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BYAKUYA-the Whithered Lilac-2

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Chapter5 鬼女、ツクヨミ


 窓辺から射し込む朝日に目を覚ますと、見慣れぬ天井が視界を支配した。
 ツクヨミは、ゆっくりと体を起こす。まだ眠気が若干あり、意識が定まらない。
 日の光を受ける内に、だんだん目が覚めていく。そしてツクヨミは、ここがどこなのか思い出す。
――そうだったわね……ここは、ビャクヤの家で、彼のお姉さんの部屋だったわ――
 昨晩に、ビャクヤと契りを交わした。
 外敵から身を守るため、ツクヨミはビャクヤと姉弟を装う事になった。
 それは、どのようなことがあろうと、ビャクヤはツクヨミに付き従い、ビャクヤにはまず有り得ないことであろうが、ツクヨミに害をなさず、ツクヨミの方はビャクヤに対して、どのような命令でもできる。そんな契約だった。
 ツクヨミが危険な目に遭わないよう、ビャクヤは昨晩、彼女を自宅へと連れ込み、姉が生前使っていた部屋に案内した。
 最初に会ったときの行動から、ビャクヤには、姉に対してよからぬ感情を抱いていたのではないかとツクヨミは思っていた。
 家に連れ込み、寝込みを襲うような真似をするのではないかと、ツクヨミは身構えていた。
 しかし、ビャクヤはツクヨミに対して、何もしなかった。
 姉の部屋を使うように言うと、ビャクヤは疲れていたのか、すぐに自室へと行き、眠った。
 年頃の男が、真夜中に女を自宅へ連れ込んでもなにもしないとは、不思議なものだった。もちろん、ツクヨミはそうした恥辱を受けることを望んでいた訳ではないが。
――それにしても、ずいぶんと綺麗な部屋ね……――
 部屋の主であったビャクヤの姉が亡くなってから、それほど時が過ぎていないといっても、部屋の様子はまるで、昨日まで誰かが使っていたかのように整理されている。
 たった今まで寝ていたベッドも、シーツは新しく、枕からも芳香がしていた。
 ツクヨミはふと、カーペットの敷かれた丸いテーブルの上に、フォトスタンドが置いてあるのに気が付いた。
――昨日は暗かったし、すぐに眠ったから、気が付かなかったわね――
 ツクヨミは、ベッドから降りて、テーブルの上のフォトスタンドを手に取った。
 そこに写っていたのは、男女のツーショットである。写真の右下にある日付を見る限り、写真は約一年前に撮られたもののようだった。
 片方は、ビャクヤである。昨晩会ったばかりだが、まるで別人と思ってしまうほど、キラキラした目をしている。あたかも、終わらない悪夢に苦しめられているような、疲れきって、生きる力が希薄な目をしている今のビャクヤとは大違いである。
 そして、その隣に頬笑む人物。彼女こそがビャクヤの姉さんであろうことはすぐに分かった。
 ビャクヤの姉を見て、ツクヨミは少し驚いてしまった。細かな違いこそ確かにあるが、フォトスタンドのガラスに僅かに反射して映る自分の顔と良く似ていた。
 腰元まである長い髪を持ち、前髪はツクヨミと同じく左に流している。
 顔の作りもとても似ているが、一つ差異のある所が目元である。ツクヨミに比べると、彼女の方がパッチリとして、優しそうな印象を受ける。誰にでも好かれ、包容力がありそうな感じがした。
――これだけ似ていれば、彼が肉親に見間違うのも仕方ないというもの。世の中には姿形の似ている人間は三人いるというけれど、これを見たら信じるしかないわね――
 ツクヨミは、フォトスタンドをもとの場所に置いた。
 それにしても、体がベトベトする。
 昨晩は夜遅く、すっかり疲れきった後ですぐに眠ってしまったため、ツクヨミは、ビャクヤに襲われかけた時の自分の汗の臭いを感じた。
「シャワーでも浴びようかしら……」
 ツクヨミは、クローゼットを開けてみた。中身はやはりというべきか、
整理整頓がなされていた。
 ビャクヤの姉は、清楚な服装が好きだったのか、ワンピースがいくつか掛けられていた。
 ジーンズやジャージといったラフな服はなく、部屋着もネグリジェという、良家のお嬢様を思わせる服の種類であった。
 下着も派手なものはなく、控えめな色合いのものがほとんどである。しかし皮肉なことに、色は控えめでも胸の大きさは、昨夜ビャクヤが言っていたように、数センチほど大きい気がした。
「はぁ……」
 ビャクヤの言う通りだったのには若干腹が立ったが、既に亡くなっている人物に対して妬むのは、流石に大人げないと感じ、ツクヨミはため息で気分をまぎらわした。
「あなたの服、少し借りるわね。お姉さん」
 今は亡き、ビャクヤの本当の姉の写真に一言断りを入れ、ツクヨミは、クローゼットから下着と水色のワンピースを取った。
 借宿として、家の物は好きに使ってくれて構わない、とビャクヤから言われているが、ツクヨミは、一応借宿の主にも断りを入れることにした。
「ビャクヤ、ちょっとシャワーを借り……」
 軽くノックした後にドアを開けた。
 ビャクヤは、学ランを床に放り、ワイシャツのボタン全て開けて眠っていた。
 まだ暑い日が続く上、ビャクヤの部屋は西向きに面しているため、夕日によってかなり室温が上がるようになっていた。
 それ故ビャクヤは、窓は全て開け放ち、半裸で、布団もかけずに寝ていたのだった。
 ビャクヤの半裸の上半身は、顔と同じく透けるような白さで、あばらが浮いている、いかにも不健康な体つきである。
――全く、よく風邪を引かないものね。まあいいわ。起こしても別に用はないし、このままにしておきましょ……――
 ツクヨミは、ビャクヤの部屋を後にする。そして、階段を降りて洗面所に向かった。
 ここもまた、中学生の男の独りきりの家にしては、妙だと思う所だった。
 洗面台と鏡は、光沢を放つほどに清潔に保たれ、洗濯物もまるで溜まっていない。
 思い返せば、ここまで来る途中の階段や廊下も、やはり塵一つ落ちていなかった。
 炊事はどうか分からないが、掃除と洗濯はしっかり行き届いている。今時専業主婦でも、ここまで家事全般をこなさないと思われる。
 使用人を雇うような事を、ビャクヤがわざわざするようには思えない。親戚がビャクヤの面倒を見る事はあったのかもしれないが、この綺麗さは、ほぼ毎日掃除しないとここまでにはならないだろう。
 となれば、考えられる可能性はもう、一つしかない。あの寝相から怠惰の塊としか思えない男、ビャクヤがこの家を綺麗にしているのだ。
――あの子が掃除を? とても想像できないわね……――
 ツクヨミは、ビャクヤが掃除や洗濯をしている姿が全く頭に浮かばなかった。
 潔癖の性でもあるのだろうか。そう考えてみるものの、昨夜の行動を鑑みると、服の汚れ等を気にするところがあったが、最早彼自身の一部と化している、不気味な鉤爪が血濡れても気にはしていなかった。
――あんなに奇妙な性格でなければ、いい家庭を築くことができるかも知れないわね――
 ビャクヤの家事の能力の高さから、結婚するとすれば、嫁を貰うのではなく、むしろ嫁に行く側ではないかとツクヨミは思った。
 我ながらバカな事を考える。ビャクヤは自身にとっては、身を守らせる剣であり盾である。それ以上でもそれ以下でもない。
 ツクヨミは、ため息をつきながら服を脱いだ。下着姿となった自身の姿を、洗面台の鏡が写している。
作品名:BYAKUYA-the Whithered Lilac-2 作家名:綾田宗