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エースコンバット レイム・デュ・シュバリエール

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 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 で、その年だ。あたしはいつも通り職務に勤しんでいたわけよ。マジメにね。
「おい、モニカさんよ! お前さんヒコーキ乗り回すだけか? いつになったら教える側に回るんだよ!」
「うるさいな〜、そりゃ御上の判断だろう!」
 ……うん、マジメだよ、あたしは。外野がうるさいだけ。
 民間軍事企業の主な仕事が依頼の寄越した軍隊の育成だなんて、あたしは知らなかったんだよ。たく、もっと激しいのを期待していたのにさ。
 いざという時のために熱心に鍛錬しようったって、シミュレーターには新進気鋭の若人優先。実機練習は燃料代がかかるからって、軍から金が出るとき以外は飛べる回数を経歴順に設定される。私は少ない。
……となりゃベテランなのに弟子も持たぬ私どもめは、化石と揶揄されるこの機体のコックピットに追いやられる、というわけ。
「あたしは自分のやりたいように飛べればそれで十分なのさ」
 『レイム・デュ・シュバリエール(L.C.)』に勤めて七年、出来立ての新興企業と共に、あたしはずっと空を飛んできた。それだけだった。
 訓練して、たまに戦場の空を飛んで、酒を飲んで、寝る。
ユリシーズの影響から生じた混乱、それに乗じて小ぶりな内戦が増えた。それで戦地に派遣されること少し増えたけれど、その生活にほぼ変わりはない。
 張り合いのあるライバルが居るわけでもない、小ぢんまりとした軍事企業。ここならいつかなにかを成し遂げられる、爺ちゃんのように。
 そう思って毎日を暮らしている。七年もね。
「いつか見てなよ……と、ここはフレアを巻いた後ブレイクして……」
 どうせ何も起こらない、そんな気持ちを振り切るように想像の中で急旋回。ミサイルをかわす動作をイメージする。それにつられて手に持つ操縦桿を動かし、体も動く。
 さらに敵機をオーバーシュートさせ、あたしがその後ろで陣取るという構図を空想。
 その位置についた瞬間、スティックのスイッチに指をかけ、そして一言。
「FOX2!」
 ミサイル発射の合図。仮想敵は無残にはじけ飛んだ。
「……はあ、早くあたしの番が回って来ないかねぇ」
 終わった後はなんだかバカバカしくなるんだよね、これ。傍から見ればただの妄想遊びにしか見えないって周りは言うし。
「早く練習機なりシミュレーターなり空いてくれないかなぁ」
 決まってこんな愚痴も飛び出てしまう。
 これでも一応、この会社のオーナー、グッド・フェローのおっちゃんには入社当初から褒められてるんだよ、あたし?
 それを子供のお遊びだなんてさ、ひどいこと言う奴もいるよねぇ、まったく。
 そんなどうしようもない事を考えていると、下方から声が聞こえる。
「よう、お喋りプリンセス! 今日も妄想遊びかい?」
 ほれきた、そのひどいこと言う奴。
 あたしの教官で、ちょいとがさつな性格が面倒なジャック・バートレットだ。
 コールサインはハートブレイク・ワン。失恋一号。誰と失恋したんだろうね、このおっさん。
 いつもならお喋り相手になってやるのだが、今日はなんだか機嫌が悪い。追い返してやる。
 と、悪態をつきながらゆっくりと身を乗り出し、その姿を確認しようとしたんだよ。
「なんすか、隊長? 冷やかしなら怒りま……」
 だけど、そこにいたのはいつもの憎たらしいにやけ面ではなかった。
「……は?」
 少女が一人立っていたのさ。
「知らなかったか、俺は変装が趣味でな」
 どこからか聞こえる教官のオヤジ声には耳を貸さず、見つめてくるのは可憐なスカイブルーの瞳。それが、あたしとアイツのファーストコンタクトだった。
「…………」
 明らかに場違いだった。
 『リボン』で右にまとめたサイドテール、ブルーがかかったシルバーの髪型。アイツは沈黙の中でただただ凝視。
 服装も……ええと、このふりふりが目立つ服装はロリータ・ファッションとか言ったっけな。
フライトスーツやツナギを着ている人間の中、間違いなく一人浮いていたね、アイツの出で立ちは。
 例えるなら、ロックアーティストばかりのライブハウスに、ピアニストが演目を披露しに来るようなものだ。
「モニカ君、バートレットは君に新たな仕事を持ってきたのだよ」
「おやっさん?」
 その後ろから紳士的な口調で話しかけてやってくる、頭頂部が非常に眩しいおっちゃんがここの整備長。
 ピーター・N・ビーグル。皆からはおやっさんと呼ばれて慕われている人だ。
「バートレット、そんなところに隠れて遊んでないで、モニカ君に彼女を紹介してやってはどうかね?」
 おやっさんは少しかがんで機首の下を覗き込む。失恋一号はそこに隠れているみたいだ。
「あいあい、そんなに俺様のご尊顔を拝みたいか、古狸め」
 おやっさんの言葉であたしの真下からニタニタと笑いながら教官が出てくる。隠れて遊んで子供かよ。七年選手のあたしなのに、おちょくって楽しんでさ。大人げないよね。
「私になにか言うよりも、まずはこのお嬢さんの紹介をしてはどうかね、バートレット?」
 そんな教官におやっさんは呆れながら、紳士(っぽい)ヒゲを触り、教官に自分の仕事をするように促す。
「はいよ、ユーモアの通じないオヤジだぜ」
「嫉妬だよ。私には君ほどセンスが無いからね」
 仲の良いおっさん達だと、二人の会話にいつも思うよ。
 それはさておきと、あたしは無愛想な少女に目を移す。
「…………」
 だが、いざもう一度見たところで何を考えてるのやらわからない。オヤジどもの会話など興味はないと、沈黙のままずっとあたしを見つめてくる。
 こんな可愛らしい、どう見ても思春期頃の小娘がなぜ……
「……じっと黙ってるけど、何なのこの子?」
「おいおい、邪険にするなよ。狸親父が言ったろう?」
 おやっさん、新たな仕事って言ってたけど……まさか。
「お前の悪い勘は当たるようだな、空の上で役に立つぜドウモト」
 ニヤリと笑う教官。内心の叫びもお見通しだぞと言うかのように。
「……勝手にあたしの心を想像しやがって」
 とあたしは言いつつ、内心ではなんてこったと叫んでいた。
「へっ、どうだか」
 おいおい、マジでマジになのかい?あたしの新しい仕事ってのは……
「ドウモト、お前さんはこいつの『親鳥』だ。オーナーから直々の命だぜ、ありがたく思いやがれ」
 こ、こいつのお守りだなんて冗談だろ……そんな気持ちが抑えきれてなかったみたいだね。
 さっきまで無表情だったアイツの顔が、わずかに緩んで口を開いた。
「……変な顔」
 クスリと微笑を浮かべながらの一言。アイツの第一声だった。
「……はぁ〜〜っ」
 この手のはどう相手すりゃいいものなんだい。この先の苦労を想像すると、ため息しか出なかった。

 ◇ ◆ ◇

「……なんだってあたしが。人の面倒見るなんて柄じゃあないのに」
「…………」
 使う者の少ない女子更衣室。あたしとアイツの他に人は居ない、二人きりの空間。
 そんな状況だというのに、あたしはアイツの目の前で前で愚痴ってしまっていた。やな奴になっちまってるね。
 オーナーからの急な仕事。どう見ても世間知らずなお嬢様って感じのド素人のお守り。