エースコンバット レイム・デュ・シュバリエール
◇ ◆ ◇
更衣を済ませ、あたしたちは向かう。
どこに?きっと、あのオヤジ共がニヤニヤと待っているであろうブリーフィングルームに、さ。
「…………」
「…………」
その道中はお互いに沈黙……気まずい雰囲気をアイツが垂れ流しているからさ。あたしまで黙っちまう。
認めるようで癪だが、あたしはおしゃべりなんだ。ちょいとこの空気は耐えられない。
「ほ、ほら。元気だしなよ」
「…………」
けれど声をかけても沈黙。
「そ、そうだ! キャンディ、あるんだけどいるかい?」
「…………」
それでも沈黙のまま首を振る。子犬は尻尾を振りもしない。
あれだけ肝っ玉が座ってるってのに、落ち込むとコレだ。無口ってのは、ちと厄介な性格だねぇ。ちょいとしくじっただけじゃないか。
「……あのねぇ、もうちょいシャンとしないかい?」
「……でも」
……ああもう、まどろっこしい! あたしは一発言ってやることにしたのさ。
「でも、じゃないよ。胸張りな!」
「……え?」
「ここに入りたくてやって来たんだろ? リボンちゃんよ。威勢のいい返事はどうしたよ」
「…………」
「芯を持ちな。ちょっと失敗したぐらいが何だってのさ」
「……うん」
「あたしは……おっと」
もう少し言ってやろうと言葉を吐き出していたが、それよりも先にブリーフィングルームに到着してしまった。
「この続きは中に入ってから。心の準備はいいかい?」
「…………」
そして、黙って頷くアイツを見て、あたしはブリーフィングルームの扉に手をかけた。
◇ ◆ ◇
「おせえぞ、おめえら。着替えにいくらかかってんだ」
「うるさいね。女の子はおっさん(あんたら)とは違うんだよ」
扉を開けるやいなや、教官の声が響く。デリカシーのない声だからフラレるんだよと心中悪態をつく。
そこにいたのは、オヤジ共。バートレット教官に、ピーターのおやっさん……そして、このL.C.社オーナーのグッド・フェロー。
「あ……」
「ご苦労様、二人共」
グッド・フェローはねぎらいの言葉をあたしたちに浴びせ、アイツはソレに応えて深々とお辞儀をする。そうか、アイツに機会を与えたのはこのおっちゃんなんだものな。
「それで、モニカくん。私とバートレットもそうだが、オーナーも君の意見をこの場で聞きたいそうだ」
おやっさんはオーナーにあたしを誘導するかのように視線をずらす。あたしもそれにつられて顔を向け、どこか得意げな顔をしているグッド・フェローのおっちゃんに手を挙げ、挨拶をする。
「へぇへぇ。ご足労ご苦労さまですぜ、おっちゃん」
おっちゃんはあたしに合わせてハイタッチを返す。仲がいいんだ、七年来の付き合いだからね。
そして、おっちゃんはオーナーとして、アイツのことをあたしに聞き始める。
「どういたしまして。それで、モニカ。どうだったんだ、彼女?」
「それはだな……」
あたしは答えを出そうと口を開きかけたが……へへ、その前に聞きたいことがあったのだとにやけてしまった。
「あ、でも、その前に。なんでこんな場違いな子を連れてきたんだい? ロリコン趣味でもあったのかい?」
おっちゃんはその質問に苦笑いを浮かべる。そして「俺じゃなかったらクビだぞ、モニカ」と一言言って、答えた。分かってるっての。
「似てたのさ、アイツの目に」
「……アイツ?」
アイツ……教官やおやっさんのことか?でも、全く似てないし、そもそもおっさんだし、二人共。
……まさか、振られた相手? 元カノ? それとも……隠し子? けど、男も女も、瞳の輝きは同じだし。
「……昔の話さ。シツレイなこと考えているだろ、お前」
「あ、バレちゃった?」
無礼がバレたあたしは愛想笑いをする。グッド・フェローは仕方のないやつだとため息。おっちゃんのそういう優しい所、あたし尊敬しちゃう。
そして、おっちゃんは気を取り直すかのように咳払い。
「……とにかく、素質があると思ったんだ。直感ってやつだ」
つまりは、一目惚れってことだね。やっぱり腑に落ちない理由だ。
「……おっちゃんの気まぐれに付き合わされて、人事もたまったもんじゃないね。あとあたしも」
「代わりに、彼らにはボーナスを上乗せしておくからいいんだ。条件付きとはいえ、俺の無理を通してくれたんだからな」
「オーナー権限ってやつだね。あたしには無いのかい?」
あたしは少し嫌味を言ってやるも、そんなことは大した問題ではないという態度を取るおっちゃん。伊達にオーナー務めてるわけじゃないね、大物だよ。
「お前にも用意してやるよ。だがその前に改めて聞こう。彼女の素養はどうだと思う、モニカ?」
改めて言われたあたしは、アイツの方に視線を移す。
「…………」
まだ気分が晴れていない様子だった。たく、この時から世話のやける子だよ、まったく。
そしてあたしは、視線だけでなく体もアイツに向け、答えを出す。
「そうだね……無謀、と言えばいいのかな」
「…………」
落ち込んでる落ち込んでる。ちょっと責めるようなことを言って、その反応をまずは見る。意地悪だけど、最後の試練さ。
「ド素人で『G』もろくに知らないのに、いきなりヒコーキに乗せたあたしらもあたしらだが、それにしてもめちゃくちゃしすぎだ。わきまえる、ってことを知らないのかい?」
「……ごめんなさい」
うつむいて一言。しっかりと反省しているようだった。
これで最終関門は突破だね。反省できるなら問題ない。
あとはあたしの答えを言うのみ。
「だけど……正直かなり驚かされた」
「……え?」
あたしのさっきまでの様子ではない言葉に、アイツも反応して顔を上げてあたしを見る。
それに応じるように、あたしもアイツを褒めてやることにしたのさ。
「無茶するだけならただのド素人。その無茶をお前さんはしっかり通せる『実力』を秘めている」
「……!」
アイツの目が見開く。空色の瞳がキラキラと眩しいね。こっちまでなんか嬉しくなってしまうようだったよ。
「気に入ったよ、リボンちゃん。お前さんのようにリスクを顧みず、度胸を持って実際にあの場で飛べるやつなんてそうそういない。しかも素質は十分と来た」
「……じゃあ!」
「おう、あたしとしては『合格』。しっかりと訓練を積んだお前さんとなら、一緒に空を飛んだって文句はないと言い切れるよ、レイフ」
「……! ……!!」
アイツの顔が、これ以上無いくらいに嬉しさで溢れてくる。感情が昂ぶっていくのがわかるね。
「…………!!」
その感情のままに、アイツはあたしに近寄ってくる。アイツのこういうときの行動は何をしでかすかわからんから肝を冷やすよ。
「うわ、ちょっ……!?」
そして、アイツはあたしに全力でハグを食らわせてきた。
「っ……! くっ……!」
「お、おいおい、どうしたよ。泣いているのかい?」
安堵と喜びが入り混じり、涙が溢れてしまったようだった。涙もろいんだよね、アイツは。
「あー……よしよし、わかったから落ち着きなって」
照れくさいがしかたなく、あたしはハグしたままポンポンと背中を叩いてやる。なんというか、世話を焼きたくなる雰囲気を醸し出してくるんだよね。本当に『わんこ』って感じ。
作品名:エースコンバット レイム・デュ・シュバリエール 作家名:ブルーファントム