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鳥籠の番(つがい) 9

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《アムロさん!ジュドー!そのヤクト・ドーガを抑えていてくれ!》
《了解!》
ジュドーはカミーユが何をしようとしているか察すると、ギュネイのヤクト・ドーガに攻撃を仕掛けて、α・アジールに近付けないようにする。
《クソ!邪魔するな!Z!…アムロ大尉!》
カミーユはα・アジールに取り付き、νガンダムのコックピットから飛び出すと、α・アジールのコックピットを非常用レバーを使って外から開く。
そして、コックピット内にいるアムロの腕を掴んで、νガンダム中へと引き入れた。
あまりの激痛に、抵抗一つ出来ないアムロは、カミーユにされるがままνガンダムのコックピットに入れられると、床に蹲って痛みに耐える。
「あ…うううう!」
「アムロさん…」

《アムロ大尉をどうする気だ!》
叫ぶギュネイに、カミーユがνガンダムのコックピットを閉じながら答える。
《あるべき場所に連れて帰るだけさ!》
《なんだと!アムロ大尉の居場所は大佐の横だ!》
《本当にそうか?アムロさんも…クワトロ大尉だって本当は…》
そう言うと、カミーユはそこから離脱し、ラー・カイラムへと向かった。
ジュドーのZに行く手を阻まれながらも、ギュネイがアムロのへと手を伸ばす。
《アムロ大尉!!》


◇◇◇


ラー・カイラムのモビルスーツデッキに、νガンダムが着艦する。
カミーユの連絡を受けたハサン医師がドックで待ち構え、カミーユに支えられながらコックピットから出てくるアムロを受け止める。
「アムロ大尉!私の声が聞こえますか?」
ハサンは、カミーユによってヘルメットを脱がされたアムロの顔を覗き込んで呼び掛けるが、一気に流れ込んだ記憶に混乱し、激痛に顔を顰めるアムロは返事もままならない。
「アムロさん…!」
「とにかく医務室へ!」
そうして医務室へと運ばれたアムロは、ベッドに寝かされ鎮痛剤を打たれる。
ようやく落ち着いてきたが、はっはっと浅い息を吐きながら、虚ろな瞳で天井を見つめているだけだ。
そこへ、報告を受けたブライトが慌てて駆け込んで来た。
「カミーユ!アムロは?」
「艦長…」
「どう言う事だ?何があった?」
「分かりません。突然、何か嫌な思惟を感じたと思ったら、アムロさんの絶叫が聞こえて…、α・アジールの動きが止まったんです」
苦痛に顔を歪めるアムロを見つめ、ブライトが眉を顰める。
「まさか…記憶が…」
ノーマルスーツの胸元を握り、アムロが呻き声をあげる。
「う…うう…止め…な…と…くっ」
呻き声の合間に、アムロが何かを呟く。
「アムロ!?」
ブライトの声に、アムロが苦しげに息を吐きながら、目を開いた。
「ブラ…ト…」
「アムロ!」
ブライトはアムロの瞳を覗き込み、その手を握る。
「アク…シズ…を…シャアを…止めないと…」
ブライトの手を強く握り返し、力を振り絞って身体を起こす。
「おい!大丈夫か?」
「ブライト…!アクシズを…爆破しろ!俺が…爆破ポイントを…指示する…」
「アムロ!?やっぱりお前、記憶が!?」
アムロはコクリと頷くと、自分を艦橋まで連れて行くように頼む。
ブライトはアムロを艦橋まで連れて行くと、モニターにアクシズの内部構造を表示させた。
「このハッチから侵入して…ここと…ここ…それから…もう一箇所…ここに爆薬をセットすれば…アクシズは半分に割れる…引力に引かれる前に爆破しないと…」
そこまで指示して、アムロの身体がズルリと滑り落ちる。
「あっ…ぐ…うううう」
「アムロさん!」
頭を抱えるアムロの身体をカミーユが支える。
「大丈夫…だ…カミーユ…」
「一体何があったんですか!?」
カミーユに問いに、アムロが自嘲気味に告げる。
「ネオ・ジオンには…俺を恨んでる人間が…まだまだいるって…事だよ…」
「アムロさん…」
アムロの言葉に、カミーユは自分が懸念していた事が現実になってしまった事を悟り、唇を噛み締める。
「大丈夫だ…まだ正気を保っていられる…」
アムロは呼吸を整えてどうにか立ち上がる。
そこに、ハロを抱えたハサウェイが艦橋に上がって来た。
「アムロ ゲンキカ?アムロ!」
ハサウェイの腕から跳ね上がったハロが、床を跳ねながらアムロの腕へと収まる。
「ハロ…」
アムロはハロを受け止めると、中からカードを一枚取り出した。
「アムロ ノウハ ミダレテル コキュウ アライ ダイジィウブ カ?」
「大丈夫だよ…」
アムロは優しくハロを撫でると、ブライトへと視線を向け、取り出したカードを差し出す。
「アムロ?」
「ここに…別名義の…俺の…資産がある…連邦にもバレてない筈だ…これを…フラウに…」
「フラウに?」
「ああ…ハヤト…守れなかったから…。俺の…全財産を…フラウに…。色んな…特許で得たものだから…そこそこあると思う…」
「おい、全財産って。お前、まさか!」
その、死を覚悟した顔に、ブライトの声が詰まる。
「ブライトにしか頼めないんだ…」
カードをブライトに握らせると、そのままブライトに抱きつく。
「ブライト、会えて良かった…」
そんなアムロの背中を、ブライトもギュッと抱き締め返した。
「…馬鹿野郎!」
「ブライト…最後に頼みがあるんだけど…νガンダムを…貸してくれないか?あの人と…決着をつけたいんだ…」
アムロの言葉に、ブライトはνガンダムのパイロットであるカミーユに視線を向ける。
すると、それに応えるように、カミーユが頷く。
「…分かった…」
「ありがとう…。多分、シャアが出てくる…俺が引き留めるから…その間にブライト達はアクシズを頼む」
顔を上げて微笑むアムロの肩を、ブライトが掴む。
「ああ。但し!νガンダムは貸すだけだ!必ず返しに来い!」
思わぬブライトの言葉に、アムロは一瞬目を見開くと、小さく笑う。
「…了解…艦長!」
約束なんてない出来ないと、お互い分かっていながらも、言わずにはいられなかった。
「それからノーマルスーツも着替えろ、シートの規格がネオ・ジオンの物とは異なる筈だ」
『そんなもの脱げ』と言わんばかりに、アムロが身に付ける、ネオ・ジオンの黒いノーマルスーツを指差して、ブライトが忌々しげに告げる。
「え?俺のスーツ…あるの?」
「νガンダムに合わせて用意してありますよ」
アムロの問いに、カミーユが笑顔で答える。
「…そうか…ありがとう…」
アムロはもう一度ブライトを見上げると、視線を合わせ、互いにコクリと頷く。
「それじゃ…行くな…」
「…ああ」
そして、アムロはブライトに背を向け、カミーユと共に艦橋を後にした。
その、死を覚悟した後ろ姿を、ブライトは遣る瀬無い思いで見つめる。
そして、アムロから手渡されたカードを握りしめ唇を噛み締めた。
「…馬鹿野郎…」


フラつきながらも、カミーユに支えられながらノーマルスーツを着替えていると、補給で帰艦したジュドー・アーシタがロッカールームに現れた。
白い連邦軍のノーマルスーツに身を包んだアムロの姿に、ジュドーが笑みを浮かべる。
「やっぱり、アムロさんには白いノーマルスーツが似合うね」
「ジュドー少尉…、そうかい?」
「うん」
襟元までファスナーを上げて、小さく息を吐くと、カミーユからヘルメットを受け取る。
そのアムロの額には脂汗が浮かんでいた。
作品名:鳥籠の番(つがい) 9 作家名:koyuho