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LIMELIGHT ――白光に眩む7

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「ガウェイン卿」
 静かな声で、ランサー・アルトリアは命じる。
 は、と軽く頭を下げ、聖剣を抜刀したガウェインに目を剥いたのは立香だけではない。
「ま、待って、ガウェイン!」
「先輩!」
 駆け寄って止めようとした立香の前にマシュが立ち塞がり盾を構えた。
「マシュ?」
「ガウェイン卿の宝具、来ます!」
「えっ? ま、待って――」
「転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)!」
 立香の声は、太陽の騎士の宝具にかき消されてしまう。熱風が立香を襲うも、マシュの盾のおかげで守られていた。
 太陽の熱炎に包まれ、魔神柱ごとすべてを焼き尽くすかと思われたが、
「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!」
 七枚羽の盾がガウェインの宝具を阻んでいる。
 む、と眉根を寄せたガウェインは、剣を地に突き立て、エミヤを見据えた。
「日ごろは食事時にはお世話になっていますが、魔神柱を庇い立てするのであれば――」
「魔神柱を庇っているのではない! こいつを引き離すまで待てと言っているのだ!」
 ガウェインにみなまで言わせず、エミヤが強く言えば、ガウェインは目尻を引きつらせた。自らの宝具を阻まれ、言いたいことも最後まで言わせてもらえないというのは、慇懃な騎士でも少々腹に据えかねるのかもしれない。
「その間に我らがマスターに危険が及ぶのであれば、致し方ありません。その方ともども、消し去るのみ! 苦しむことなく、一瞬で焼き尽くして差し上げます!」
 ガウェインは正論を盾に一歩も引かず、敢然とエミヤに言い放った。
 しばし睨み合っていた二人だが、一つ深呼吸して、エミヤは士郎へと目を向ける。呼吸は荒く、不規則で、すぐにでも医務室に運んでやりたい。
 そっとその頬を撫でる。
「士郎……」
 まだ、終わらせるわけにはいかない。こんなところで失うなど冗談ではない。
「私は……」
 守護者として多くの命を助け、また多くの命を切り捨ててきた。こんな状況は、いつものことだった。災厄となる少数よりも多数を救うためにと、切り捨てていったものの多くを、エミヤはいつもどうにかして救いたいと思いながら削っていた。
(お前を、失いたくない……)
 常であれば、自身もガウェインと同じ立場にいる。きっと、仕方がないと、ためらいなく剣を放つだろう。
 これが士郎でないのならば、おそらくエミヤは、こいつが消せと言っているのだから仕方がない、と言い訳をして、ここで終わらせてやるだろう。
 冷たい風が赤銅色の髪を薙いだ。琥珀色の瞳がエミヤを探すように揺れている。
「士郎……」
 両手で頬を包み、額を合わせる。
「ぁ……ちゃ……、っ……も…………ゃ、め……」
 やめてくれと言いたいのだろう。士郎は小さく首を振った。
 その頬を包んだ手に、温かな雫。
(この温もりを、オレは……、この熱を、どうしてもオレは……)
 心は決まった。
「なに、心配するな。私は多くの命を救ってきた守護者だ。たった一人、お前すら守れなくてどうする」
「ぅ……、っ、ぁ、……ちゃぁ……」
 少し名残惜しかったが、士郎の涙を親指で拭い、手を離す。半歩下がって、足を向ける。ガウェインに対して。
 目を剥いたガウェインを静かに見据えたエミヤは、右腕を突き出した。
 赤い外套が鼓舞するように、風にたなびく。
 士郎を背に庇い、エミヤは守護者として今まで守るべきであった大勢の方を、棄てた。
「……いいでしょう。貴殿がそこを動かないというのならば、けっこう。何度でも我が宝具、受けていただきます」
「いいだろう。だが、クラス相性というものを君は忘れているのではないか?」
「む」
「待った、待った! 内輪揉めしてる場合じゃないから!」
 立香が言うものの、
「マスターは黙っていろ」
 エミヤにピシャリと言われ、
「我らがマスターに向かってそのような暴言、許しがたい!」
 ガウェインもさらに火に油だ。
 ポロロン、と響く音色とともに魔神柱が苦悶の声を上げる。
「ちっ!」
「手を貸しますよ、ガウェイン卿」
 トリスタンもが参戦し、エミヤは舌打ちをこぼした。
「クラス相性、そうですね。では、私がこの聖槍でとどめを刺しましょう」
 圧倒的不利な状況に、さらに拍車がかかった。ランサー・アルトリアが進み出てくる。
「っく……」
 エミヤは歯噛みするしかない。セイバークラスやアーチャークラスならどうにかなるかもしれないが、ランサークラスが相手となれば、どう転んでも勝機は見えない。
『くはははは! カルデアが内輪揉めとは、案外、脆いところがあったものだな!』
 魔神柱の高笑いに、誰も反論できずにいる。
「そこまでだ!」
 凛とした声にエミヤは瞠目する。
「アル……トリア……」
 遅ればせながら玄関口を出てきたセイバーのアルトリアは、風王結界(インビジブル・エア)を纏った剣を片手に駆けてくる。
 懐かしさが去来する。彼女はエミヤにとっても、忘れ得ぬ存在だ。今も変わらず彼女はエミヤシロウの剣であり、盾であると宣言してくれそうな錯覚を、思わず見てしまいそうになる。
「待ちなさい! ランサーの私!」
 駆けてくるセイバー・アルトリアを、ランサー・アルトリアは馬上から見下ろすに留まる。
「彼はこのカルデアを守った一人です。どういう経緯で魔神柱にとり憑かれてしまったのかはわかりませんが、彼はカルデアに必要な人材でしょう? そんな人を、あっさりと切り捨てるのですか?」
「以前がどうあれ、今は魔神柱です。マスターに危険が及ぶとあれば、生かしておく価値はない」
「そうですか」
 ふ、とセイバー・アルトリアは吐息をつく。
「では、私が相手です。クラス相性云々であれば、貴女は、私には勝てませんよ」
 フフン、とセイバー・アルトリアは自信たっぷりに笑って見せた。珍しくむっとして眉根を寄せたランサー・アルトリアは、返す言葉が見つからないのか、セイバー・アルトリアに馬ごと向き合う。
「おっと、動くなよ? おれの槍がお前さんの心臓に狙いをつけちまったからな」
 クー・フーリンが赤い槍を突き付け、トリスタンを押さえる。
「む。邪魔立てするというのですか?」
「ああ。あいつには、借りがあるからな。また焼きそば食わせてもらうってことになってんだ」
「は? 焼きそ――」
「な! クー・フーリン! ずるいですよ! 私は最初に焼き飯をいただいただけで、なかなかシロウの相伴に与っていないというのに! あなたは、約束までしたのですか!」
「おー、羨ましいかあ? じゃあ、おれから頼んでやってもいいぞー」
「う……、き、貴公の手を借りるのは、き、気が引けますが……、や、焼きそばのためならば……、ええ、はい、膝を折りましょう。約束ですよ! クー・フーリン!」
「おう! りょーかい」
「えーっと、なんの相談してんの? クー・フーリンも、セイバー・アルトリアも……」
 立香が目を据わらせると、飯のこと、と悪びれもせずクー・フーリンは答えた。



『フン。もう少し、暴れてくれると思ったが……』