二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

LIMELIGHT ――白光に眩む4

INDEX|7ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

 その温もりを、忘れられる気がしない。このカルデアで過ごしたエミヤとの時間は、この身にも、心にも刻まれてしまった。たとえこの先に、また封印指定となっても、きっとこの日々を胸に、おとなしく従うことになるのだろう。
 不意に、バサッと音がして、背中に何かがかけられる感覚。顔が上げられないので、それが何かはわからない。ただ、エミヤと同じで温かい。
「俺は……」
「ああ、そうだな」
 何を言ったわけでもないのに、エミヤは認めてくれた。
「俺……っ…………」
 ぐい、と二の腕を引かれ、驚きに顔を上げた瞬間、ぎゅぐ、と音が鳴ったのではないかというくらいに抱き込まれた。
「ぁ…………え?」
「ここで泣け」
「なに……言って……」
「私にすべて預けて、泣けばいい」
「う……そ、だ、お、お前が、そんなこと、言うはず――」
「何が嘘なものか。お前は毎度毎度、私をなんだと思っている」
「…………」
 呆れた声が心地好いなんて、と士郎は自分を笑いたくなった。
「泣いて……る、わけじゃ……」
 ないと言おうとした喉が詰まる。言葉がうまく出ない。
「ここにいろ。出ていくことなどない」
「俺……は、誰に、なに……言われ、ても……、ここには、」
「誰がなんと言おうと、お前が過去を変え、未来を変えた。それは、私が知っている。誰一人知らないとしても、私だけは忘れることはない」
 士郎が何よりも欲しかった言葉は、思いもよらずエミヤからもたらされた。
 士郎との記憶を、忘れるはずがないとエミヤははっきりと口にする。
(ああ、もう……、それだけで…………)
 何もかもがどうでもよくなりそうになる。
「っ……、っ…………アーチャー……」
 エミヤに左腕を回して、以前のように呼んだ、“アーチャー”と。エミヤをそう呼ぶと、ますます涙が止まらなくなった。
「まったく、お前は……、不器用にも程があるだろうに……」
 呆れた声ではあるけれど優しい。やはり、士郎の涙はおさまりがつかなくなる。
 びゅ、と凍える風が吹き抜けた。
「っ、寒いな……」
 サーヴァントが寒がるなよ、と悪態はつけず、こく、と頷く。士郎とて寒い。頬や目尻の涙がパリパリと凍っていくのがわかる。
 エミヤにそのまま抱え上げられ、否応なく建物内へと連れて行かれた。

 どこへ行くのかと思っていると、いつも士郎が訪れていた窓辺へ着き、そっと下ろされる。俯いたままの士郎はしきりに目元を擦っている。その足の先で床に膝をつき、エミヤは士郎の顔を覗き込んできた。
「とま……ら、な、ぃ……んだ……」
 だから、見るなとは、声にならない。
「ああ」
「だか、ら、ほう……って……、おいて、くれて……」
 一人にしてほしい。エミヤにこんな情けない姿を曝したくはない。
「そういうわけにはいかない」
「なん……で……」
 憮然とこぼせば、
「誰の目に留まるとも限らないからな」
「わるか……ったな、はずかし……ぃ、やつ、で……」
「そういうことではない」
 ため息混じりに言われるが、士郎にはエミヤの言っている意味がわからない。
「……も、……いけ、よ……」
 早くどこかへ行ってくれと言うのに、エミヤは動く気配がない。
「とまらな……ぃ、って、いってる……」
「ああ」
 覗き込んでくるのをやめろと言っても、エミヤは珍しい物だとでも思っているのか、食い入るように士郎を見ている。
 鈍色の瞳から逃れたくて、視線を逸らすものの、エミヤはいっこうに目を逸らしはしない。やがて、満足したのか、士郎の肩に掛かっている赤い布で、ぐしぐし、とエミヤは頬を拭ってくる。少し士郎も余裕が出てきて、ちらり、とエミヤを睨んだ。
「おまえ……、きお、く…………」
 思い出したように士郎は恨みがましく呟く。
「…………ああ、その……、だな、言いそびれ、づッ!」
 ごつ、と士郎の拳がエミヤの頭に振り下ろされた。
「痛いぞ、たわけ……」
 ぼそり、と不平をこぼすエミヤに、士郎は項垂れてしまった。
「な、んだよ……、なんで、言わないんだよ……、お、お前な、俺が、俺……が……」
「悪かった。だから、泣くな」
「ち、ちが……、お前の、せいで泣いてるんじゃ、な……、と……っ、とまら、な……ぃ……」
「ああ」
 そっと頬に触れた指が戸惑いながら水滴を拭う。一度拭えば、やり方を覚えたかのように、何度もエミヤの指が頬を撫で、やがては頬を包むようにその掌が涙を拭う。
 その優しい仕草に、士郎の頬は、ますます濡れてしまう。
「俺…………、どこで、間違ったんだろう、な…………」
「お前は、間違ってなどいない」
 呟けば、エミヤが即座に否定する。
「でも、俺は、どこにも、」
「貫いたのだろう?」
「貫く?」
「お前は、お前のやるべきことを貫いた。それだけだ」
「そう……なのかなぁ……」
 項垂れたままで、やはり顔が上げられず、士郎は、ずず、と鼻を啜る。その様を見かねたのかどうか士郎にはわからないが、エミヤは腕を引いて背中を見せる。
「なん――」
 疑問をこぼす前に背負われてしまった。 
「何……してんだよ……」
「部屋に戻る」
 エミヤはきっぱりと言い切る。
「俺の了解は取らないのかよ……」
 呆れて訊けば、
「必要ない」
 と、にべもない。
「何を勝手に決めて――」
「冷え切っている」
 士郎が言い募ろうとする声に静かな声が重なった。
「……まあ、うん」
「寒いのだろうが」
「そりゃ……、今は……さむい……」
 素直に認める。こんなことに意地を張っても仕方がない。
「寒いというのなら、魔術回路を添わせ、私が温めてやろう」
「はっ……。お前、そういう、歯が浮くようなこと、よく、口走れるな……」
「やかましい」
「お前がそんな気を遣うことじゃ――」
「震えていただろう?」
「え……?」
「私が傍にいることで少しでも温もりを取り戻すのなら、それでいい」
「…………」
 確かに寒かった。寒いだけではない震えをどうすることもできず、エミヤの温もりに縋った。その上、ひび割れて、使い物にならなくなった士郎の魔術回路は、エミヤの魔術回路を真似て元の形に戻っていった。再び動かなくなってしまった士郎の右腕は、またエミヤの“治療”が必要になるのだ。
(傍にいてくれるのか……?)
 アーチャーである記憶を持ちながら、そんな関わりを持ってくれるというのだろうか。
「アーチャー……」
 声が掠れてしまう。
「なんだ」
 静かな返答はぶっきらぼうだが、刺々しいわけではない。
 エミヤは士郎の知るアーチャーとして、これまでのことをわかっていながら、このカルデアで培った関係を続けていくつもりなのだろうか。
 疑問は尽きない。
 ただ、今だけは、都合のいい解釈に浸っていたい。
「アーチャー、止まらないんだ……」
「ああ」
 エミヤの肩に落ちる雫をどうすることもできなくて、士郎は、ぎゅっ、と目を瞑り、エミヤがかけてくれた赤い布を頭から被る。
「そうしていろ」
 エミヤの声が、不思議と優しく胸に響いた。



□■□Interlude Confusion□■□

「強化の魔術と、アイアス、だと?」
「うん……」
 俺の右腕を取って、矯めつ眇めつしていたアーチャーは、
「たわけ」