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金陵奇譚 ─双の盃─

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「、、、來陽?。」
「來陽もお前同様、苦しかったのだ。事が終わった今、ほっとしている。」
二人、じっと酒の盆が置かれた柱を見ていた。柱に纏められている幕が、少し揺れた。
「ほら、な。來陽だ。」
得意げに梅長蘇は皇帝を見る。
「??、、風じゃないのか??。」
「風なものか!、景琰も見ただろう?。」
「、、、、。」
その後、幕は動かなかった。
皇帝が梅長蘇に向ける視線は、完全に訝(いぶか)っている。
「、、、、、。」
「なんだ、その顔。來陽なのだ、嘘ではないぞ。」
「、、、ああ、、、分かった分かった、、嘘ではないない嘘ではない。」
「あっ、、來陽、、行ってしまうぞ來陽が。」
「分かった分かった、小殊、もういいから。」
「なんて言い草だ、ホントにいるんだぞ。」
「小殊の話は、何処までが本当か、分からぬ時があるからな。若い頃は、どれだけ騙されたか、、。」
「私がいつ騙したと?、、。
ああ、、來陽、可哀想に、、、林殊に信用が無いばかりに、、。來陽が悪いのでは無い、、來陽も、皇太子も庭生も、皆良い子なのだ。」
「何を自分だけが、悲劇の主役になっている。
私の子は、皆、良い子だ。今更、何を分かり切った事を、、。
來陽や皇太子や庭生は勿論、他の皇子も公主も、皆素直に育ったのだ。」
「何だ、景琰、しっかり分かっているではないか。」
「当然だ、私の子なのだぞ。自慢の子供達だ。」
━━そうだ、大切な子供達だ。
皆、優しい子ばかりだ。
、、、來陽は、、、來陽は、隙を見せてしまったのかも知れぬ。
その隙に、入り込んだ者が、來陽の心を揺さぶったのだろう。
道を選んだのも、歩み続けたのも、來陽本人なのだ。
一つ、踏み間違えば、元には戻れぬ事もある。
來陽は気位が高く、最も王族らしい風格があった。
それ故に、後戻り出来なかったのかも知れぬ。
お前の逆心に賛同した者達が、離れてゆき、信用を失い、或いは、卑怯者呼ばわりを、されるかも知れぬ。耐えられなかったのだろう。
、、、來陽を、梁の法に照らして、処罰した。
本人も分かっていた、、、。王族らしく、言い訳も命乞いもせず、処されたのだ。
遺された王妃と、まだ生まれぬ子に罪は無い。この者達を罪には問わぬ。來陽王の名は残し、子には王爵を継がせよう。
お前の心に気付いてやれなかった、せめてもの私の心だ。━━


「もう、外が白んできた、、。」
「ああ、夜を明かしてしまったな、、、。」
━━どうせ、今宵は眠れなかった。
小殊は付き合ってくれたのだろう、、。
いや、、、私が心配で、現れたのかも知れぬな。━━

もはや梅長蘇はこの世には居ない。
あの梅嶺で果てたのだ。
体は梅嶺の地で、赤焔軍の魂と共に眠っている。

だが時折、こうして皇帝の前に現れる。
数年に一度、慶事や悲しい事があると、その心を分かつ様に現れるのだ。

梅嶺から辿り着いた梅長蘇の魂なのか、それとも、皇帝が心に想い、自ら映し出している梅長蘇なのか、果たしてどちらなのか、皇帝にも分からない。
たとえ梅長蘇の魂ではなくとも、まるで、梅長蘇、そのものなのだ。
皇帝が生きていた頃の魂を写し取り、梅長蘇の姿のまま、皇帝の心に住み着いてしまったかの様だった。

━━もし、小殊が生きていたなら、今宵のようにずっと付き合ってくれていただろうか。━━

「冷たい朝の気に、あたりに行くか?。皇宮からの朝陽も見事だぞ。」
「、、ん、、清々しいだろうな。
、、、陛下、臣下蘇哲がお供しましょう。」
梅長蘇は、恭しく皇帝に拱手した。
「馬鹿。」


養居殿を出る為に、先に皇帝が歩き出す。
そして梅長蘇が続いた。

皇帝は、盃の盆のある柱の側は、幾分、歩みの速さを緩める。
何かを確認しているかの如き、、。
だが、梅長蘇には悟られまいとしている様だった。

梅長蘇は柱の側に、微笑みかける。


そして颯爽と並び外に向かった。
二人の、かつての青年の頃を思わせる。





二人が去った後に、太監が一人、養居殿の中に、静かに入ってくる。
酒器を下げる為にやって来たのだ。

時折、寝酒を用意する事はある。

極、希に、養居殿には皇帝一人きりだというのに、皇帝に指示されて、盃を二つ、用意する事がある。
一つだけ使われていたり、二つとも使われていたり。
そんな時は必ず、側に仕える太監は、養居殿の扉の外へ、下げられるのだ。
扉は閉じられている訳ではなく、皇帝の様子は窺(うかが)えるのだが。
誰かが来る訳でもなく、皇帝が誰かを待っている風でもない。

二つ使われる時、盃には、酒が注がれる。
一つの盃は皇帝が。
もう一つの盃にも酒は注がれる。

初めのうちは、恐らく、、酒の好きな友を思い、皇帝がその者を偲んで、酒を召して居るのだろうと思っていた。
明け方まで、皇帝はゆっくりと、酒を召している。
途中、そのまま眠ってしまうのではないか、、と。
眠ったのなら、皇帝を、夜具の整った寝台へと、導かねばならない。
だが、そんな夜、皇帝は決して眠る事は無く、一瞬をも惜しむように刻を過ごしてゆく。

太監が、盃を下げにゆくと、どちらの盃も、必ず空になっているのである。
一つは皇帝が。
だが、もう一つは、誰が手を付けるでもなく、静かに置かれていたにも関わらず、いつも空になっている。

一体誰が皇帝の元へ来るのか、最も側に仕えるこの太監ですら、来訪者が来るとは知らされていない。
つい興味も湧き、いつも、こっそり伺い見ているのだが、誰が来た気配もない。
忍んで来るのかと訝っていたが、皇帝以外の、物音一つ影一つ、感じ取ることは出来なかった。
そんな日、皇帝は丸々一晩、朝までを明かすのだ。
一時だけ、皇帝の前に現れ、去ったのならば、皇帝は義理堅く、朝まで明かす必要は有るのだろうか。

不思議な存在だった。


この度は、机の上に盃は一つだけ。
少しずつ明るくなる部屋を、あたこちと探していると、柱の側に、、。
机の置かれた場所を皇帝の場所とする為に、更に一段高くしてあるのだが、まるで柱と幕に隠れた者を気遣うように、その境目となる高くなった場所に、盆にのって置いてあった。
当然、盃は空であった。

この太監は、皇帝に仕えて長い。
七皇子が皇太子になった頃、簫景琰の様々な噂が飛び交った。
『心を顔に出さぬ』とか、『激怒すると七日七晩暴れ続ける』とか、『無駄口を叩く者は酷く厳しく罰される』とか、、、、、『笑った顔を見た者の行方が知れない』、、、とか云々、、。

この新しい皇帝に、仕えねばならぬと聞かされた日から、正直、この先自分は、もう長い事は無いのだろうと、日々、背筋が凍る思いをしていた。
だが、いざ仕えてみれば、そんな恐ろしいお方ではなかったと、、。
何故か、笑う事は非常に少ないが、決して非常無情な皇帝ではない。
確かに大笑いする様な方ではないが、『噂』の様な姿は全く無かった。
厳しい顔をしていても、人への慈愛があるのだと、民を心から思っているのだと、仕えて程なく知ることが出来た。
笑顔が乏しいのは、その責務の重さからなのかも知れない。
決して全く笑わぬという訳ではなく、何気ない時に、ふと口元に、僅かに溢れる笑顔を垣間見る。
(何とも可愛らしいお方だ。)
作品名:金陵奇譚 ─双の盃─ 作家名:古槍ノ標