ささやかな期待
手を振って別れた静雄の行方にヘルメットを向けながら、セルティは情報屋から受け取った情報を胸中で反芻した。
新宿在住の情報屋、折原臨也。人を翻弄し駒として策を練る彼は、新羅と同じ静雄の旧知の人物にして仇敵だ。
その彼から受け取った情報は、セルティにとって嬉しい部類に入る情報だった。
身近にそれに当てはまりそうな人物として、静雄を上げられた時も嬉しかった。もしかしたら新羅も該当するかもしれないと言われた時は、やはり嬉しかったけれど少し複雑な気持ちになった。
都市伝説をかなえるための条件。
それを相手に強要することはとても身勝手で、セルティにはそれはできなかった。
けれど静雄にそれを確かめた今、できることならそれがかなえばいいと少し本気でセルティは思った。
セルティが臨也から受け取った、一方的な電話。
それは。
『童貞のまま30歳になった男性は、妖精になれるっていう都市伝説があるんだよ。十中八九、今のところのシズちゃんは該当すると思うけど、ここ最近のことは俺は確かなことは解らないから、君が確かめてみたらいいよ。ああ、もしかしたら新羅もあてはまるかもね。高校の時から、あれだけ君一筋だって公言してはばからなかったから。あと何年も君が新羅に我慢させるのも酷だけど、新羅はまあ喜ぶんじゃない?』
一言一句たがえず、セルティはその電話の内容を覚えている。
一部腹を立てはしたが、その内容はセルティの心に淡い喜びをもたらした。
もしかしたら、妖精の仲間ができるかもしれない。
そしてそれが、もしかしたら身近な自分の大切な人たちかもしれない。
彼らを人間でなくする現象に歓喜を感じる自分に罪悪感を覚えはしたが、それでもそれが現実になったら嬉しいと、すこしも思わずにいられるほど、セルティは聖人ではなかった。
積極的にそれをかなえる気にはなれなくとも、心のほんの片隅で、彼らが妖精になってくれたらいいなとセルティは乙女のような心で想った。