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LIMELIGHT ――白光に眩む7

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 カルデアのサーヴァントたちが膠着状態に陥り、思ったような乱戦状態にはならなかった。当初の予定より大幅にズレてしまったが、混乱の中で立香を狙おうと考えていた魔神柱は、仕方なく立香を狙って自ら攻撃を仕掛ける。が、互いに牽制し合っていても、やはり、最優先は立香への守りだ。どんなに魔神柱が攻撃しても一つも立香には当たらない。
 魔神柱は気づいていないようだが、実をいえば、戦闘になれば制御が難しいバーサーカークラスのサーヴァントはここには一体もいない。この点、ダ・ヴィンチの機転が功を奏したともいえる。警報を鳴らすと同時にダ・ヴィンチは、バーサーカークラスには出てこないように、と立香から厳しく命令するよう指示を出している。立香もそれに応え、きっちりと命を下していた。
 ダ・ヴィンチによると、“バーサーカーが暴れたら、カルデアの建物、なくなっちゃうかもしれないじゃないか”だそうだ。
 こういう状況になると予想していたわけではないが、その判断は正解だったと言える。
『く……、なぜだ……』
 魔神柱は消耗しているのか、攻撃の数も威力も減ってきている。
 おそらく三流魔術師・衛宮士郎の身体を媒介にしていることが主な原因だろう。元々からして魔力の少ない士郎を苗床のようにしても、養分の少ない土に巻かれた種籾のようなもので、うまく育たない、ということだ。
 魔神柱の攻撃も途切れはじめ、剣を交えるわけではないが睨み合うサーヴァントたちは、士郎を生かすか殺すかで揉めている状態。
 このぬるい戦闘状態に一石を投じる声が響く。
「何をぐだぐだと、くだらぬことを!」
 魔神柱に剣が、槍が、斧が、矛が、あらゆる武器が突き立っていく。
「ギルガメッシュ、貴様!」
 エミヤの盾が間に合わなかったために、魔神柱は叫びを上げた。
「ダメだよ! 英雄王!」
 立香が慌てて止めるが、
「雑種ごときに、何を血迷っている。さっさと始末せぬか」
「え、英雄王、だけど、士郎さんが、」
「フン。どこの馬の骨とも知れぬ雑種など、気にかけることもないわ」
 さらなる攻撃のために武器を中空に浮かべた英雄王・ギルガメッシュに、
「ダメだ!」
 立香はきっぱりと言い切った。
「士郎さんは、カルデアの恩人でもあるし、ご飯も作ってくれてるんだ! なくてはならない人だよ! どこの誰でもいい、理由なんかなくていい。おれは、士郎さんにここにいてほしい!」
「マスター……」
 この言葉は士郎にも届いているだろうかとエミヤが振り返れば、士郎は涙を落としていた。
「聞こえたか、士郎。マスターはお前にいてほしいそうだ」
「……っ…………」
「泣いている場合か。お前は、魔神柱と離れる術でも考えろ」
 琥珀を滲ませて頬を滑った雫は、赤く染まった雪に落ちていく。
「……オレたちは、エミヤシロウの体は、剣でできているのだろう? あんなイカだかタコだかわからぬ奴にくれてやるには、惜しいと思うが?」
「アー…………チャー……」
「士郎、お前は、必要とされているのだぞ」
 歩み寄り、士郎の頬を拭えば、こく、と小さく頷いた。
「……か……ら、だ……は、つる……ぎで……」
 士郎がぽつり、ぽつり、と言葉を紡ぐ。それは詠唱と同じ文言だが、表には何も現れない。投影をしているのでも、盾を出しているのでもない。ただ士郎は自身を律するために呟いている、エミヤはそう思っていた。だが……。
「っ……ぅ……っ……かは…………っ」
 びしゃ、と鮮血が士郎の足下に落ちる。
「な……」
『ぎ……ぃ、痛い! 痛い! いたい! ぃたい! いたいぃぃっ!』
 魔神柱が痛いと叫び、その表面をのたうたせている。
「な……に、が……?」
 エミヤは呆然と魔神柱を見上げる。
『やめろぉ……、やめろぉぉぉっ』
 突然苦しみはじめた魔神柱に睨み合いを続けていたサーヴァントたちも唖然として見ているだけだ。
「エミヤ、士郎くんは……、何をしているんだ……?」
 ダ・ヴィンチが青くなって訊く。
「なに、とは……」
「詠唱している、のか? 魔力が、魔神柱の内側に……」
 ダ・ヴィンチの独り言に、エミヤは眉を顰める。
(詠唱……? 内側? 魔力?)
 士郎を見れば、途切れ途切れに何かを呟いている。おそらく、詠唱の言葉だが、それは、自分を保とうと……。
「いや、詠唱なのかっ!」
 エミヤは士郎の顔を上げさせる。
 僅かに開いた瞼は、あと幾ばくもなく閉じてしまいそうだ。
「おい! やめろ! 詠唱をやめるんだ!」
「エミヤ? どういうことだいっ?」
「固有結界を……、内側に、」
 ダ・ヴィンチに訊かれ、エミヤは蒼白のまま答えた。
「内側? 固有結界? まさか! 彼は、魔術なんて使えない状態で、魔術回路もボロボロで、」
「魔術回路がほぼ完治していた……。おそらく、魔神柱の仕業だ。外に固有結界をつくり出す魔力はないが、衛宮士郎の身体には魔術回路がある。そこに溜まっているのは、魔力だろう? そして、魔神柱とも繋がっている……」
「まさか、自身の魔術回路に、固有結界、だとでも?」
「できなくはない」
「なぜだ! そんなこと、人間に、」
「エミヤシロウは、剣でできている」
「それは、詠唱の、」
「いや……、それが……っ……真実だ」
 血を吐くように答えたエミヤの手は士郎の肩を強く掴み、震えている。
「エミヤ……」
 悲愴な叫びを上げる魔神柱から、剣の切っ先が突き出た。一本が現れると、次から次へと剣が魔神柱から突き出ていく。まるで棘が生えてきているようだった。
『ぐう、おおおぉぉぉぉ……』
「士郎くんは、自身の魔術回路を……、切り刻んでいる、のか……」
 叫び続ける魔神柱は、次第に萎んでいく。実際には内側から剣で切り刻まれていっているようだ。ぼとぼと、と刻まれて地面に落ちた魔神柱の欠片は消滅していき、あとには赤く染まった雪やコンクリートだけが残っている。
 言葉を発する者はなく、血飛沫を上げて小さくなっていく魔神柱を、誰もが呆然と見つめているだけだった。
 断末魔もすでに聞こえず、形を失った魔神柱は消えていき、あとに残ったのはバラバラと落ちてくる幾本もの剣。
 無数の剣が地に落ち、あるいは突き立ち……、剣が降りつもる音は、まるで鉄を鍛つ音のように甲高く響いた。



「エミヤ! 士郎さ、うっぷ……」
 立香とマシュが駆けつければ、そこには血の臭いが立ちこめていた。
「愚かにも魔神柱などに喰われたクズのような雑種とて、矜持はあったと見える。その身を破壊することで、カルデアを守ったということか。天晴れではないか、雑種ごときが……」
「ちょっ、英雄王、いい加減、おれも怒るよ!」
 立香が窘めると、ギルガメッシュは、フン、と鼻を鳴らしてさっさと建物の方へと戻っていく。
「もうー……」
「マスター、すまなかったな……、歯向かうような真似をして」
 エミヤの静かな声が聞こえる。
「い、いや、いいよ、それより、士郎さ――」
「エミヤシロウは剣を内包した世界を作る。マスターも知っている通り、私の宝具は剣の立ち並ぶ世界。衛宮士郎は今それを、自身の中に……。外に展開できないからか、こいつは中から魔神柱を斬っていった、自身の身体、諸共に……」
「な……」