花と犬
そして、我に返った。
自分がついさっき桂にしたことを思い出す。
なにも言わずに、いきなり、その唇を奪った。さらにそのあと、嫌だと拒絶されたのにもかかわらず、また、その唇を奪った。
とんでもないことをしたと、たった今、認識した。
しかし、どうすればいいのかわからない。
「あの……さ」
とりあえず、口を開く。
気まずい。
喉がカラカラに渇いている。
それでも無理矢理に声を出す。
「その……」
だが、なにも頭に思い浮かばなくて、それ以上、言葉が続かなくて、口を閉じる。
なにか言わなければならない、なにかしなければいけないと内心ひどくあせりつつも、どんな行動にも移せない。どうしたら泣きやんでくれるだろうかと、ただ、おろおろするだけだ。
ふと、桂が顔を上げた。
潤んだ瞳で銀時をキッとにらみつける。
「俺が女だからこんなことをするのか……!?」
「違う!」
とっさに言い返した。
なにか言わなければと思いながら言葉が出てこなかったのが嘘のようだ。
気まずさは吹き飛んでいた。
言い返さずにはいられなかった。
違うから、否定せずにはいられなかった。
「じゃあ、なんでだ!?」
桂が問い詰めてくる。
だから。
「おまえのことが好きだからだ!」
そう銀時は怒鳴った。
桂がびっくりしたように眼を見張る。
その顔からは怒りが消し飛んでいた。
しかし、すぐに眉根を寄せ、険しい顔つきにもどる。
「それは、結局、やっぱり、俺が女だからってことじゃないのか……!?」
銀時は口を開き、言い返そうとした。けれど、一言も発しないまま口を閉じる。
もしも桂が女でなければ、あるいは、女だと知らなければ、自分は桂のことを好きになっただろうか。
わからない。
わからなくて、困る。
銀時は黙りこむ。
すると、桂は勢いよく立ちあがった。
怒りに満ちた顔を銀時に向ける。
そして。
「おまえとは、絶交、だ!」
そう宣言した。