにどんなやり取りがあったか知れないけれど、なおさら、指輪を受け取るわけにはいかない。














to be continued.
作品名:キス10題(前半+後半) 作家名:ゆなこ