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鳥籠の番(つがい) 10【完結】

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「同じ事だ、このまま放っておけば、地球は汚染され、死の星となる」
「だからと言ってアクシズを落として、氷の星にして良い訳がない!」
「何を言う!地球の汚染を食い止める為、地球は暫し眠りに就くだけだ。そして、人類全てが宇宙に上がる時が来るのだよ!」
「そんな極論!」
「では、貴様は地球が滅びゆくのを指を咥えて見ているのか?そして、地球連邦政府からの束縛を受けたまま、スペースノイドは虐げられ続けろと?」
「シャア!どうしてそんなに急ぐんだ?地球潰しなんて業を、貴方が背負う必要があるのか?」
アムロの叫びに、シャアが自嘲気味の笑う。
「アムロ、貴様が言ったのだろう?私は人身御供だと。その言葉の通り、私は人類全ての業を背負い、父の意志であるスペースノイドの独立を成し遂げる!」
『人身御供』、ダカールでの演説後、自由を失った事を嘆いていたシャアに、アムロが投げつけた言葉。
しかし、アムロは全てをシャア一人に背負わせるつもりなど無かった。
自分も共に背負おうと思っていたからこその言葉だ。
「シャア!違う!俺の言葉が足りなかった…」
サザビーから一旦離れ、サーベルを収める。
そして、自分の言葉が、シャアを追い詰めてしまっていたと気付き、アムロは自分の想いを告げる。
「貴方一人に背負わせるつもりなど無かった!俺も一緒に支えるつもりだった!」
「しかし、君は宇宙に上がらなかった…」
「それは…!」
「それは?」
「…あの時は…まだ上がれなかった…人体実験の後遺症で、…身体が宇宙に耐えられなかった!」
震えるアムロの言葉に、シャアは一瞬目を見開き、言葉に詰まるが、唇を引き結び、小さく笑う。
「…今更だ!」
「シャア!お願いだ!考え直してくれ!貴方ならもっと他の方法があるはずだ!」
「それこそ今更だ!それよりもアムロ、決着を着けよう!どうしてもアクシズを止めたければ私を倒してみろ!」
「シャア‼︎」
サザビーが胴体部分からメガ粒子砲を放ち、νガンダムを攻撃する。
それをギリギリで躱すと、再びサーベルを構えてサザビーに斬りかかる。
「それが…貴方の望む事か?」
「そうだ!貴様とパイロットとして戦い、決着を着ける!それが私の願いだ!」
「…分かった…シャア」
サーベル同士がビリビリと震えながら重なり合うのを見ながら、アムロが唇を噛み締める。
「決着を着けよう!俺は貴方を倒す!」
「貴様を倒すのは私だ!」
サザビーのサーベルがνガンダムの腰部分を切り裂く。
「クソ!まだだ!このくらい!」
νガンダムはサザビーの胴体を蹴って離れると、アクシズの表面を滑るようにバーニアを吹かして後ろに下がり、サーベルを握り直して再び斬りかかる。
「うおぉ!」
それをサザビーのサーベルが受け止める。
互いに一歩も引かぬ攻防。
相手だけを見つめ、自身の全ての力を引き出して戦う。
その事に、二人は戦いながらも、心が高揚しているのを感じる。
ライバルと認めた相手と、全力で戦う。
それに喜びを感じていた。
「最高だ、アムロ!これこそが私が望んだ事だ!」
「はっ!今度こそ俺が勝って決着をつけてやる!」
「それはこちらのセリフだ!」
かつて、ア・バオア・クーで戦った時は、互いの機体が大破し、結局、モビルスーツでの戦いは決着がつかなかった。
その後、生身で戦った時も、互いの剣が双方に突き刺さり、相打ちで終わった。

サザビーがνガンダムのサーベルを弾き飛ばし、サザビーのサーベルもエネルギー切れとなった。互いに武器が無くなっても、格闘戦で戦う。
サザビーが蹴りを繰り出し、それがνガンダムの脇腹にヒットする。
激しい衝撃を受けながらも、今度はνガンダムがサザビーの頭部に拳を打ち付ける。
そこに、ナナイの叫ぶ声がシャアの脳裏に響く。
《大佐!撤退を!私達を見捨てるのですか⁉︎》
「ナナイ!戻れと言うのか⁉︎男同士の戦いに口を挟むな!」
シャアの気がナナイの声に逸れた一瞬、アムロがその隙をついて一気に殴り掛かる。
その衝撃でサザビーはアクシズの表面に叩き付けられ、緊急脱出装置が働き、サザビーの脱出ポッドが放出されてしまう。
「クソっ」
「逃すかよ!」
ガンダムの指先から放出されたトリモチで脱出ポッドを捕まえ、ポッドを掴む。
そして次の瞬間、アクシズに仕掛けた爆弾が轟音を上げながら爆発した。
「何⁉︎さっきのラー・カイラム…そうか、ブライトめ、中からアクシズを爆破したな!」
「ああ!これで貴方の企みも終わりだ!」
「アムロ!貴様か!ブライトにアクシズの情報を流したな!」
「ああ、俺は作戦の全てを貴様の横で聞いていたからな!アクシズの弱点も把握している!」
「クソっ!」
アクシズが爆発を繰り返し、半分に割れていく。
その爆風と、激しく飛び交う欠片を受けてアムロが苦痛の表情を浮かべていると、脱出ポッドから、シャアの笑う声が聞こえてくる。
「何を笑っている⁉︎」
「アムロ、私の勝ちだ!今、計算してみたが、アクシズの後方部分はこのまま引力に引かれて落ちる」
「何⁉︎」


その頃、ラー・カイラムでも、その事実に艦橋が騒めいていた。
「アクシズの前方部分は地球から離れていきますが、後方部分は引力に引かれて落ちます!」
「しかし!軽くなって落ちないはずだ!」
ブライトの叫びに、副艦長のメランが首を横に振る。
「爆発の勢いが強すぎたんです!」
「そんな!俺たちはシャアを手伝っちまったって言うのか」


「どういう事だ!シャア!」
「貴様らの頑張りすぎだ!爆破の勢いで後方部分はこのまま地球に落ちる」
「ふざけるな!石ころ一つ、νガンダムで押し返してやる!」
「馬鹿な真似はよせ!もう落下は始まっているんだぞ!」
「そんなの、やってみなくちゃ分からない!」
「正気か⁉︎」
「貴様ほど急ぎ過ぎもしなければ、人類に絶望してもいない!」
νガンダムのスラスターを吹かし、アクシズの先端へ取り付くと、最大出力でバーニアを吹かす。
「馬鹿な真似はやめろ!アムロ!」
「うるさい!絶対に止めてみせる!」
「アムロ!」
次第にアクシズの表面は熱を帯び、引力に引かれ始める。
当然、νガンダムの周りも熱を帯び、モニターから見える景色が赤く染まる。
「くっ!」
その時、地球から何十機もの連邦モビルスーツが現れ、アムロと同じようにアクシズに取り付いて押し返し始める。
「何だ?何だって言うんだ?」
《ロンド・ベルにだけ、良い思いはさせませんよ!》
「しかし、その機体じゃ無理だ!」
気付けば、ネオ・ジオンのギラ・ドーガまでもが、アクシズを止めようと取り付いていた。
「何だ?ギラ・ドーガまで⁉︎」
《地球がダメになるか、ならないかなんだ!やってみる価値はありますよ!》
「無理だよ!爆装してる機体だってある!摩擦熱とオーバーロードで自爆するだけだ!」
それでも、アクシズを押し返すモビルスーツが次々と取り付いていく。
「みんなやめろ!こんな事に付き合う必要はない!俺とシャアだけで十分だ!」
モニターが全て死に絶え、状況の分からないシャアに、アムロの叫び声が聞こえる。
「何だ?何が起こっている」
そして、自身を包み込む翡翠色の光に気づく。