花と犬
まわりでは塾生たちが大喜びで川へと向かおうとしている。
「桂君、どうしましたか」
松陽が声をかけてきた。身を堅くして石のように動かない桂のことが気になったのだろう。
問いかけられて、しかし、桂は答えられない。
どうすればいいのか。
ますます桂は困った。
ふいに。
「俺ァ、行かねー」
銀時が宣言した。
そして、立ちあがる。
「水泳なんてメンドくせェことしたくねーよ」
「銀時、水泳は面倒くさくなんかありませんよ。それに、修練しておけば、いつか役にたつ日が来るかも知れません」
松陽は穏やかに銀時をさとした。
だが、銀時はその言葉が聞こえていないような顔をして、桂のほうに近づいてくる。
横を通りすぎようとしたとき。
「行くぞ」
そう告げ、銀時は桂の手のひらをつかんだ。
桂は驚く。
戸惑っていると、強い力で引っ張られた。
引っ張られて、歩きだす。
「オイ、銀時、桂を巻きこまなくてもいいだろ!」
塾生のひとりが銀時を非難した。
「うっせーよ、黙っとけや」
銀時は不機嫌そのものの声で吐き捨てた。
とうぜん、そう言われた塾生はむっとした表情になった。
険悪な空気があたりに流れる。
しかし。
「まあまあ落ち着いてください」
のんびりと松陽が割って入った。
「水泳の修練をするかどうかは、それぞれの自由ということでいいでしょう。なにかを学ぶときには、学びたいという意欲がなければならないですからね」
「でも、先生」
「それと、銀時はね、桂君をつれていきたいんですよ。その気持ちを察して、大目に見てやってください」
松陽は塾生に微笑みかけた。
その一方で、銀時の顔がたちまち朱くなった。
「なんだ、その気持ちを察してって……! なんだ、その気持ちって、意味わかんねーよ! つーか、そんなんじゃねーからな!」
明らかに動揺している様子で、松陽に向かって吼えた。
耳まで朱い。
その横顔を桂はぼうぜんと眺める。