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LIMELIGHT ――白光に眩む7

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「視線を交わした、それがあの魔神柱との縁となった。そういうことだよ」
「目が合った? それだけで?」
「ただ、合うだけじゃなく、士郎くんがその時、何かしら心を動かしたからだ。あれには、それだけで十分だったのさ」
「心を動かす…………。たぶん、恐いと、思った」
「え?」
「あの時、視線を感じて、恐いと思ったんだ、だから、俺が……、魔神柱を……」
「いいや、君のせいではないよ。遅かれ早かれ、あれは、カルデアの所員、いや、もしかしたらサーヴァントに憑いていたかもしれない。君が狙われた、ということではないんだ。たまたま君と目が合った、そういうことだ。君が気にすることなんかじゃない」
 ダ・ヴィンチは、はっきりと言い切る。
「でも、俺は……」
「士郎くん、君はね、ここで過ごしていればいいんだよ。何よりエミヤがそれを望んでいる。彼は立香くんの信頼厚いサーヴァントだ。彼が万全でなければ乗り越えられない戦いがいくつもある。したがって、士郎くん、君はエミヤの栄養剤、ということだよ」
「え、栄……養……」
「そ。彼が存分に戦える安らぎを、与えてやってはくれないかな」
「そんなの、俺には……」
「士郎くん。君はもっと彼に甘えていいんだ。それに、私たちカルデアの者にも、もっと頼っていい。君は一人じゃない。何しろ我がカルデアのマスターがここにいてほしいと望んだ人材だ。最重要人物といっても過言ではないね!」
 茶化すように言ってダ・ヴィンチは片目を瞑る。
「そんな、大袈裟な……」
「ふふ……、そうでもないと思うよ、私は」
 意味深な顔で言うダ・ヴィンチに、胡散臭い、とは言わず、士郎は適当に相槌を打っておいた。
「えーっと、ところで、身体の方だけど、しばらくは車椅子になるね。君と魔神柱の癒着箇所が背中だったから、君は中枢神経ごと魔術回路を破壊しただろう? なので、四肢、特に下肢がどうにも回復が遅いんだ」
「ん。わかってる」
「それからー、えっと、他に気になるところはあるかい? 四肢以外になるけど、早く治ってくれる方がいいところとかは?」
「他に……」
 ふと、エミヤが見えなくて苦しかったことを思い出す。最後にひと目、と願っても見えなかった悔しさが胸に広がる。
「……目を、治したい」
「目? 左目かい?」
「ちゃんと見たい、アイツを……。視力、戻るか?」
 真っ直ぐな琥珀色の瞳がダ・ヴィンチを見つめている。
「ああ、もちろん。左目の回路をきちんと繋いで矯正すれば、時間はかかるけど必ず戻るよ」
「じゃあ、頼むよ」
「任せてくれたまえ」
 胸を張って言うダ・ヴィンチに、士郎は小さな笑みを浮かべた。



□■□Epilogue 青の瞬間□■□

「寒くないか?」
「うん、こんだけ着せられりゃ……」
 車椅子に乗っているのは士郎だが、その姿は肉襦袢でも着けているような有様だ。ちょっと外に出る、と言えば、すでに上着を着ているにも関わらず、立香とマシュが防寒着を、と一枚着せ、二枚着せ、これでは足が寒いと言ってはひざ掛けや毛布を次々士郎に巻き付け……、結果、こういうことになった。
「愛されているな」
「そんな無感動に言われても、ちっともそれらしくない」
「贅沢者め。マスターに気にかけてもらいたがるサーヴァントは何人もいるのだぞ。マスターのご寵愛を受けている、などと勘違いされてみろ、どんな目に遭うか想像がつくだろう?」
「う……、うん、なんか、やばいのが、何人か……」
 見た目と違って、中身は鬼か蛇か、というようなサーヴァントはざらにいる。そもそもサーヴァントなど、一癖も二癖もある者ばかりといってもいいカルデアで、安穏と過ごせるかどうかはマスター・藤丸立香との関わり方で決定すると言ってもいい。
「藤丸は、大事にしよう、うん」
 独り言ちる士郎の頬に温かい手が触れた。
「ん? なに?」
 ぐい、と上を向かされれば、むっとした顔のエミヤが見下ろしている。
「な、なんだよ?」
「別に」
「…………ふ、藤丸は……、アンタとは、また、違う……存在で、」
「別に、私は何も言っていないぞ」
「へ? あ、う、い、いや、そのっ、っ」
 慌てて顔を戻し、熱くなる顔を俯ける。
 車椅子を回り込んで、エミヤが目の前にしゃがんだ。
「う、な、なん、だよ……」
 士郎の膝あたりに腕をのせ、エミヤは、じっと士郎を見上げる。
「アーチャー?」
「……ダルマ」
「は?」
「ダルマだな。まん丸だ」
「…………いっぱい、着ろって言ったの、お前だろっ!」
 つっこむ士郎は着込んだために丸々とした腕を伸ばしてエミヤの肩を叩く。二、三回当たったところでその手を防がれ、むっとする唇に押しつけられる熱。
「っ……ん、っん、ぁ、ちゃ、」
 車椅子のままで身動きのできない士郎には、エミヤのキスから逃れる術がない。
 こんなところで何をしているんだ、とつっこみたいが、気持ち好さにそんな気も失せてしまう。エミヤの舌を受け入れて、擦り合わせた舌の熱がさらに上がる。息苦しさに肩で呼吸をはじめたころ、ようやくエミヤが少し離れた。
「ぁ……」
 茜色に染まった空がエミヤの鈍色の瞳に映り込んでいる。
「きれー……」
 思わずこぼれた感嘆にエミヤは瞬き、
「お前の瞳の方が、私はいいと思うがな」
 そんなことを言って、また士郎に口づけてきた。



 茜色だった空が、だんだんと青い色合いに変わっていく。太陽の出没は、空が最も色を変えるきっかけとなる。それは、遥か昔から繰り返されてきた自然の妙味。
 士郎のいた世界にはもう、こんな空を見られる場所はなかったけれど……。
 夕暮れの空の赤さを見上げることなどなかった。朝焼けに染まる空など見えなかった。
 今ここは、黄昏時――。
 絶海の地のカルデアにも黄昏がやってくる。
 “誰そ、彼れ”と問うた古の人々は、正体の見えない姿に怯えながら、そうこぼしたのだろうか。
(いや、きっと……)
 黄昏の中で見送られた士郎には、そんなふうには思えない。
 きっと正体がわかっていて、わざと問い、その存在を確かめ合うために交わした言葉ではないかと、そんな気がしている。
「黄昏だったよ……、俺には……」
 不意に士郎は、ぽつり、とこぼす。
「黄昏?」
「ん。人生の終わり、ってな……。俺にはさ……、お前と地下洞穴でやりあったあの時が、黄昏だったんだよ……」
「そんなわけがあるか。三十そこらで黄昏だと? 自分に酔うのもたいがいにしろ」
「む。なんだ、その言い方。俺がそう思っただけなんだから、それでいいんだよ!」
「気が早いわ、たわけ」
「な、なんだと!」
 噛みつく士郎の頬を両手で包み、腰を屈め、エミヤは真っ直ぐに士郎を見つめる。
「知っているか?」
「な、何をだよ?」
「黄昏は、暁と似ている」
「い、色合いが似てるってだけで、大違いだと思うぞ」
 エミヤに見つめられることが気恥ずかしくて目を逸らし、憮然と士郎は反論する。
「それでも私にとってお前は、太陽が沈んでいく黄昏ではなく、待ちわびる……、いや、待ちわびた、暁だった」
「…………は?」
 何を言われているのかわからなくてエミヤに目を向ける。
「オレにとって、お前と地下でやりあったあれが、今のオレを生み出した、暁だった」