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鳥籠の番(つがい) 6

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それを、慌ててアムロが馬で追いかける。
草の上で殴り合う二人の元に、ジュドーのエレカとアムロがほぼ同じタイミングで追いつくと、ジュドーは馬上のアムロを見上げる。
『この人がアムロ・レイ?』
エゥーゴでブライトと共に戦っている時も、カラバにいたアムロとは一度も顔を合わせた事はなかった。
ただ、一年戦争の英雄であり、ブライト艦長とカラバのハヤト艦長の戦友で、凄腕のパイロットだと言うことだけ聞いていた。
だからジュドーは、勝手にあの二人のような大人の男を想像していた。
しかし目の前の男は、自分よりも小柄で、その顔もどちらかと言うと童顔で、とてもかつてジオン軍から「連邦の白い悪魔」と呼ばれていた男には見えなかった。
そして、先日の戦闘で自軍のMSを六機も撃墜したパイロットと同一人物とは思えなかった。

ジュドーが呆然とアムロを見つめていると、カミーユがシャアに向けて銃を向けているのが目に端に映る。
「ちょっ!カミーユ!」
流石にそれはまずいだろうと、止めに駆け出そうとした時、アムロが二人の間に馬を走らせた。
「大佐!」
カミーユの放った弾丸は、シャアの前に立ちはだかったアムロの左肩を掠め、銃声に驚いた馬が大きく前脚を上げて暴れる。
その勢いで、アムロは馬から振り落とされてしまった。
「アムロ!」
「アムロさん!」
地面に叩きつけられたアムロは、呻き声を上げて突っ伏する。
そのアムロに駆け寄ろうとしたシャアを、カミーユが銃を発泡して牽制する。
「クワトロ大尉!動かないで!ジュドー!アムロさんを!」
ジュドーは慌ててアムロに駆け寄り、上半身を抱き上げる。
「大丈夫!?」
ジュドーの声に、アムロは薄っすらと目を開けると、痛みに顔を顰めながらもシャアを探す。
「大…佐…!うっ」
銃で撃たれた肩の傷と、落馬によって打ち付けた身体の痛みにアムロが呻き声を上げる。
「アムロ!」
アムロを心配するシャアの声に、アムロがシャアの無事を確認して安堵の笑みを浮かべる。
「大佐…無事ですね…」
「私より君が!」
「手を伸ばそうとするシャアにカミーユが銃を向ける」
「動かないで!」
「カミーユ…」
シャアは自身に銃を向ける、かつての教え子に複雑な表情浮かべる。
「大尉!何で!何であんな事を!ラサの市民には何の罪もないでしょう!」
「避難できる時間は十分に与えていた!恨み言ならば連邦政府に言え!」
「連邦がどう言う行動に出るか予測できない貴方じゃないでしょう!?市民が巻き添えになる可能性が大きかった事は分かっていた筈だ!大体、俺たちと一緒に戦った男がなんであんな事!」
「地球に残っている連中は地球を汚染しているだけの、重力に魂を縛られている人々だ!」
「そんな!だからって!」
「地球はそんな人間どもの愚行で滅びる」
「人間の知恵はそんなものだって、乗り越えられる!」
「なら・・・今すぐ愚民ども全てに英知をさずけてみせろ!」
「そんな短絡的な!!」
「それが無理だから私が手を下すのだ!人類を全て宇宙に上げなければ地球は滅びる!それにスペースノイドはアースノイドからの支配から逃れる事は出来ない!」
「だからって!それに!アムロさんだって貴方のその行動に反対していた筈だ!一体アムロさんに何をしたんだ!」
銃を構えて照準をシャアに合わせる。
「アムロに何かしたのは連邦だよ」
「え?」
一瞬気が逸れたカミーユの隙を突いて、後ろからクエスがカミーユの銃を奪う。
「カミーユ!この人の言うことのが正しい!」
「クエス!?」
「バカな事してないで銃を返せ!」
「嫌!」
そこに、インカムでアムロに呼び出され、上空で待機していたギュネイのハイザックが降下してくる。
その風圧に煽られて身を屈めるカミーユの前にハイザックは降り立つと、マニピュレータをシャアの前に差し出す。
《大佐!乗って下さい!》
「ギュネイか!待て!アムロがまだ…」
シャアは倒れるアムロに駆け寄り、連れて行こうとするが、アムロの側にいたジュドーに銃を向けられ立ち止まる。
「来るな!それに…この人、頭を打ってるかもしれない!今、動かすのは危険だ!」
ジュドーの言葉にシャアがビクリと肩を揺らす。
シャアの気配に、アムロが痛む身体を必死に動かして視線を向ける。
「大佐!行って下さい!」
「しかし!」
動こうとしないシャアに、アムロが叫ぶ。
「シャア!貴方にはやる事がある筈だ!」
「アムロ!」
「大丈夫だ…貴方との約束は必ず守るから…!」
『ずっと傍にいる』
二人だけの約束。
シャアはグッと唇を噛み締めると、もう一度アムロを見つめ、視線を合わせる。
「アムロ!約束だ!」
そのシャアの視線にアムロが頷く。
「…急いで!」
「アムロ…」
シャアは後ろ髪を引かれる思いでアムロの名を呟くと、踵を返してハイザックのマニピュレータへと乗り込んだ。
上昇していくハイザックを見つめながら、アムロはシャアへと思惟を送る。
『シャア…必ず…貴方の元に戻るから…』
アムロの想いは離れていくシャアの脳裏に届き、シャアはアムロを見下ろす。
『アムロ!必ず私の元へ戻って来い』
シャアの思惟もまた、アムロに届き、アムロはそっと微笑むと、必死に繋ぎ止めていた意識を手放した。


◇◇◇


カミーユの報告を受けたブライトが、ラー・カイラムの医務室へと駆け付ける。
そして、病室の前に立つジュドーの肩を掴んで叫ぶ。
「ジュドー!アムロを連れてきたって言うのは本当か!?」
「は、はい」
「それで怪我は!?」
「今、治療が終わって…」
ブライトはそこまで聞くと、病室の扉をバンっと開けて中に入る。
そこには、ベッドに眠るアムロと、ベッド脇の椅子に座り、アムロを心配気に見つめるカミーユが居た。
「カミーユ!アムロは!?」
「艦長…、大丈夫です。肩の傷も掠っただけですし、他も打ち身だけで骨折なども無いそうです。頭の方も、スキャンした限りでは異常はありませんでした。ただ、頭を打っているので、今夜は様子を見る事になりました」
「…そうか…」
ホッと息を吐くと、傍に有った椅子に座り頭をガシガシと掻きむしる。
「とりあえず、カミーユ。何があったか詳しく説明しろ」
「はい…」

カミーユの説明に、シャアまでがロンデニオンに居た事に、ブライトは驚きを隠せない。
「なんだってシャアがここに…」
と、そこまで言い掛けてハッとする。
「まさか政府のお偉方がロンデニオンに集まっていたのはシャアに会うためか!?」
「可能性はありますね。裏で何か取り引きをしたのかも…」
ブライトは溜め息を吐くと、眠るアムロに視線を向ける。
「アムロを問い質せば分かるかもしれんが…、こいつが簡単に白状するとは思えんな」
昔から内向的で直ぐにいじける癖に、負けん気が強くて頑固だ。
記憶が無いとしても、そんな性格までは変わっていないだろうとブライトは思う。
「艦長、アムロさんは…一体連邦に何をされたんですか?そもそもニュータイプであるアムロさんに強化処置なんて必要無いでしょう?」
カミーユの問いに、ブライトが小さく息を吐いて頷く。
作品名:鳥籠の番(つがい) 6 作家名:koyuho