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ブルーファントム
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エースコンバット レイム・デュ・シュバリエール

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 もしかしたら、アイツはあたしに成功を結びつけてくれる『リボン』なのかもって……ちょいとスかしてるかね、この言い方は。
 まあ、その時はあたしの出世しか考えてなかったけれど。とにかく今の態度を少し変えて、真面目にやって見る価値はあるかもしれないと思った。かも、だけど。
「……たっくねーむは?」
 そして、アイツはまだかまだかと命名を急ぐ。
「急かすなよ。トロそうに見える割に気短だな」
「トロくない」
 教官の言葉に、微妙に語気を強めて反論するアイツ。「トロい」とかそういう言葉が嫌いなのかもしれない。あたしの愚痴には反論して来なかったし。
「怒るなよ、ちょっとしたジョークさ。 さて、お前さんのTACネームを発表するぜ」
 あたし達は教官の言葉を待ち、二人して息を呑む。あたしにも少し緊張感が生まれる変な空気だ。
「……へへ、ヤツのツルッパゲに感謝するんだな」
「……んん?」
 しかし、おどける教官に気が抜けてしまう。
「お前のTACネームは『レイフ』だぜ。ピーターのオヤジの案、なんでも『知恵の狼』とかそんな意味らしいが、髪の毛の量に似合わずなんともスかしたネーミングだぜ」
 へえ、おやっさんがつけたのか。いつも思うが、なかなかロマンのある性格なんだよな、おやっさん。あの禿頭を想像すると、少し興ざめだけど。
 でも、『狼』は変だよね。静かで知的、というのはわかるけれども……どちらかというと『わんこ』というイメージだよ、これは。
 ……おやっさんのセンスはあたしにはよーわからん。
「ひどい言いよう」
「いつもああなのよ、あの二人」
「でも、いい感じ。『レイフ』」
 だが、前に座る子犬ちゃんは、その名をお気に召したようだ。ニコニコと表情が明るくなってるのが想像できるね。
 しかして、教官のおふざけなおしゃべり無線に、ノイズ混じりに声が割り込んできた。
「……練習機の無線から全部聞かせてもらっているよ、バートレット」
「盗み聞きたぁ、いい趣味だ」
「まったく、知ってて言うのだからね、君は。おかげで私への誤解が広がる」
「へへへ」
 教官の、やはり腹立たしい笑みに「まったく、言っても聞きやしないな」とおやっさんは会話から抜け出し、教官が改めたように声色を変えて話を続ける。
「さて、『レイフ』。お前さんがどんな奴かは俺達には全くわからねぇ。後ろのチャッティにも言われたと思うが、しっかりと自分の価値を見せつけるこったな。面接の二の舞いは嫌だろう?」
「うん」
 アイツの返事に曇りはない。教官も無線越しにだがそれを感じ取る。
「それを心してるならよし。離陸許可、あとは任せるぜ、チャッティ。もんでやれ!」
 そして、いよいよファーストフライトの許可が降りた。あたし達に緊張感がまとわりついてくる。
「よし、『レイフ』。バイザーの飛行情報は映っているな?」
 あたしは自らの眼前に広がる、緑色のHUD表示を意識しながら確認する。
「うん、四角いやつだね」
 アイツは間髪入れずに答える。やる気は十分だ。
「大丈夫だな。 さあ、備えろよ。離着陸は流石にあたしがやるが、離陸してからがお前さんの仕事だ」
「うん」
「うん、じゃなくて、あたしの言葉には「イエスマム」で肯定を示せよ。さ、ぶっ飛ばすよ!」
「……イエスマム!」
 あたしの声に呼応して、アイツはその日一番の声を上げた。
 そして、青く広い大空を仰ぎ見て、あたしは後席のスロットルレバーを思いっきり前に倒し、加速を始めた。
「チャッティ、レイフ、テイクオフ!」
「……ッ!」
 体に圧をかけながら、ブルーファントムはどんどんと宙に浮いていった。