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忘れないでいて【If】

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「僕もアムロさんと離れるのは寂しいです。きっとクワトロ大尉も」
その名に、アムロがピクリと反応する。
そう、何よりもクワトロと…シャアと離れたくなかった。
しかし、クワトロは宇宙に帰ってしまう。
彼の立場なら当然だ。
沈み込んでしまったアムロの肩を、カミーユが優しく撫でる。
「クワトロ大尉と離れたくないですか?」
その言葉に、アムロはガバっと顔を上げる。
そして、そんな反応をしてしまった自分が恥ずかしくて、カァっと顔に熱が集まる。
「あ…」
「ふふ、アムロさんって分かりやすいです。ニュータイプじゃなくても分かりますよ」
「別にニュータイプだって超能力者じゃない。人の気持ちなんて分からない」
「そうですね」
プイッと顔を背けるアムロの耳が、赤く染まっているのを見て、可愛いなと思ってしまう。
「クワトロ大尉とは…シャア・アズナブルとは昔ライバルだったんですよね?」
「…え?…うん…」
「それでも、惹かれるものがあったんですか?」
「…どうなんだろう。初めはただ…怖かった」
「確かに、敵としてあの人と戦場で対峙したら流石に怖いな」
「うん、何度も死にそうになった。でも、何度も戦う内に、負けたくないって思うようになって…、気付いたら、戦場であの人の赤い機体を探すようになってた」
アムロがクスリと笑う。
「でも、偶然サイド6で会った時、向こうは僕がガンダムのパイロットだって気付いてなかったのもあったけど、エレカを泥濘みにはめて困ってた僕を助けてくれたんだ。あの時は…恐怖なんて感じなかった。本質的に優しい人だっていうのは、何処かで分かっていたんだと思う」
あの時、シャアと一緒に居るララァに驚いた。でも、それが自然な事のようにも思えた。
ララァも僕も、何故かあの人に引き寄せられてしまうんだ。
ララァは戦場で僕と共感した時、僕が来るのが遅すぎたと言った。だから自分はシャアを愛してしまったと。
でも、それは違う。
きっと、先に僕に会っていたとしても、ララァはシャアを愛しただろう。
僕と同じ様に…。
そこまで考えて、自分の思考に驚く。
『僕と同じ様に?僕は、シャアを愛してるのか?』
確かに、百式の中でキスされた時、嫌悪感は全く感じなかった。むしろ気持ちよくて嬉しかった。
それに、シャアの胸は暖かくて、安心できて、思い切り泣く事が出来た。
そう思った時、じわじわと胸が熱くなり、心臓の鼓動が高まる。
気付けば、アムロの顔は真っ赤に染まっていた。
「アムロさん?」
「え?あ…」
「顔、赤いですよ?もしかして熱があります?」
カミーユが心配気に覗き込み、額に手を当てて熱を測る。
「だ、大丈夫!これは違うから」
「違う?」
「だから、えっと…」
確かにシャアの事は嫌いではなかったが、こんな風に思っているとは思わなかった。
しかし、そう自覚した途端、止め処なくシャアへの想いが溢れ出す。
そんなアムロから伝わる思惟に、カミーユは「え?」っと声を上げる。
「アムロさん…クワトロ大尉の事…」
好き嫌い以上の想いを、クワトロに抱いている事に驚く。
その時、MK-Ⅱのコックピットの入り口から、クワトロが顔を出す。
「アムロ、カミーユ」
「「わぁ!」」
「どうした?二人とも、大きな声を出して」
「突然、大尉が声を掛けるからでしょう!」
思わずカミーユが叫ぶ。
「さっきから何度も下から呼んでいたが、君たちが気付かなかったのだろう?」
呆れた様に言うクワトロに、言い返す事も出来ず、ただ、焦る。
「それで、どうしたのだ?ん?アムロ、顔が赤いぞ。熱があるのか?」
グローブを外して、カミーユと同じ様に額に手を触れようとするクワトロの手を、思わず振り払ってしまう。
「だ、大丈夫です!」
「そうか?しかし…」
「す、すみません!本当に大丈夫なので!」
クワトロは納得いかないといった表情をしていたが、思わぬ抵抗に遭い、渋々と手を引く。
「まぁいい。整備は終わりそうか?明日のシャトル発射についてブリーフィングをする。降りて来い」
「「はい!」」
カミーユと二人、ハモる様に揃って返事をする。
「ふふ、気の合う事だ」
そう言うと、クワトロはコックピットを出て行った。
その姿が見えなくなると、アムロは思わず大きく息を吐いて座り込む。
「…びっくりした」
「本当に…」
同じ様にコックピットの出口を見つめ、カミーユが呟く。
「それで…すみません。なんだかアムロさんの想いが伝わって来てしまったんですけど…」
全てを悟られ、アムロは諦めた様に眉を下げてカミーユを見つめる。
「カミーユ…どうしよう…」
自覚してしまった自分の想いに、どうすればいいのか分からず途方にくれる。
そんなアムロを、カミーユが優しく見つめる。
「その想いを…素直に、大尉に伝えてみればいいんじゃないですか?」
「だけど…シャ…クワトロ大尉は明日、宇宙へ上っちゃうだろ?」
「アムロさんも、一緒に上がればいいんじゃないですか?」
アムロが宇宙に怯えている事は分かっているが、二人が離れてしまうのは良くないとカミーユは思う。
「でも…」
「大尉と一緒なら、怖くないかもしれないですよ?」
カミーユの言葉に、アムロの瞳が揺れる。
「そう…かな…」
「試す価値はありますよ」
「うん…」

結局、シャトルの発射時にティターンズの妨害に遭い、アポリー達を乗せたシャトルは無事に宇宙へ上がったが、護衛に回ったクワトロとカミーユは地球に残る事になった。
アムロもまた、アポリーが置いていったリックディアスで、アウドムラのハッチの中から応戦した。

「結局、宇宙へは帰れなかったね」
アムロはフリールームでカミーユへとドリンクを手渡す。
「仕方ありません。アポリー中尉達だけでも上がれて良かったですよ」
「そうだな。まぁ、ティターンズの妨害は想定内だ。次の機会を待とう」
クワトロもまた、コーヒーを飲みながら頷く。
「そうですね。ハヤト艦長がこの後ヒッコリーに向かうと言っていました」
「ああ、カラバの基地があるらしい」
アムロはドリンクを飲みながら、悪いとは思いつつも、クワトロと離れずに済んだ事を密かに喜ぶ。
「それよりもアムロ、君の援護がなければ危なかった。ありがとう」
「そんな…僕はハッチの中から出来る事をしただけで…、僕がちゃんと敵を退けられたら、クワトロ大尉とカミーユも宇宙に上がれたかもしれない」
激しい動きは出来ないが、ハッチの中からライフルで敵を狙うくらいなら出来た。
「そんな事はない。正確な射撃だった。それに、君とはまだ離れたくなかったから丁度いい」
綺麗な笑みを浮かべてアムロを見つめるクワトロに、アムロは息を止め、カミーユはドリンクを落としかける。
「それなら二人でちゃんと話したらどうですか?ヒッコリーまではまだあるし。僕は部屋で休ませて貰いますね」
それだけ言うと、カミーユはさっさと空のドリンクをダストシュートに投げ入れ、背を向けてしまった。
「え?待って、カミーユ…!」
いきなり二人きりになるのは、流石に心の準備が出来ていないと、カミーユを呼び止めるが、カミーユはニッコリと微笑み、小さく「頑張って」と言って去ってしまった。

二人きりとなり、アムロが戸惑いながらもクワトロを見上げる。
作品名:忘れないでいて【If】 作家名:koyuho